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第19話 DIYとあとしまつ②

○○○




 久し振りにミカを見たとき息を飲んだ。

 彼女の表情は暗く、食事もロクにしていないのか、とてもではないが、健康とは言えない顔色であった。


 彼女が旅に出る前に聞いた話によると、彼女はセンセイと共に旅をし、これまで彼女達が勇者パーティとして巡った街を再び訪ね、贖罪を行うことが旅の目的であった。


 それは彼女を───ミカを、救うはずであった。

 しかし、あの日の彼女の表情より───


 何があったのかは聞けなかった。

 センセイからも『今はまだ聞いてやるな』という空気を感じた。

 そうして、ミカがセンセイに促され、小屋へと足を踏み入れた。


「しまったなぁ」


 ここ数日は忙しくて、おもてなしする準備が出来ていなかった。

 んー、どうすっかー? と頭を悩ませていると、《連絡の宝珠》が音を発した。またかい。今度はいったい誰だなんだぜ?


「あいよ、どちらさんで」


 それに応答したのは、シニカルな声であった。


「イチロー、私だ。アノンだ。ちょっとすまない。唐突で申し訳ないのだが───」


 それは彼女からの申し出であった。




○○○




 商売柄敵が多い彼女(アノン)は今回の件で、彼女の生命線とも言えるアイテムであるフードを失ってしまった。正確には、全損ではないので修復が可能なのだそうだが、どうもに時間がかかる様であった。


「クロアには全速力の最優先で修理したまえって注文しておいたんだが……彼の仕事事情によるかな」


「クロアに頼んだのか……クロエと二人で海を見に行くって言ってたのに、気がついたらいつの間にか団員に新しい仕事を割り振られてて、いつまで経っても副団長を辞めれないって泣いてたぞ……そんな奴にお前……」


「くっく」


 そんな会話をしつつ、アノンの願いとやらは、要するに隠れ山の俺達のいる小屋でしばらく匿ってもらえないかというものだった。


 こればっかりは絶対に親友の力になってやりたかった。

 だから小屋を出る前にセナへと頼み込むと「ああ、フードの……仕方ないわ……万が一何かがあったら頭蓋骨を握り潰せばいいから」と多少物騒ではあるが、了解を取り付けていたのだった。


 そうして数時間後、ようやく彼女を連れ、隠れ山の小屋に戻ると、センセイが口元に人差し指を立て「しぃ」と言った。見るとミカが布団で寝ていた。


「どうも最近は、寝られんかったようでのう。久し振りに寝られたようじゃ」


 センセイが眉を八の字にした。

 セナが溜め息を()いて、首を振った。


「ちょうど良い。すまない私もだ。私もここ数日眠れていない。どうやら私も限界みたいだ」


 状況を察したアノンが目をしばしばと擦った。そうして、あれよあれよという間に就寝の準備を終え、いつの間にやら寝息を立てていたのだった。




○○○




 数日振りにやっと眠れたというアノンは昼頃に目を覚ました。

 対してミカは、早朝に目を覚まし(といっても日が落ちる前に眠りについたのだ、十分に眠れたはずだ)センセイと共に、何やらの工作を始めたのだった。


 そして、現在に至る。


「というわけで、イチロー。互いに襲撃について情報交換をしようか」


 アノンが開口一番告げた。


「そうだな。わかった。さっそくだけど、俺から聞かせてもろおう。あの後《暗闇の猟犬(ダークネスハウンド)》と《正体不明(アンノウン)》はどうなった?」


 これこそが事件の核心だ。


「そうだね。私もそこから話をしようとは思っていた」


 アノンもそのつもりだったようだ。


「まず《暗闇の猟犬(ダークネスハウンド)》についてだけど、王城にて君が対処した集団は《ナンバーズ》という。そして、王都のワイズマン公爵家にてアンジェリカくん達と相対した集団は《カラーズ》といい、ボルダフにてアシュリーくん達と相対した集団は《パーツ》という」


「コードネームってやつか?」


「まさにそれだよ。《暗闇の猟犬(ダークネスハウンド)》は決して多くはないけれど精鋭揃いで、総数でいえば、ちょうど三十人足らずかな。《番号》と、《色》と、《体の部位》でメンバーに名前をつけていたんだろうね」


 厨二かよ、とは言わなかった。

 なんだかんだ、彼らは手強かった。


「ワイズマン公爵家は、激戦地になってね。こちらにも幾人かの被害が出たけれど、アンジェリカくんの活躍もあって、彼らの目的を何とか阻止することが出来た」


「そうか、アンジェリカが……」


「ただ、余裕はなく、ワイズマン公爵家での戦いでは、そのほとんどは討伐せざるを得なかったそうだ」


 仕方ないことだ。殺すよりも、捕らえる方がよっぽど難しいのだから。


「それから、これはボルダフでの話だけど、突然半透明の少女が現れて、戦況をムチャクチャにしたそうだ」


 セナァァァァァ!!

 俺が彼女の方を見ると、彼女はプイと顔を背けた。


「具体的には、謎の少女が突然現れたことで、彼女に新手の敵なのかと敵意を抱いた者達を、敵味方関係なくボッコボコにしたそうだ。まあ、そのお陰で、こちらでは何と死者はゼロだ」


 俺がホッとしていると、セナは俺の方へ顔を向け「むふー」と鼻息を荒げた。


「ただね、ここからは王国の落ち度ではあるが、無傷だったはずの敵に、無理やり情報を吐かせようとした際、何らかの術式が仕掛けられていたのか、連鎖的に全員が亡くなった。恐らく呪術の類だろう。今回の仕事に着く前に、自分達に前もって、なんらかの術式を掛けていたんだと思う」


 死が近く、死が軽い。人同士の争いで多くが亡くなるのは、俺にとって初めての経験でもあった。


「それを考慮して、君が捕らえた《ナンバーズ》は先に、丁寧に丁寧に呪術を取り除かれてから、新しい首輪をつけられて、今回彼らの対処に当たった政治屋───つまり国王や宰相達に飼われることになった」


「飼う?」


「そう、『飼う』、だ。といっても、厳正なる判断によって、危ない思想の持ち主は排除されるだろうが、ただ、仕方なく殺しを生業にしていた者達は、誓約魔法でガッチガチに縛られて、これからは王国のために生きることになるだろうね」


 生きていれば良いことがある、などとは口が裂けても言えない。

 頭が替わったとて、彼らがやらされることは───いや、これこそ考えても仕方のないことだろう。


 


 


本日コミカライズ版をマンガBANG!にて更新しております。ミカとアンジェリカの過去と現在。

あのときミカはこんなにも冷たい表情をしてた───という回です。よろしければ一読を。


活動報告にてコミカライズの感想もしております。ぜひとも一読よろしくお願いします。


本編ですが、次は正体不明の二人がどうなったかというお話ですね。それでこの章も終わりとなります。




麒麟さんの感想は活動報告にてしております。


そちらもよろしくね!



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 いばら姫、そうかアシュだったのか、と納得しました。 敵味方関係なくぶっ飛ばすの、運命の女様お茶目! まあ、言ってる場合じゃないのですが…… そしてミカの精神的シ…
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