第4話 どうしようもないほどに
少し長いけど許して…許して
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「俺が参戦するにあたって必要な情報を頼む」
「今回の襲撃に関する情報は、信頼にたる者にしか伝えていない。これは"こちらが勘づいている"という事実を向こうに知られたくないからだ」
「なら、関係者───例えば王城にいるパフィや王様達はこのことを?」
「四箇所同時に襲撃には、もちろんメインとなる暗殺対象者がいる。もし彼らが何も知らずに外出してしまえば、対処のしにくい外での戦いとなってしまう。だからそうならないためにも、王をはじめとした各貴族家の当主や、それに準ずる者には伝えてある」
だから、とアノンは続けた。
「人を選んでって感じかな。襲撃があることをなまじ知ってたせいで、不自然に動いてしまったり、思わずどこかに情報を漏らしたり、なんてことがあったら困るからね」
「なるほどな。じゃあ、こちらが"知っている"ということを伝えることで、襲撃を諦めさせるという選択肢はないのか?」
「今回の襲撃をしのいだからといって、二度と襲撃がなくなる、とは言い難い。そしてまた同じような状況となった場合、次も事前に襲撃を把握出来るとは限らない。
だからこそ、相手の意図を事前に知れたというアドバンテージを最大限に活かし、再び襲撃をしようなんていうナメた考えを二度と抱かないよう、今回の四箇所の襲撃を完膚無きまでに叩き潰そう───というのが彼の考えさ」
彼───というのがマディソン宰相を指すのはすぐにわかった。
感極まって涙を浮かべたりと熱血漢なじいさんであったが、以前聞いたところによると彼には、国に害をなすような政敵を容赦なく擦り潰す恐ろしい一面があるのだという。
どちらが嘘とかではなくて、どちらもが彼のパーソナリティを表すエピソードなのだろう。
「聞きたいことはまだある。襲撃に際して、暗殺者に狙われてる当事者達をどう動かせる?」
「下手に脱出させてしまえば、向こうに"こちらが知っている"という事実を悟られかねないからね……」
確かになぁ……襲撃前に揃いも揃って重要人物達が不在となったり、襲撃予定時刻に合わせて彼らが一斉に建物からぞろぞろと脱出し始めたらどんな鈍感な奴でも『あ、これバレてんじゃね?』となってしまうだろう。
「苦肉の策ではあるけど、非常事態に落ち着いて行動出来ないと予想される者は、そもそもその日には不在にさせる。残った者達も襲撃前には、その貴族家各々に存在する隠し通路の中にて待機してもらうことになっている」
「わかった。そこまで話が決まってるんなら、俺がどこで、どう動けば良いかまで考えられてるんだろ?」
フードの中のアノンの視線がしばし宙を向いた。
しかしそれも一瞬で、
「マディソン宰相は、それぞれの屋敷へと襲撃を仕掛けてきた暗殺者を一人も逃さずに捕らえたいそうだ。ああ、もちろんこれは言葉の綾で、生け捕りが難しいなら生死は問わないという意味だ」
「物騒だなぁ」
「生け捕りにするより殺す方が楽だからね。実力差が拮抗してるならなおさらそうだ」
まあ、確かに。実力に相当の差があってこそ相手に対して手が抜けるというもんだ。
「今回は一人も逃さないために、狙われている人達を屋敷に留まらせた。つまり、暗殺者達をそれぞれの屋敷におびき寄せることにした。そして、一度屋敷へと足を踏み入れたら、二度と外に逃げられないように優秀な結界遣いによって屋敷を完全に包囲してもらうことになっている」
「あー、完全に殲滅するという意思を感じる……」
「ただ不細工な話だけど、《正体不明》が四箇所の内のどこを狙うかまではわからなかった。だからイチローには、四箇所の内でも最も重要な拠点である王城を護ってもらおうと思う」
「やっぱり色々と考えてるんだな」
「情報とそれを基に考えることこそがワタシの武器だからね。とは言っても、問題もあってね」
「問題だなんて、珍しい」
「それなんだけど、話は少しややこしくてさ……。
さっきは《正体不明》のことばかり話したけど、今回襲撃に関わっている主な暗殺者集団はね、アルカナ王国を拠点とする悪名高い組織だったりする。その名を《暗闇の猟犬》という。彼らもまた、その姿は不明とされている」
「えぇ……確かに暗殺者が正体知られてたら駄目ってのはわかるけどこっちもかよ」
「《暗闇の猟犬》の暗殺者達は意図的に暗闇を作り出す。そうやって暗殺対象や護衛達の視界を完全に封じ、その空間の中で彼らだけが自由に動くのだそうだ。それが魔道具によるものか、固有スキルによるものか現状では不明だけどね。
