第17話 それから②
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王都から帰ってくるときに、宰相のじーさんからもらった物がある。《連絡の宝珠》である。
当初、希少で高価な物だとアシュが言っていたことを思い出したので、丁重にお断りしたが、「いいから、持ってろ」と押し付けられる形で俺の物となったのだった。
このアイテムは、所有者の魔力を登録し、さらに別の所有者やその《連絡の宝珠》のデータを登録することで相手との連絡が可能となる。俺に与えられたそれには、どういった話し合いがあったのか、送り主である宰相以外にも、複数人との連絡が可能な状態となっていた。
意図せずに手に入れた《連絡の宝珠》であったが、使わないのかと言えば、そんなことはなく───と言っても、わりと頻繁に連絡がきたりするので、受け身ではあるが使用頻度はそれなりであった。
先日は、久し振りに宰相のじーさんから連絡がきた。
『来ようと思えば、来れるんだろ? イチローよ』
「まあ……」
『なら、なぜ来んのだ!』
じーさん、酒が入ると『娘をやる』『一度で良いから会ってやってくれ』ってしつこいんだよな……。
「いや、まあ、」
適当に言い訳しつつ、あしらっていると、彼も『わしは諦めんからな』と息巻くと共に、世間話も早々に、彼の声音は剣呑なものとなった。
彼の本題は、竜宮院の件の後始末の話であった。
じーさんの話によると、全てが片付くには、少なくとも数年は掛かるそうであったが、一応は一段落ついたこともあり、俺に連絡をくれたのであった。
もっとも、だからと言って、彼の声から滲み出る雰囲気は決して明るくはなかった。
マディソン宰相によると、勇者召喚を率先して行った召喚賛成派閥筆頭は、俺達が召喚された直後から竜宮院の面倒をみるという名目で彼を預かったとある公爵家であった。
マディソン宰相達と共に王家を支えるべく邁進してきたその公爵家の影響はあまりにも強く、彼らに引導を渡すのに半年近くも掛かったそうであった。
俺からすると、半年で何かが為され何かが変わるというのは、元の世界とは比べ物にならない迅速さであると思ったけれど、世界が異なればその辺の事情も異なるのかもしれなかった。
素直に罰を受け入れなかった件の公爵家は、マディソン宰相派閥の貴族や、クラーテル教会、また聖女ミカのシンパである商家などによる大規模な包囲網によって絡め取られ、経済的にも武力的にも、完全に身動きの取れぬ状態にされる状況にまで追いやられたのだそうな。
しかる後にようやく、その公爵家の責任者とその親しい身内の者を完全に放逐し、国側から用意した者を頭に据えることを条件に、お取り潰しではなく降爵に留めるという罰を受け入れたのだという。
彼らが放逐された後、どのような目に合ったかは俺には分からない。ただ、マディソン宰相の雰囲気からすると、彼らが生きているかどうかすら怪しいのではないかと思う。
その他にも、彼の公爵家の影に隠れて、甘い蜜を吸おうとしていた多くの貴族家も相応の罰を受けた。
各家の主人が退き、放逐すれば、降爵のみで許すというマディソン宰相達から出された条件を受け入れずに、結局ゴリゴリの力押しによってお取り潰しされた家も少なくないのだそうだ。
そして、最も大きな出来事は、アルカナ王が近い将来王座を退くことが決まったことだろう。
現アルカナ王の弟の息子───王家の血を持つ公爵家にいる有望株を教育し、しかるべき成長を待ったのちに彼を即位させるという。なら、パフィは? それについては───
「何だか大変なことになっていますねぇ」
俺は溜め息を吐いたが、
『何を言っておる。まだ話の途中だ』
話はこれだけに留まらなかった。
問題だったのは賛成派の貴族だけではなかった。
召喚賛成派閥には、貴族以外にも教会関係者、しかもその上層部の者も存在したそうだ。
こちらも多くの者が、地位を落として田舎に送られたり、そもそも教会を破門になったりと、かなりの者が裁かれて混迷を極めたのだという。
また、あの場を仕切ったギルバート枢機卿が、禁呪使用の責任の全てを負い自ら枢機卿の座から降りたとも聞いた。
怒りに震えながらも、それでも理性に従った行動をとった彼は間違いではなかったと思う。自分の大切な者を失ったとき、俺は彼のように振る舞える自信がない。
ただ教会にしても、悪いことばかりではない。
教会側の処罰は、組織に巣食う膿を出すべく大々的に、そして即座に行われたそうで、その点は、最後まで徹底抗戦した公爵家をはじめとした高位貴族家に比べると、まだマシであった。
例えば、宰相によると、教会の中でも実力と人格が伴わないくせに、上位の回復魔法と解呪の見返りに多額の献金を受け取り、そこで得た金を元に上位の席を手に入れた不届き者と、彼と一緒になり愚行を繰り返し、彼を推した枢機卿の二人は竜宮院の件に関わらず、糾弾され、今では行方が分からなくなったとも聞いた。
義理堅いじーさんは、そういった最近の出来事を一通り話し終えると、『イチロー、また会おう』と締め括り、連絡を終えた。
これは余談ではあるが、マディソン宰相はあまり触れなかった話がある。
教会のスピード処罰の理由を俺は知っている。
あの玉座の間での、センセイに対する教皇をはじめとしたクラーテル教会の者達の態度を思い出せばいい。あの後にセンセイが何かをしたとしか考えられなかった。
センセイが、俺に全ての事情を話してくれるのも、そう遠い未来ではないように思う。俺も、彼女の重荷を少しでも分けて欲しいと願っている。
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