第18話 それから③
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連絡がくると言えば、クロエとクロアのテゾーロ兄弟からはちょくちょく連絡がくる。そもそも俺は彼らの《連絡の宝珠》を登録した覚えがないのだが、それをここで言うのは野暮なことかもしれない。
前に彼らと話したときに聞いた通り、彼らは信頼出来る後継を指名し、引き継ぎを済ませると、すぐさま《旧都》を脱退した。
そうして、海を見に行くと言って北の方へと旅立った彼らは、海を見に行くという名目の元に、竜による空の旅を極力避けて、これまで体験し、観ることの出来なかったあれこれを堪能しているそうだった。今まで弟クロエの不調のために彼らは多くの行動を制限されていたのだ。これまでやりたかったこともいっぱいあったはずだ。彼ら二人はそれを取り返すかのように旅を楽しんでいる。
ただ、アルカナ王国自体が内陸にあるので、彼らが海に辿り着くには、国境を越える必要があり、かなりの時間を要すると思われる。
それに、居心地の良い地域などもあるだろうし、彼らがそこに住みついて帰ってこないということも考えられる。またよしんば帰ってきたとしてもそれは、年単位の時間が経過した後だろう。
ただ、まあ───
もしくは、少なくとも《連絡の宝珠》による便りがあれば、安心が出来るというもんだろう。
確か一週間ほど前のことだろうか。彼らから連絡がきた。
クールイケメンの兄クロエと中性的ショタのクロアの二人は、ようやく海の気配を感じたそうで、以前までの二人とは思えないほどの元気の良さであった。
『イチローさん、元気してるー?』
「おう、二人はどうだ?」
『僕達も元気! イチローさん聞いて聞いて! 僕達すごい経験したんだ!』
「あんだよ?」
『僕達、ついに魚を食べたよ!』
『もっとも、乾燥させたものだったけどね』
「乾物かー! いいな、俺も好きだぞ!」
『す、すすすすき?!』
「クロエ、何? 鱸のことか? あー、あれは季節合えばかなり旨いよなー。ただ、俺は鱸の干物とか食べたことねーわ」
『ほら、深呼吸して、落ち着いて』
『だってイチローが私のことを───』
「君ら二人で急にどしたん? 疲れてるの?」
『あ、あー、イチローさん、クロエが少し疲れたみたいなので、ごめんなさい! また連絡します! 乾物はたっくさん買ってますので、帰ったらイチローさんにもお裾分けしますね』
「おう! お大事にな!」
『それじゃあ、また!』
『イチロー、まだ話が───』
などという、やり取りをしたのであった。
この世界に昆布なんかもあるのか、明日にでもこちらから連絡をとって聞いてみようと思った。
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「あとでピザもパイもスイーツもお肉もお腹いっぱいに食べれるから、今は腹八分───んー、半分くらいで止めておいてくれよ」
「ふァかっは」
「『わかった』って言えないくらい頬っぺたパンパンに食べ物入れて! もうこの娘だけはほんとにもう!!」
頬袋パンパンに食べ物を詰め込んだハムスターよろしく、セナが口の中いっぱいに食べ物を詰め込み、俺に形だけの了承をしてみせた。
けれど、そんなところも最高に可愛いのであった。
やったー! セナかわいいー!!
はっ!? 俺はいったい何を……(正気に戻った)
「あー、多めに用意してて良かった」
俺が朝起きるのが遅かった原因は、夜遅くまで食事の下準備をしていたからであった。まさに転ばぬ先の食材であった。
さらに準備をしつつも、思考に耽ると、白魚のような手がぬっと伸びた。
「セナ、食べたらダメだって」
冷ましてるビスケットを一枚、二枚、三枚、四枚と口に放り込んだセナが、俺の咎めに対し、さらに一枚摘まんで、ぴゅーっと外に駆け出したのだった。
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誤字報告毎回本当にありがとうございます!
イチローは恩人だから多少はね……




