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第14話 《匿名》vs《正体不明》③

◇◇◇



連鎖式(チェイン)フレア》───アンジェリカ・オネストのオリジナル魔法の一つである。無数の火種をばら撒き、一定間隔で起爆させることで連鎖的、永続的な爆発を起こし、乗数的な威力をもたらす大技である。その使用は、賢者と呼ばれるアンジェリカの驚異的な魔法技術と知識があってこそ可能とされるものであった。


 実際にその通りであった。アノンの用いたそれは、アンジェリカの無数の(ほのお)によって起こされるそれとは程遠い、二桁にも届かない、九つの(ほのお)によって起こされた魔法であった。


 とはいえ、同時に九つの(ほのお)を制御することは並大抵の技術では到底不可能なものであり、かつて万能と称されたアノンだからこそ成し遂げた業であった。そして、賢者のそれに比べると著しく不完全な魔法ではあるが、威力はその難易度に見合うだけのものがあった。


 だから、出来ることならこれで終わって───


「無駄だ。俺に攻撃は通じない」


 爆炎に声が響いた。ノルアルドの声だ。

 煙が晴れ二人の姿が見えた。


「フード野郎───ようやく姿を見せたか」


 一撃必殺ともいえる《連鎖式(チェイン)フレア》の使用に意識を割いたせいで、姿を見せることとなってしまった。

 一度姿を目撃されたあとに、再び完全に姿を消し去ることは難しい。というか、この緊迫した場面では不可能であった。


「失礼な。フード野郎とは、何とも風情のない呼び名だね。ワタシの名は、ヘクター・ロドリゲス・15世」


 偽名であった。


「黙れフード野郎。ふざけてんじゃねぇぞ。偽名だろ」


 即バレであった。

 あらら、私もイチローくんと変わらないねぇ。

 などと独りごちながらも、アノンは分析を続ける。


 やたらと防御が固い兄ノルアルドが、妹ウィズを護っている。

 彼の言葉からも、彼自身自分の防御が絶対に破られることがないと確信していることが伺えた。なら、単純な話だ。《正体不明(アンノウン)》のウィークポイントは妹であるウィズだ。

 また、兄ノルアルドの防御の正体は依然として不明であるが、妹ウィズの防御の正体は間違いなく結界であった。


「全く……呆れたバカだね。偽名かどうかを相手であるワタシに聞いてどうする」


 軽口を叩いた。煽って少しでも判断を鈍らせるために。

 アノンはマジックバッグからすぐさまソレ(・・)を取り出せるように意識した。


「ほざいてろ。結局お前がどう足掻(あが)こうが、後少しでお前の人生は終わりだ」


 後少し───それがどのくらいか───相手には必殺の何かがあるのだ───ならそれまでに───


「はぁぁ」


 アノンが一度深く溜息を()くと、同時に駆けた。


「なっ───!!」


 ノルアルドが一瞬戸惑った声を出した。妹ウィズは相変わらず何らかの詠唱を続けていた。


 構わない。発動前に潰す。


 急発進に急加速───的を絞らせない動きで《正体不明(アンノウン)》の兄妹を翻弄し、二人へとぐんぐんの距離を詰めた。そして、再びマジックバッグへと手を入れると、マジシャンがバックパームでトランプを隠すかのように、彼らの死角をついて準備してたソレを取り出した。


 そして、妹を庇い、構えた剣を振りかざしたノルアルドを巧みに避け───右手に隠されていたソレ───パイルバンカー型魔導兵器を───ガチッッ───妹ウィズの結界に接触させ───


