第21話 それから⑥
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センセイの言った通り闇ギルドを壊滅させたのは俺であった。
といっても何も俺は正義感から動いたわけではない。
これも先日のことだ。
隠れ山にて相も変わらずに、セナとのんびりと過ごしていと俺であったが、宰相のじーさんから連絡がきたのだった。
『イチロー、頼まれてはくれぬか』
開口一番、彼は俺に頼み込んできた。
「またですか……今回はいったい何があったんです? まずは話を聞いてから引き受けるか決めます」
などと話を聞いた時点で引き受けたも同然であった。
知ってた……知ってた。
昨今のこと、竜宮院の後始末が原因で発生した政治の乱れに乗じて、悪人共の動きが活発化していた。
国中で盗賊が出没しているなんて話も数多く聞いたし、ちょっとやばい新興宗教なんかも幅を利かせていたりする。
そんな感じで、アルカナ王国自体の治安が悪くなっている今、大胆にも、国の中枢たる王都で、とある闇ギルドが急激に勢力を拡大させていた。
その闇ギルドの名は《狂獣》という。
違法薬物に、禁止魔導具に、誘拐と人身売買などと、これまでは厳しい取り締まりの王都から離れた街々で活動していた彼らは、不安定な情勢を期に、大々的に王都で活動を始めたのだった。
単なる闇ギルドなら王都を護る兵士達に任せれば良かったけれど、ここで大きな問題が発生した。
どういった経緯があってそうなったのか、俺には知る由もないことであるが、ここ最近になって《狂獣》に加入したとされる二人の人物と、この闇ギルドが偶然手に入れたとされる二つの武器が問題であった。
二人は元Sランクの探索者の男女であり、一人は刀を扱う剣士であり、一人は魔法使いであった。
人格に問題があるとされた二人は、何度も問題を起こした結果、探索者ギルドから放り出された。それでも、各地で問題を起こし続けた彼らは、それぞれ凶剣士、凶魔法使いと呼ばれることになった。
その名に違わぬ狂いっぷりは、時と共に勢いを増すばかりで、過度の暴力や恐喝脅迫だったものが、やがては殺人や強盗に変わり、凶悪指名手配犯へとジョブチェンジしたのであった。
そこで二人はなんの因果が《狂獣》に加入し、それと同時に彼らにおあつらえ向きの武器を手にすることになる。
凶剣士が《狂獣》で手にした武器は《妖刀血染》という刀であった。そいつは人を切れば切るほどに切れ味を増し、持ち手を強化する厄介な性質を持っていた。
また凶魔法使いが手に入れた武器は《魂吸い》という杖であった。こちらも人の魔力や魂を吸収することで強化され、持ち手の魔力を強化する性質を持っていた。
危機感を募らせた国は、捨て置くことは出来ぬと、《狂獣》殲滅の包囲網が敷くこととなった。
けれど件の剣士と魔法使いが牙となり、包囲網を完膚無きまでに食い千切った。二人を迎え撃った数名の兵士が彼らに皆殺しにされ、多くの魔力持ちのシスターや魔法使いが連れ去られた。
彼ら二人がそれぞれの武器を手に入れたとされてから、一月に満たない期間───たったそれだけの期間で、被害は表に出ている分だけでも三十は超えるのではないかとされていた。
宰相のじーさんによると、連れ去られた者達が存命の可能性があるので、可能であれば本日中に何とかしたいという話であった。
四次元ポケットを持つ青だぬきばりに、便利に使われているような気がするが、俺は「じゃあ今からそっちに行きます。話はそれからしましょう」とあっさり了承したのだった。
長々と説明したものの、結論から言うとその日の内に《狂獣》は壊滅した。末端まで完全に磨り潰したわけではないけれど───というか、それこそ国の仕事だ───件の二人と、王都に存在した主要な拠点は完全に滅ぼしたのであった。
多方面作戦というか、いくつかの拠点は国のお偉方に任せて、タイミングを合わせて、シエスタさんはじめとする力のあるシスター達に主要拠点を結界で覆ってもらい、俺が単独で内部に攻め込んだ。
やむにやまれぬ事情から最近はいつも狐の面を被ってミッションをこなしていた。面を紐でしっかりと結ぶとミッションスタート。
中に入ってみればなんてことのないただのちょっと強いだけの悪人がわんさかといた。気配を読んで、スニーキング。そいつらを見つける度に、仲間を呼ばれる前に腹パンして意識を奪い、アイテムで拘束した。ようやく雑魚狩りを終えると、最後に、特に厄介とされる二人と邂逅した。
