第2話 食卓を囲む
お久しぶりです
この章はミカのお話になります
前話を消したりといじくったので、もしかしたら読まれてない方もおられるかもしれません
「あっ!話とんでる!」と思われた方は前話を読んでみてください。
◯◯◯
昼前になり、おもてなしの準備も終わりつつあった。
日課のために出かけていた二人(+ミカ)はとうに帰宅しており、センセイとミカは先日に続いて何やら外でガチャガチャとやっていた。
「イチロー」
セナが、背後で俺の名を呼んだ。
「どした?」
振り返り尋ねた。
「あの娘、思っている以上に危うい」
セナの視線は、小屋の外───ミカへと向けられていた。
どう答えるべきかと逡巡した俺へと、セナが告げた。
「わたしやセンセイに出来ることは限られている。彼女を助けられるのは結局のところイチロー───あなただけ」
「俺だけ……?」
「……かもしれない」
「かもしれないかー」
「そうよ。かもしれないの」
セナが柔らかく微笑んだ。
出会った当初では絶対に見られなかった表情だ。
「わたしはいつだってあなたを応援している。だから気負わずにあの娘の力になってあげなさい」
◯◯◯
盛り付けた料理と食器を並べつつ、タイミングを見計らってセナに外にいる二人を呼んできてもらった。
「うおおぉぉ! これじゃよこれ!」
センセイがテーブルに並ぶ料理を見て喝采を上げた。
褒められるのは素直に嬉しい。センセイしゅきぃ。
「早くみんなも座って」
声の主はセナだ。言葉通り自身は既に席についており、箸を構えて【みんな早く席につくのだ】のポーズを取った。
彼女の圧に従って、俺達はバタバタと席に腰を落とした。
すると正面に座ったセンセイが、バチコーンと俺に目配せした。
センセイが俺の脳内に何かを語りかけてきた、気がした。
なになに『ムコ殿、せっかくのご馳走の場じゃから一言たのむ』だって?
幻聴か、テレパシーかの判別がつかなかったが「くっふふ」と笑うセンセイ的に後者の線が濃厚であった。全く、能力の無駄遣いでもいいところである。
「それでは俺から一言。センセイ、ミカ、中々に大変な旅路だったと思う。たからこそ今日は、気兼ねなくハメを外して欲しい。二人の無事と、労いを祝して乾杯」
各々のグラスには、各々の好みの飲み物が注がれている。
みんながそれを掲げ、それを合図に久しぶりに四人での食事が始まった。
肉食系女子であるセナとセンセイの二人は当然ながら、お肉を揚げたものや串焼きをはじめとした各種お肉料理を中心にもりもりと頬張っていた。ミカはどうにも食が進まない様子であったが、センセイから勧められるがままに、彼女のために用意したポトフっぽいスープや、ロールキャベツや、ポテトサラダなんかをゆっくり口にしていた。
食事の最中、会話らしい会話は主に俺とセンセイとの間で交わされた。セナはときおり合いの手を手をいれるくらいで、どちらかと言えば聞き役であったし、ミカにしてもセンセイが「そうだったのう?」と話を振ったときに、返事を返す程度であった。
ただ、ミカの調子が良くないと言えども、食事会の空気自体は悪くなかった。しかし俺は心配であった。ミカは、辛い状況でも、それを表に出さない。出会った当初は、心が凍りついたかのように、いつだって無表情であった。
何も今現在、俺と向かい合った位置に座るミカが無表情だと言ってるわけではない。ただ、辛いことを隠すのが上手な彼女が、それを心の内に溜め込んでいるんではないか、そしてそれが限界を超えてしまったのではないかと憂いているのだ。
そして肉食系二人の予定以上の食欲に、途中空になった皿に手早くおかわりを追加したりといったハプニングはあったものの、そんなこんなで食事の場はつつがなく進んだ。
「釜見てくる」
タイミングを見計らって俺はその場を離れたのだった。
◯◯◯
焼き立てほかほかのアップルパイをテーブルに運んで切り分けた。ナイフを入れると音でわかるサクサク感。焼き加減は最高だ。
たっぷりの砂糖、柑橘、ラム酒でリンゴの下準備をして、生地にはバターをこれでもかと使った。特に砂糖とバターは『えっ!? こんなに入れるの? 死んじゃう! 入れ過ぎで死んじゃうよおおおおお!』と思われる以上に大量に加えるのがベストなのだ。
切り分けたそれを、四枚の新しい皿に盛り付けると彼女達の前に置いた。今回のアップルパイはサックサクな食感だけでなく、味も絶対に間違いないはずだ。
「熱々の内に食べようぜ」
俺は彼女達へと軽く促した。しかし、誰も手を付けない。
セナの視線が、そしてセンセイの視線がミカに向けられていた。
当のミカはうつむき、その表情は俺には見えなかった。
数秒ほどそうしていたか、ミカが顔を上げると俺を見据えた。
「イチロー、私の話を少し、聞いてくださいますか?」
勇気を振り絞るように、ミカが俺に尋ねたのだった。
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