「やめろぉぉぉぉぉ!!!」


「やめると思うかい?」


 起動させた。


 轟音───からのガラスが割れたような音が響き渡った。

 ウィズの結界が完全に破壊された音であった。

 結界が失せ、剥き出しになったウィズを前に、やっと一人目───とアノンが内心一息を()いた───その瞬間であった。


「間に合ったか」


 ノルアルドが呟いた。


「《隔離(ルームメイク)》」


 ウィズが告げた───瞬間、彼女を中心にした半径十メートル程の生物の全てが、彼女の杖から発せられた光に飲み込まれた。




◇◇◇




☆《ルームメイカー》☆

 かつてライオネル皇国宝物庫に存在していた《神話級武具》の一つである。現在は暗殺者である《正体不明(アンノウン)》の妹が装備している杖である。

 持ち(ぬし)の魔力を大幅に向上させると共に、一流の結界作成能力を付与する。さらに《ルームメイカー》最大の特徴は、その杖を用いることで、通常世界とは異なる空間を作成することを可能とし、対象としたものを、生物、非生物問わずに隔離することが可能とする。また作成された空間は、持ち(ぬし)の熟練度に従って様々な制約を付与することが出来る。




◇◇◇




「何ボケっとしてんだ、フード野郎」


「一体、ここは───」


 アノンは周囲を見回した。

 そこはおよそ一辺15m〜20mほどの立方体と言うべき空間であった。何もなく、ただ白いだけの空間だ。

 中には、自分と《正体不明》の二人だけ。


「ここ? ここはお前の墓場だ───!!」


 ノルアルドが、こちらへと走り出し、剣を振りかぶった。

 彼の剣は、それなりのものであったけれど、所詮は"それなり"であった。アノンは自身の技量を下回るノルアルドと対峙したが、油断はしていなかった。彼の攻撃を避けつつも、アノンはバイルバンカー型魔導兵器をマジックバッグへ戻すと、すかさず剣を取り出した。ちょうどそのとき、妹ウィズが、声を張り上げた。


「兄さーん! 先に戻ってるからねー!」


 兄が頷くのを確認すると、妹ウィズがこの閉鎖空間から姿を消したのだった。


「というわけで、だ。フード野郎、手こずらせやがって」


 その言葉を皮切りに、ノルアルドの殺意ある剣が振るわれた。しかしアノンは身軽にも、その全てを避け、逆にノルアルドの胴を叩き斬った。手応えは十分。しかし───


「無駄だと言ってるのがわからないか?」




◇◇◇




☆《リジェクトハート》☆

 かつてライオネル皇国宝物庫に存在していた《神話級武具》の一つである。現在は暗殺者である《正体不明(アンノウン)》の兄が装備している薄手の全身鎧である。

 敵意に反応し、攻撃を完全無効化する。




◇◇◇




 無傷。ノルアルドのローブの下にある鎧を見た。

 一目でわかる業物だった。傷一つない。

 これを打ち破らなければならないのか……さて。

 アノンはここに来て初めて冷や汗を流した。


 相対するノルアルドが三度(みたび)剣を振るった。

 それほど洗練されていない剣であった。上段から振り下ろされたそれをアノンは己の剣にて受け───



◇◇◇




☆《ヒーテッドバターナイフ》☆

 ナイフという名称ではあるがれっきとした剣である。

 かつてライオネル皇国宝物庫に存在していた《神話級武具》の一つである。現在は暗殺者である《正体不明(アンノウン)》の兄が装備している剣である。ふざけた名に反して凶悪な性能を持つ。

 この剣による攻撃を受けた装備が《伝説話級武具(レジェンダリィ)》未満の性能であるならば、一つの例外なく、まるで熱したバターナイフでバターを切るかの如く切断される。




◇◇◇




 ノルアルドの剣がアノンの剣を音も立てずに両断し───止まることのない刃はついにはアノンを切り裂いた。

 





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アノンの戦いは次くらいで終わりですね……

どうなってしまうのか……

デュエルスタンバイ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 なるほど、蓋を開けてみれば簡単、超絶チート級の魔道具を使ってるから強い、ということでしたか。 やることなすこと一切工夫がない上に無駄に余裕綽々なのは、やはりこう…
[良い点] 最後の一行で吹いてしまった。
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