ただ、当然と言うべきか、彼らがいくら元Sランクであろうが、スーパーアルティメット武器の遣い手だろうが、所詮は武器に振り回された元Sランクに過ぎない。《業無し》や《天使》と比ぶべくもなく、俺は二人を素手でボッコボコにしたのであった。
すると「血が足りないッ!!」とか「魂がもっとあればッッッ!!」などと涙を流しながら奇声にも近い声で叫ぶので、元凶たる妖刀と杖をむしり取ってマジックバッグに回収したのであった。
錯乱した二人を再び腹パンし行動不能に追いやると、拘束するアイテムで身動きを封じたのだった。
そうして、俺は拠点を出ると、外で待ってた兵士達に、中に囚われた者達が多くいることを教えた。
これにて、任務完了の一件落着であった。
怪我がないかと心配し、俺の身体をぺたぺたと触ってきたシエスタさんや、俺のことを『キツネ様』と呼び両手を組み合わせて跪いたシスターさんや、救出されたお姉さんから「お名前を教えてくださいませ」「名乗るほどのものではない(キリッ)」という陳腐なやりとりをしたことなど、色々とあったが、それも今となっては良い思い出であった。
○○○
あのときアノンは《狂獣》壊滅は、俺の仕事であると看破していた。
『王都に近い所にいて、能力的にSランク二人を殺さずに捕縛出来る人間は限られてくる。けれど、キミなら距離は無視出来るし、能力的にも余裕だろう』
「けど、それだけじゃあ根拠としては───」
『これは初歩の初歩だ。ワタシは何かがあったときに、それによって誰が一番利益を得たかを考える。今回、《狂獣》が壊滅して一番利益を得たのは誰かな?』
「……」
『正解はパフィ姫だよ、キツネ様』
そうだ、こいつはこういう言い方をする奴だった。
『今回もっぱら噂になってるね。キツネの面を着けた男性が、ほぼ一人で《狂獣》の王都の本拠地を潰したって。
しかも、それがパフィ姫の直属の探索者だというじゃあないか』
宰相のじーさんに積極的に流してもらった噂であった。
今回光魔法も、剣も使わなかったのは、素手のキツネ面の探索者がいると思わせるためであった。
『それに、以前からパフィ姫様の功績とされた六つの盗賊団潰しと、ちょっと前に攻略された新造最難関迷宮の一つ《花の迷宮》をクリアしたのもキミだろ。そのときからかな? キツネ面を着けているのは。どちらも同一人物だってその界隈では大騒ぎになってるよ。この二つの件で、一度は地に落ちたパフィ姫の評価も上々だ』
それこそが俺の目的であった。
───何があっても俺がパフィを助けるから
俺があの日、彼女に伝えた言葉だ。
それを実現するためなら、俺は手間を惜しまない。
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「センセイ、よくわかりましたね」
「当たり前じゃ、我を誰だと思うておる」
ははー、と俺はふざけて頭を下げた。
「うはは、もっと敬え敬えー」
センセイが俺のおふざけに乗っかったのだった。
「それはそうと、闇ギルド壊滅が俺の仕業だとどうしてわかったんですか?」
「そんもん簡単じゃ。ちょうどあの事件があったとされる日に、王都の方からムコ殿の気配を感じたからの」
「え、と、そのときセンセイはどこにいたんですか?」
「我は、確かレモネとかいう街におったの」
レモネは王都から遠く離れた街であった。
そんなに遠くにいるのに俺の気配が───
「身構えんでもよい。当たり前じゃ、我は保護者だからの」
保護者? 保護者ってそんな遠くの気配がわかるの?
まるでGPSを体内に埋め込まれた気分であったが、これ以上は深く聞くまい。
そうこうしながらも、俺は既に調理を始め、みんなで近況報告を続けた。するとそこに、扉を控えめにノックする音が聞こえた。
ミカが「私がいきます」といい、扉をゆっくりと開けた。
するとそこには、
「みなさん、お久しぶりです」
パフィがいた。
「おう、もうちょいで出来るからあがっとくれ」
俺が声をかけると、楚々とした仕草で「では、失礼しますね」と小屋に足を踏み入れたのだった。
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