第11話 聖騎士 vs 《暗闇の猟犬》⑥ / 《匿名》vs《正体不明》①
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振り降ろした《光収束》がパフィ───の影に突き刺さった。周囲にいる人達の『この人何してるの?』という視線が気になったが気付かない振りを決め込む。それから十秒もしない内に、影が原型を保てずにどろりと溶けた。
「なっ……!」
エリスパパが驚愕の声を上げた。
不定形の影が地面に浮かび上がり実体となった。
それはやがて人型となり、うつ伏せに倒れた、老年の男性へと変化した。俺はそいつを油断せずに光魔法にてガッチリと拘束した。
七人存在した暗殺者達の最後の一人だ。
特に気配の読みづらい厄介な敵であった。
「恐らくこいつ自身が《暗闇の猟犬》の最後の手段だったんでしょう。全てが終わったと俺達が気を抜いた瞬間、陰から飛び出して標的を殺害し、もしかすると、その後にでも、影を渡って逃げていたかもしれませんね」
「何と……ッッ」
騎士団長が歯を食いしばった。
式符セナと俺がいなければ、少なくともパフィは危険な目にあっていたことを考えると彼が己を責めても仕方のないことだった。
そこで式符セナにしばかれて気を失っていた暗殺者が目を覚ました。
「まさかアンタまで、ここに来てたとはな───《ナンバー・ドメイン・ゼロ》」
暗殺者が「くっく」と笑った。
ナンバーがどうだとか、ゼロがどうだとか、恥ずかしくないのかと小一時間問い詰めてやりたいまである。
「しかもだ、来た挙げ句アンタがやられるだなんて、俺には予想なんて出来ない。悪い夢をみているみたいだ。アンタ以上の化け物がいるだなんて……」
暗殺者の彼は顔面ブルーレイのまま独白しているし、エリスパパが悔恨で身体を震わせていたし、パフィやシエスタさんや宰相のじーさんと積もる話もある。しかし、
「騎士団長殿、こいつらの拘束は絶対に解けませんが、それ以外の方法で逃走する恐れがあります。だから後始末は貴方に任せます。私にはまだやるべきことがありますので」
階段を登り、彼らから見えなくなった所で、小型化した《鶴翼の導き》によって次の場所へと跳んだ。
◇◇◇
王城が襲撃されたちょうどその頃、アノン達の護りし、マスカレード侯爵家に訪れた二人の人物がいた。『訪れる』というと、穏やかな表現ではあるが、それは何も誇張したものではない。彼ら二人は、マスカレード侯爵家の屋敷へと、真っ正面から入ったのだった。
正々堂々───というわけではない。彼らは、これから先自分達の前に立ちはだかるであろう敵を何の脅威とも思っていないのだ。
要するに彼らは、究極の舐めプをした結果、暗殺対象の屋敷へと正面から乗り込んだのだった。
二人の暗殺者は、見つかろうが見つからまいが構わないと、がやがやと楽しそうに話しながら、物音を全く気にせずに、屋敷に訪れ、その入り口に配備された守衛を消し去った。音に気付き、屋敷に集められた名うての探索者や傭兵数人が暗殺者の前に躍り出た。
もちろん、襲撃がたったの二人であるなどと予想の出来るわけもなく、もちろん他の暗殺者がいることを警戒し、屋敷の中にはアノン達を含めた戦力が配備されている。
しかし、彼らにとっては敵の数がどうだとか、敵がどこに配置されてるだとか、そんなことは些事である。
なんなら、素顔を見られても構わない。だって素顔を見たものはここで全員死ぬのだから───
「ねぇ、兄さん! 今日も大漁だね」
「ああ、ウィズ、期待通りだ! 今日も楽しい楽しい夜が始まるぞ!」
彼らは歓喜の声を上げた。前方から屋敷の守り手が二人飛び掛かってきた。しかし無駄だ。《正体不明》の二人の内、ウィズと呼ばれた人物が杖を振ると、守り手の二人は元から存在しなかったかのように消え去った。
その後方で詠唱していた人物がようやっと、
「化け物め!! 喰らえ!!《ファイアランス》! 」
中級魔法を唱えた。がしかし、再びウィズが杖を振ると、
「うおおおおおああああ」
炎の槍諸共、その術師も姿を消したのだった。
二人はその間も歓談をやめない。そしてずんずんと屋敷の中を練り歩く。出てきた守り手はすぐに消した。彼らのすることはたったのそれだけ。そうして、十人程は消し去った頃だろうか、
「むっ……」
《正体不明》の兄とされた人物の首に衝撃が伝わった。衝撃の正体は巨大な魔獣さえ貫く銃弾であった。
「一体、誰だ?」
「兄さん、どうしたの?」
殺傷力抜群の特殊銃弾にも関わらず、ダメージは全く見られなかった。
「不意打ちを喰らった。お前も気をつけろ」
「おっけー! 兄さん!」
特殊な銃弾を放ちし魔銃を、左右の手それぞれ構えたその人物は暗殺者を観察する。そして、姿を表すことなく、音も出さずに、その場を神速で駆け、暗殺者二人へと銃弾を雨霰の如く浴びせたのだった。
本日コミカライズ版をマンガBANG!にて更新しております。ついにエリスさんの凛とした感じが崩れる回です。エリス……きゃわわ
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