第3話 焦燥のオルフェリア③
◇◇◇
もちろん二度寝したことも、何もせずにぼーっとしたことも、酔って騒いだこともある。人間だから当然だ。けれど、その全てを一日に詰め込んだ経験は初めてであった。
昼過ぎまでベッドでゴロゴロし、一日の大半を何もせずに過ごし、あまつさえ一日の締めくくりは気の向くままに友人と騒ぐ───休むって中々いいことじゃない。
良い感じに酔いの回ったオルフェリアは、アルコールが入ったからかやけに陽気なアノンの「帰るだって?! まだ飲み足りないよ!」という悲しげな言葉を振り切り、明け方前に何とか店を出た。
彼女は「またね」と手をぶんぶんと振るアノンと別れて、でろでろに泥酔したエリスを何とか抱え、ふらふらになりながら宿に戻った。
エリスを彼女の部屋に運び、服を着替えさせ、ベッドに放り込むと、彼女は自分の部屋に戻るとどこか夢見心地のまま身体を清めると、ようやくベッドに飛び込めた。横になったことを察知した身体がすぐさま睡眠を促した。
疲れた。疲れたけど、悪くなかった。
ああ、楽しかったな。
こうしてオルフェリアは休日の初日を過ごしたのだった。
◇◇◇
先の話し合いにて、オルフェリアとエリスは少なくとも一週間は休もうと決めていた。
だからこんな調子で翌日も、さらにはその翌々日もダラダラと過ごし、夜になると騒いだ。これまでになかった経験は彼女にとってやけに新鮮で、それは確かに楽しく、確かに愉快であった。
けれどもオルフェリアの内にある、彼女自身も気付かぬ彼女の半身が、この数日は休憩という名の下に無為に過ごされた生温い時間ではなかったかと、絶えず彼女に漠然とした不安を与え続けた。
さて、この彼女の半身とも言うべき、無意識の心根こそが、彼女の内に秘められた圧倒的なまでのエネルギーであった。それはオルフェリアの他の追随を許さぬ才能の元であり、ずば抜けた行動力の源であり、とんでもないポジティブさの正体であった。
彼女自身のエネルギーが、隠れ山で彼女が頭を悩ませているときから、彼女の内で燻る衝動となり彼女をもやもやとした状態に追いやっていた原因であった。
オルフェリアは隠れ山で足踏みをしている不甲斐なさを感じ、常に言葉に出来ない焦燥感を覚えていた。そして今回、慣れない長期休みを取ったことで焦燥はより強いものとなった。
休日四日目にもなると、彼女が昼過ぎに目を覚まし宿で食事をしているときには、内に燻るエネルギーとしての衝動ははっきりと自覚できるほどに大きくなっていた。
だからと言ってどうすればいいのだ。
剣の上達は一朝一夕でない。そんな当たり前のことがわからないオルフェリアではない。けれど身体の内側から、沸き上がるエネルギーが急かすのだ。
とにかく動け。
何かしろ。
何かはわからないけれど何かをしろ。
そのままで良いのか。
良くないだろ
止まってる場合か。
違うだろ。なら、動け。
オルフェリアは、ああーどうしようかしらと頭を悩ませ、それを振り払うように宿屋を後にした。
◇◇◇
隠れ山にアタックするのなら必ずエリスと二人で当たることと、セナから言い含められていた。
オルフェリアは本日もニット編みを習いに行ったエリスを思った。
あの娘は私と違う。
あの娘は、私よりも臨機応変で───それこそ、器用な人間だ。
彼女はエリスには声を掛けることを躊躇い、一人で隠れ山へと足を運んだ。
そこで「よし!」と覚悟を決め足を踏み入れた───そのとき、
「山はまだあなた一人には荷が重い。登るなら二人でって約束したはず」
ショートワープ。
視界の先にパッと、白い少女セナが現れた。
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起承転結の転くらいです
短いけど許して……




