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第20話 それから⑤

○○○




 あの日───王都にて竜宮院を捕縛し、ミカ達三人と話し合ったあの日のことだ。

 俺達は思い思いに話し、それぞれの行末を語り合った。

 彼女達は三者三様に進むべき道を見つけたようで、俺達は本当の意味での別れを迎えようとしていた。

 

 俺は俺の道を行き、彼女達は彼女達の道を行く。互いに決して交わることのない人生が、この先死ぬまで続く。

 これから続く人生に彼女達がいないという現実を受け入れるか、否か、楽しく話していたあのとき、俺はずっとずっと悩んでいた。

 

「三人はさ、俺に償いたいって言ってたよな? だったら、これからする俺の頼みを聞いてはくれないか?」


 そんな最低なセリフと共に、俺は彼女達を呼び止めた。

 俺は、死ぬほどの緊張を押し殺し、マジックバッグに手を伸ばした。その瞬間でさえ、俺は悩んでいた。


 言ってしまって良いのか、それとも己を押し殺すか。

 その言葉を言ってしまえば、彼女達を縛り付けることになる。


 本当に俺は、それでも良いのか───

 何度も何度も、何度も何度も、己に問い掛けた。

 

 けれど俺は結局、マジックバッグから取り出した腕輪(・・)を三人へと渡した。クロアに頼んでいたマジックアイテムだ。

 小型化した《鶴翼の導き(クレイン)》をさらにコンパクトにし、マジックバッグに入れずとも身につけることのできる、腕輪型にした物であった。


 当然ながら三人は俺が渡した物が何かをわかっていない。


「俺の渡した腕輪は、瞬間転移の魔導機だ」


 なぜそのような物を───彼女達が不思議そうな顔をした。


「ミカは、償いの旅に出る。アンジェは、講師になる。エリスは、これからも俺と、訓練をする」


 かつて俺は、彼女達と離れてしてしまった。

 だからこそ、よりいっそうわかることがある。

 彼女達と再び離れてしまうことは───

 

「ミカも、アンジェも、エリスも、これからは自分の道を進むんだと思う」


 振り返れば、今でもあのときの胸の痛みを思い出す。

 俺には、もう耐えられそうになかった。

 

「三人がどこで、何をしていたとしても、必ず俺に会いに来てくれ」


 彼女達に渡したその腕輪は最先端技術が注ぎ込まれた、瞬間転移の魔導機だ。


「これが終わりだなんて、俺にはもう……」


 そうだ。それは極論、ただの魔導機に過ぎない。

 けれど、それ以上に───


「了承しなくても、いい。けれど、もしも、今でも俺と同じ気持ちであるのなら、それをこの場で装着して欲しい」


 俺のドロドロとした煮えたぎるような独占欲とエゴとを練り込めた、彼女達を俺の元へと縛りつけるための鎖であった。




○○○




 背後にまず一人、懐かしい気配がした。


「ムコ殿、たっだいまー!」


「おかえりなさい、センセイ」


 薄紫の着物を着崩したセンセイが、勝手知ったる何とやら……、いや、元々センセイの家だから構わないのか?

 とにかく彼女は、家に入るや行儀もクソも、着物をはだけさせデロンと寝転がったのだった。猫かな?


「センセイ、着物が皺になりますよ」


「ならんならん、こやつはそんなチャチな鍛え方をしておらん」


 鍛えるってなんだよ……真面目に考えると頭がおかしくなるので、「そうですか」と流した。


「ほれ、何回も来とるんじゃから、そろそろ慣れんか」


 センセイが、入口の方でひょこっと顔を出している女性───ミカへと声を掛けた。


「それじゃあ、失礼します……」


 心地よい澄んだ声だった。

 おずおずと小屋へと入ったミカは、準備を続ける俺の隣へとやってきた。


「イチロー、元気してましたか?」


「相変わらず元気してるよ。そっちは?」


「私も元気です……ただ、」


「『ただ』?」


「この旅で、自分自身がやってしまったことを改めて実感しています」


 俺は当人ではないのだ。半端なことは言えない。

 それでも、伝えたい言葉があった。


「やらかしてしまった人を癒やす───ミカとセンセイなら限界までやれると思うよ」


「貴方に言われると、何だか照れますね……」


「やめろし。俺が照れるわ」


 本当にミカはわかりやすい。

 かつて表情が変わらないなどと陰口を叩かれていた彼女は、今となっては、俺の言葉に顔を真っ赤にする。


「それに俺は思うんだ。

 竜宮院の存在自体は理不尽の権化のようなものだった。けど、別に、竜宮院なんてのがいなくても、世の中には理不尽なことだなんていくらでもある。二人なら格好良くさ、そういった不幸を打ち砕けるんじゃないかって」


 聖女&センセイとか最強じゃないか。

 負ける気が全くしない。


「イチロー、やめてください」


 感情のままに話したのが悪かったのか、ミカがしゃがみこんで顔を隠した。

 そして「うー」と呻いている彼女の服の袖の奥で、俺の渡した腕輪がキラリと光っていた。


「ムコ殿、聞いた話しなんじゃが」


 寝そべって食事を待つ存在と化したセンセイが、だらけた姿勢のままで、どこかで聞いたフレーズで俺に問うた。


「王都で暗躍してた闇ギルドを壊滅させたのって、あれ(ぬし)じゃろ?」 


 




 












300話到達しました。

活動報告で皆様へとお礼の言葉を書かせていただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] いぇい、三百! ミカ幸せそうで何より!
[良い点] 300話おめでとうございます ミカたちと縁切りにはならなくてよかったですね でもミカは自分の意思で贖罪の旅をしているとはいえ、本意でやってない事の贖罪に人生を費やされるとか可哀想とも思う…
[良い点] 300話おめでとうございます まず登場したのはミカ センセイともうまくやってるようで何より でも、次のヒロインの登場前に…… 何やってんのヤマダー?!w
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