第17話 聖騎士 vs《正体不明》②
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《正体不明》は俺を警戒してか、一定以上の距離から足を踏み入れてこない。ジリジリと緊張感が高まった。
「イチロー、彼の鎧は常時攻撃無効というわけではなくて、どういう基準か攻撃と判定したものを無効化する。だから触れてるワイヤーを通して、意識外からの雷魔法で一瞬ではあるがダメージを与えることが出来た」
アノンは、それを敵の隙と捉え、俺に情報を寄こした。
「アノン、ありがとな」
これで算段が一つ増えた。
「どういたしまして」
《瞬動》により、足と脳の部分加速───思考を引き伸ばし、最高速度で地を蹴った。
敵が反応出来ない速度で近付き一瞬で背後に回る。
「なるほどなぁ」
ぺたぺたと《リジェクトハート》と呼ばれる鎧に触れてみたら、予想通り触れることは出来はした───しかし、それも一瞬のことで、何らかの力で発生し手が弾かれた。
「貴様……この俺を舐めやがって」
ととっと再び距離を空けた俺を、《正体不明》は睨みつけて歯噛みした。《リジェクトハート》が反応したのは《正体不明》が俺が鎧に触れてることに気付いてから、数コンマ経過後のことだった。
「《超光速戦闘形態》」
詠唱は既に終えている。彼の言葉には取り合わない。
光速の世界へと移行し、先程をなぞる。一足飛びで彼の左後背部に到達し、そのまま何の捻りもない拳を叩きつけた。
「ぶぅえあああああぁぁぁぉーーーーーー!!」
やはり通った。完全なる死角からの超高速の一撃だ。
《正体不明》の彼は、ハリウッド映画でミサイルを受けた人物みたく、ものすごい勢いで吹っ飛び、空間を構成する面へと大の字で激突し、ずるりずるりと地へ落ちた。
「これを繰り返せば倒せるな」
俺の呟きを聞こえていたのか、倒れ伏した《正体不明》がガバリと顔を上げた。
「あ、ああ、ああ、これ以上、お、俺に危害を加えない方がいいぞ!! 俺を殺せば、ライオネル皇国が黙っちゃいない!!」
えぇ……国の名前出しちゃってもいいの? こいつヤバくね?
アノンを一瞥すると、同じことを考えていたのか目があった。彼女は眉間に皺を寄せて肩をすくめた。
「さっきもしたやりとりだ。お前がどこの誰だろうが関係ないと言ったはずだ」
「お、俺はライオネル皇国の十一番目の皇子───いとやんごとなきライオネル皇の青き血を受け継ぎしノルアルドだぞ!!」
えぇ、正体明かすの……?
俺がドン引きし、再びアノンへと視線を向けると『あちゃー』とばかりに、額に手を当てていた。
「イチロー、彼が誰であろうと構わない。無力化して連れて行きさえすれば交渉は上が勝手にやってくれる」
アノンの発言に、ノルアルドの顔が青褪めさせた。
「ちょ、ちょっと、待て、俺は皇子なんだぞ……!?」
「だからなんだよ?」
「わかった! わかった! お前達の魂胆はわかった!」
「はぁ?」
「お前達が欲してるのは金だろ? 俺から金を引っ張ろうとしてつれない態度をとってるんだろ? わかったから!! お前達、この件でいくら貰ってるんだ?! 白金貨五十枚か! いっても百枚には届かないだろう!! なら俺は倍の額以上の白金貨二百枚を支払う!! だから俺を見逃せ!! そうだ!! これを期に俺に仕えろ!! そうすればお前達の望むだけの物を差し出そう!!」
俺もアノンも黙って聞いていたけど、
「聞くに耐えねーな」
正直な感想が口をついた。
こいつはどうも俺の嫌いなタイプだ。
チートにあぐらをかいて散々好き勝手し、自分が窮地に陥ると一転、自分の肩書を持ち出して脅し、それでも駄目なら金銭をちらつかせて命乞い。その情けない姿にどっかの誰かを思い出すまである。
「死ぬことはないから、安心してくれ」
再び《超光速戦闘形態》を発動───彼に接触し、まずは兜をぽいっ!───篭手をぽいっ!───肩当てをぽいっ!───ぽい! ぽぽぽい! ぽいぽい!───俺は彼の装備を剥ぎ取り続けた。それもこれも攻撃判定が発生するまでの一瞬の出来事だ。
「こんなもんだろ」
一仕事を終え、パンパンと手を叩くと、そこで時の流れが通常へと還り───
「へ、へあぁぁぁぁぁ!! 何で!! 何でだぁぁ!?」
パンツ一枚のみっともない姿のノルアルド(ライオネル皇国皇子)が現れた。彼は恥ずかしがって身体をくねらせながら、両手で必死に露出部を隠した。
「感謝しろよ、手加減してやる───」
俺の拳の連撃が次々と無防備なノルアルドへと突き刺さった。
腹、胸、レバー、肩、顔面、顔面、顔面、顔面、顔面、顔面───そのどれもが確かな手応えを残し、
「ぐぶうおえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
パンツ一丁のノルアルドは大量の涙をまき散らしながら、宙を待った。意識を失いぴくぴくと痙攣している彼をすかさず光魔法にて拘束すると、
「やったぜ」
俺はアノンへとサムズアップを決めた。
「やったね!」
アノンも返すように親指を立てたのだった。
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