第16話 それから①
◇◇◇
竜宮院が王都で暴れてから半年経つが、センセイは未だにミカとの旅の途中だった。そういうわけで、俺とセナは慎ましやかに二人で暮らしていた。
寂しくないと言えば嘘であったが、それでも、新メニューを開発したり、セナのお腹を満たすべく料理に勤しんだり、それ以外にも、二人で変な植物の観察に勤しんだり、読書したり、訓練したり、それなりに充実した日々を送っていた。
俺達二人は、何だかんだとそれなりに楽しく過ごしていたのであった。
もしかすると、なぜエリスがいないのかと思った人がいるかもしれない。それに関しては理由がある。
セナが彼女を否定した───というわけではない。
それどころか、時には従順な妹のように振る舞い、時には信の篤い忠臣がごとく振る舞うエリスは、いつの間にかセナのことを『セナ姉様』と呼び、そこにいて当然の空気を醸しながら、違和感なく俺達との小屋での生活に馴染んでいた。
なら、彼女はどこにいってしまったのか。
その答えは、ボルダフの隠れ山の麓から少し離れた宿屋であった。
なし崩し的に同じ屋根の下で住んでいたエリスであったが、王都から戻ると、彼女に加えてオルフェがくっついてきた。
「帰りなさい」「帰らない」「消えなさい」「消えない。わたしはイチローの弟子だから」と半刻に渡って口論を続けた彼女達であったが、面倒くさくなったセナが実力行使でオルフェを叩きのめしたのだった。
目を覚ましたオルフェは、コテンパンにやられたにも関わらず、全くめげることはなかった。
再び、セナに挑戦し、再び、ボッコボコにやられたのだった。
セナは「しつこい」と言ったが、本当にオルフェの本領が発揮されたのは、ここからであった。
「あなたは負けたの。帰りなさい」
「私が負けと認めない限り負けじゃないのよ」
「話にならない」
「話にならないってことは認めるってこと?」
即座に叩き潰されフルボッコにされたオルフェは、その場をダッシュで撤退し、行きがけの駄賃と言わんばかりにエリスを拉致した。
おいおいアイツら何すんだよと心配したのもつかの間。
小屋のすぐ隣にテントを組み立て、そこに住み着いたのだった。
そうして、オルフェは、セナが姿を表す度に挑み掛かったり、気分が乗ってくるたびに「たのもー」とセナに挑戦状を叩き付けては、その都度こっぴどい敗北を喫することとなった。
さらには一人で足りないのならと、何故かエリスと共に二人がかりで挑み掛かり、それでも一蹴され、一蹴され、一蹴され……。
数は数えていないけれど、セナもうんざりだったのだろう。
いつの間にか許可もしていないのに己のことを「姉御」などと呼び、何度も何度も挑んでくるオルフェのことが。
さらに、幾度もの挑戦を退けたセナが、苦虫を噛み潰した顔でクソデカ溜め息を一つ吐くと、
「あなた達、本当に面倒くさい」
これまでに見たこともない様な「かーぺっ」と唾でも吐きそうな表情を浮かべた。
「いいわ、あなた達も、一緒に住むことを許してあげる」
セナがお許しを出したのだった。
彼女の言葉に、オルフェだけでなく、既に半ば認められていたはずのエリスも喜んだ。けれど───
「条件がある」
セナが告げた。
「セナ姉様……私もですか?」
エリスが尋ねるも、セナは厳かに頷いた。
「そんなぁ……」
おやおやぁ、何だか空気が変わったような……。
「条件は単純明快。自力で、麓からこの小屋まで登ってこれるようになること。ただし、気配消しの道具や、瞬間移動の魔導機は使わないこと、もし使った場合は……」
セナの言葉には威圧が込められており、エリスアンドオルフェがダラダラと汗を流した。これは、あれだ、図星突かれたやつだわ。
そういったわけで、二人は小屋から追い出され(哀れエリスは巻き添えを食らった形となる)麓から近い宿を拠点にしたのだった。
しかし、そもそも二人はめちゃ強剣士である。
彼女達二人は、小屋から放り出された直後ですら、隠れ山四合目ほどの実力はあった。
最近の彼女達は、たまにギルドでの依頼をこなすことで路銀を稼ぎ、それ以外の時間は、隠れ山アタックに費やすことで、遂には独力で六合目辺りまで登れるようになったという。
「師匠待っててくださいね」
「師父、もう少しだから」
俺は二人のそのセリフに嫌な予感しかしないのであった。
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