第7話 ブレイクスルー・トライアル③
◇◇◇
「上手くいったな。エリスはあの巨体を完璧にコントロールしてたし、オルフェもアダマンタイトより硬い《黒曜蛇》の身体をよくもまあ、あそこまで見事に切断出来たよ」
戻ってきた二人を真っ先に褒めたのはイチローだ。
さらにセナが口を開いた。
「やったわね。二人共立派だったわ」
もっとダメ出しされるかと身構えていた二人───オルフェリアとエリスは手放しに褒められて一瞬、言葉が出なかった。
「何?」
反応の鈍い二人に、セナが首を傾げた。
「いやー、ほら、ねぇ?」
オルフェリアがエリスに同意を求めた。
「確かに、けど、いえ、」
エリスの相槌も要領を得ない。
「あなた達、変よ。言いたいことがあるなら言いなさい」
「あー、たはは、何ていうか、そんな手放しに褒められるとは思わなかったから」
「そうですね───って、いや、あの」
セナは心なしかむくれていた。
「わたしは、あなた達が頑張っていることを知っている。
褒めないわけがない」
オルフェリアがばつが悪そうな表情を浮かべた。
「姉御怒らないで。だって姉御いつも厳しいから、今回もダメ出しされるかと思ったのよ」
彼女とエリスの脳裏には、ハチャメチャな訓練を課された記憶と、二人で(オルフェリア主導)、セナを倒すべく不意打ちを狙うも、呆気なくボッコボコの返り討ちにあった挙げ句、むんずと捕まり、泣きべそをかくまで特訓(仮)された記憶が蘇った。
改めてオルフェリアは『よく生きてるな、自分』と心の中でほろりと涙を流したのだった。
「あんなぁ、セナが厳しく訓練させるのは───」
イチローが一つ溜め息を吐き、言葉を差し挟もうとした、けれど「いい、自分で言うから」とセナが首を振った。
「確かにわたしの課した訓練は厳しかったでしょう」
セナが憂いを秘めた表情を浮かべた。
「人の命が儚いことをわたしは知っている」
セナが何かを思い出すように言葉を紡いだ。
追憶───彼女はかつての誰かを思い出しているのか。
「あなた達はこれからも、イチローと共にあるのでしょう?
それならば、これからもあなた達は危険な道を歩むことになる。
今回だってそう。たった蛇の一匹やそこらであなた達は何度も死にそうな目にあった」
わかるでしょう? とセナが尋ねた。
「困難はどこにでもあり、死はいつだってそこにある」
今までに、彼女達は何度も死にそうな目にあってきた。
今回の蛇や、ついちょっと思い返せば《封印迷宮》や三つ首龍のようなとんでもない化け物もいた。死ぬ間際、走馬燈を見た瞬間に奇跡的に難を逃れたこともある。
「わたしは、あなた達には死んで欲しくないの」
彼女は二人の目を見て告げた。
その瞬間、
「姉御ぉぉぉぉーーーー!!!」
セナの小さな体躯に、ガバリと感極まったオルフェリアが抱きついた。セナは『仕方ないわね』とばかりに、よしよしとオルフェリアの背を撫でた。
一方で、初動に遅れたエリスとイチローが顔を見合わせた。
どちらからともなく頷きあうと、まずはイチローがババっと両腕を広げた。次いでエリスは、
「ししょぉぉぉぉーーーー!!」
とイチローの胸に飛び込んだのだった。
◇◇◇
「というわけで、師父と姉御、わたしさ、もう少し頑張って見るから。ね、エリス?」
エリスは返事をせずに、ジト目でオルフェリアを見た。
それも仕方のないことだった。
休日を満喫しているところを引きずり出され、ハチャメチャな特訓を課され、巨大蛇の怪物と戦わされたのだ。
エリスはオルフェリアに色々と巻き込まれている。
けど、
「まあ、いいでしょう。オルフェ一人では心配ですから、私がついててあげますよ」
どこか照れくさそうに、エリスが言った。
「それに、私も私自身のためにも、自力でここまでこれるように頑張らないと、ですしね」
エリスが花のように微笑んだ。
◇◇◇
その日は、イチローが腕によりをかけて料理を作り、巨大蛇討伐記念に簡単なお疲れ会のようなものが催された。
メンバーは、イチロー、セナ、エリス、オルフェリアの四人という小規模なものであったが、それはもうみんな満足のいく催しであった。
翌日になり、目が覚めたオルフェリアとエリスは、先日一度、セナから小屋に住むことを免除されたけれど、自身の意思でそれを辞し、街へと戻った。
それから2ヶ月ほどで、彼女達は独力で隠れ山の小屋に辿り着くことになるが、それはまた別のお話。
コミカライズ開始の日程が9月20日に決まりました!
その辺のお話を活動報告でしております。
詳細や告知画像は活動報告に貼り付けてます公式Twitterにありますのでよろしければ見てみてください。それから私のTwitterにも、別の画像を載せておりますのでそちらもよろしければ……
本作、コミカライズともにこれからもよろしくお願いします!