特に厄介なのが、光を確保しようと《ライト》などの魔法を使おうとしても、彼らの暗闇のテリトリー内では、どうも通常時と同じ様に光を起こせないようでね……彼らから逃げおおせた人も運が良かっただけで、その後は……」
「なるほどな。《暗闇の猟犬》は『暗殺対象の全て葬り去ってきたから正体不明』というわけではなくて、『暗闇に乗じて姿を見られることなく暗殺を行うから正体不明』というわけか」
「そういうこと。問題は、暗闇で十全に戦える人間がどれだけいるか───ということに尽きる。
一応今回の襲撃に備えて人員の確保は済んでいるんだけどね、それで本当に対処し切れるかどうか……」
「あー、確かになぁ。下手に中途半端な人員をあてがっても、暗闇に対処出来なければ、被害者が無駄に増えるだけだろうし……」
「問題はそこなんだ。例えば王国騎士団の選りすぐりをぶつけたとしても《暗闇の猟犬》に対処出来るか……」
今回のケースはやんごとなき貴族が狙われ、しかも外国が関与するややこしい事態だ。秘匿性強いケースだからこそ、いくら実力があり、今回の件に相応しい能力を有していたとしても、信用のならない人物にはおいそれと助っ人を頼めない。難しいところだ。
「どうするか俺も一緒に考えたいから、今回どういった面子が参加するのか教えとくれよ」
アノンは「そうだね」と一息吐くと疲れを誤魔化すように首をニ、三度振った。彼の姿に疲労が滲み出ていた。
「まず王城には、キミと騎士団のグラディウス氏をはじめとした上位の者達と、シエスタ氏をはじめとするクラーテルのシスター達をと考えている───」
「エリスの親父さんとシエスタさんか……頼もしいな」
けれど───
「彼らには騎士団の人達には隠し通路への先導やその後の王様達の護衛を頼みたい。あとの戦闘は俺が受け持つ」
彼らが強制的な暗闇下で正体不明を相手にし、それに勝利出来るか確信が持てない。さすがに国の中枢たる王城での不確定要素は許されないだろう。だからこそアノンは俺を王城に据えるつもりなのだろうし。
「イチロー、それは」
「騎士団の人達が納得しないか?」
「いや、そんなことはない。グラディウス氏もキミに任せるなら何も言うことはないだろうさ。けど、ワタシはそんなことが言いたいわけじゃあない。その日王城は死地になる可能性が高い」
「心配すんなし。俺にはいくつかの対処法がある」
それよりよ、と俺はアノンへと話を向けた。
「他は誰が対処する手筈になってるんだ?」
あ、ああ、と彼は言葉を飲み込んだ。
「王都にあるワイズマン公爵家は、賢者アンジェリカと、王家お抱えの探索者が担当することになっている」
アンジェは結界担当だろう。
それより王家お抱えの探索者が王城に宛てられないのは───
「ああ、それに関してはマディソン宰相がキミに対して全幅の信頼を寄せているから何も問題はないはずさ」
「えぇ……それでいいんかな?」
「それでいいんだよ。それより次へいこう。中立派最大手のマスカレード侯爵家には、周辺から選りすぐられたシスター達とワタシ───アノンが当たることになっている」
「アノン、どうして?」
どうして───考え始めるとそもそもがおかしい。
何故いち情報屋のアノンがこの件に携わっているのか。
あまつさえ、何故彼は、情報や頭脳を提供するだけでなく、自ら危険へと赴くのか。
アノンは、俺の一言にその意図を感じ取ったようだった。
彼は言葉を選ぶようにし告げた。
「マディソン宰相は使える人材とわかれば、よっぽど脛に傷を持たない限りは躊躇わずに使うからね。この間のリューグーインの件でワタシも多少なりとも表舞台に立ったから、彼に目をつけられてしまったのさ」
何だか申し訳ない───そんな感情が顔に出ていたのか、
「勘違いしないでくれたまえ。キミのおかげさ」
「俺のお陰?」
「そうだよ。少し前のワタシなら、わざわざ表舞台に立ってまで動こうとは思わなかっただろうさ。そのワタシが今や指揮を執って先陣切って戦いの場に飛び込むというんだから───やはりワタシはどうしようもないほどに、キミに影響を受けているんだろう」
それが彼にとって良いことか悪いことかはわからない。
けれど俺は、どことなくむず痒い気持ちになると同時に、襟を正さないといけないと感じたのだった。
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こちらもよろしければ一読を……
本編最新話は今回も前回も会話回かつ前置き回ですね……けどアノンメインのお話だから……許して
次の次くらいでかなりお話が動くと思います!
よろしくね!




