第4話 焦燥のオルフェリア④
◇◇◇
セナに発見されたオルフェリアは、山奥にあるセナの住処たる小屋に有無を言わさず連行された。
そこでセナに茶を出され、促されるままに、オルフェリアは感情を吐露した。彼女自身の内にも戸惑いや困惑があったからか、彼女の話は、まとまりがなく、時系列もバラバラで明確な意図から言語化されたものではなく、漠然としたものであった。
彼女が話し終わるまで、一時間か、二時間か、溜まった澱を吐き出すかのように話し続けた。
しかし、セナはときおり言葉少なではあるが、合いの手を入れ、頷いてみせ、オルフェリアの要領を得ない話に根気良く付き合ってみせた。
◇◇◇
オルフェリアが話し終わったとき、セナに出されたお茶はとうに冷めきっていた。セナはしばし視線を伏せ、言葉を発さずに黙り込んでいだが、やがてオルフェリアの目を見つめた。
「話はわかった」
セナの言葉に、オルフェリアがぎゅっと拳を握りしめ身体を前に乗り出した。
「わたしはどうしたら───」
「待ちなさい。焦らないで」
勢いを挫かれたオルフェが、中腰からやがて腰を下ろした。
「オルフェ、わたしがあなたにしてあげられることは二つある」
セナは人差し指を立て、まず一つ目はと告げた。
「あなたとは『この小屋まで、わたし達の力を借りずに辿り着くことができたら、ここで暮らすことを許可する』と約束した。
その結果、わたしの言葉を無視して、無為無策の単身で山に挑戦してしまうくらいに悩むのなら、その約束自体をなかったものにしましょうか?」
「それは───!!」
「心配はしなくとも良い。これまでにあなた達の実力は十分に見てきた。あなた達は既に七合目まで登り詰めている。間違いなく、近い内にこの小屋まで独力で来ることも可能となるでしょう。
だから多目に見て、もう条件はクリアされたということにしてもいい」
セナから与えられたのは予想に反した言葉だった。
思いもよらぬ展開にオルフェリアは言葉を失った。
「何ならこれから街に戻って、エリスにその旨を伝えて、ここに移り住む準備をなさい」
けれど、オルフェリアは───
「ごめんなさい」
どうしたの? とセナが尋ねた。
「ごめんなさい。わたしはその提案を受け入れることは、やっぱり出来ない」
オルフェリアが、がばりと頭を下げた。
セナは溜め息を吐くと、オルフェリアへとフォローの言葉を投げかけた。
「別に当て付けで提案したわけじゃない。わたしは、あなた達の頑張りを十分にわかっている」
セナの言葉にオルフェリアが肩を震わせた。
「ありがとう姉御。けれど、わたしはわたしがその提案を受け入れることを、どうしても許せないの」
言い終わるや、オルフェリアは息を呑んだ。
彼女の言葉に、一瞬ではあるが、セナの表情が、綻んだ気がしたからだ。
「わたしの提案は本心からのものだった。けれど、オルフェリア───あなたなら、そう答えると思っていたことも事実。あなたの決断を嬉しく思う。だからわたしは二つ目を提示しましょう」
◇◇◇
セナが再び人差し指を立てた。
「わたしがしてあげられるもう一つのことは、純粋にあなたに、今回撤退を余儀なくされた相手───《黒曜蛇》の対処法を教えること」
先程とは異なる新しいセナの提案に、オルフェリアは瞳を輝かせ、「やった!」とガッツポッ! そしてすくっと立ち上がった。
「早く! 早くやりましょう!」
「さっきも待ちなさいと言ったでしょう。人の話は最後まで聞いてから言葉を挟みなさい」
オルフェリアは傍から見ててもわかるほどにがっくしと気を落とし、再び腰を落とした。
「あなたの才なら、短期間でコツを掴んで、《黒曜蛇》を退けることが可能となるでしょう。けれど、問題は───」
問題? オルフェリアが首を傾げた。
「そう、問題がある。けれど大丈夫。安心なさい。タイミングもぴったり」
セナの中で全てのピースがピッタリとハマった。
そこに、ぴしゃーーん! と小屋の扉が開いた。オルフェリアはそちらに視線を向けた。
「ただいまーーー!!」
山田一郎の帰還であった。
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