表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

291/357

第10話 王都での三日間①

アシ ミ  クエ クア


セナ 俺  セン オ


エ  アノ アン プ





酒『サ+アダ+ネ』










○○○




「危ない! ミカ!」


 豪奢なシスター服の少女が誤って罠を踏んでしまった。

 間髪入れずに察知した甘いルックスの男性が、彼女を突き飛ばした。その刹那、ビィンと彼女の元いた場所をレーザーが地を抉った。


「助けてくださってありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げた女性に、男性が右手を突き出した。


「大丈夫だよ。聖女様が無事で良かった」


 そう答えた彼の表情は、青褪めていた。レーザーが彼の腹部を貫通していたのだ。それに気付いた彼女はすかさず彼に回復魔法を施した。


「私のせいで……」


「大丈夫だよ。君のせいじゃない」


「けど、」


 なおも言い募るシスターに、男性は首を振った。


「君の役割は結界を張ることと、回復魔法だ。君の護りが手薄になったとき、君を助けることは当然だろ?」


 男性が、二人パーティの相方とも言えるシスターの悩みを吹き飛ばすようなニヒルな笑みを浮かべた。





○○○





「クソッ!! 撤退だ!! 今の俺達じゃまだアイツには勝てない!!」


 凶暴な《禁指定竜種(ドラゴニクス)》の攻撃を受け、男性は一瞬で判断し、一目散に駆け出した。すかさず、シスターの少女を脇に抱え込み全力で入り口に戻ると、設置したポータルで帰還を果たした。


 視界が開けた先は、迷宮の入り口であった。


「今の俺じゃあ、無駄死にするだけだ……訓練と並行して《禁指定竜種(ドラゴニクス)》を相手にするときの対策を立てたい」


 疲れているだろうに、戻って間もない彼がシスターの少女に提案した。そして、


「けれど、それは俺一人じゃ、どうしたって難しい。だから、疲れているだろうが手伝ってくれないか?」


 彼女に頭を下げたのだった。それに嫌な顔一つせず彼女も、


「そんなかしこまらないでください。貴方が頑張っているというのに、どうすれば私が休めましょうか」


「それって……」


「皮肉ではありません。いつも傷だらけで頑張る貴方を、私は尊敬しています」


「やめてくれよ」


「やめません。それに私には強い確信があるのです。

 私達二人なら、どんな迷宮だろうと踏破出来るでしょう」





○○○




 多くの強敵を葬り去ってきた二人は、最終階層最奥の扉前で、互いに視線を交わし、互いに頷いた。二人に言葉はいらなかった。


 扉の向こうには、水晶に似た質感の人型モンスターがいた。

 そこからは、死闘であった。


 モンスターの硬質な肌を傷付けるには、何度となく斬りつける必要があった。男性は傷だらけになりながらも、諦めることなく攻撃を何度も何度も繰り返した。シスターの女性も、結界と数えるのも億劫なくらいの回復魔法で男性を支えた。


 そして彼は致命傷に近い傷を幾多も負いながら、


「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 雄叫びを上げた一撃がついに───


 男性によってつけられた無数の傷が(ひび)となり繋がり、ピキリピキリと亀裂をとなり、そして、


 ───パリィィーーーン!!


 水晶の人型モンスターが無数の結晶へと姿を変えたのだった。


「俺の、勝ちだ」


 傷だらけの男性が肩で息をしながら、何とか声を上げ、既に駆け出していたシスターの少女が彼の胸に飛び込んだ。


「やったぞ! ついに、俺達は───」


 彼は、少女の両脇を抱え込み、そのままぐるりぐるりと、その場を回った。

 

「ええ、私達は───」


 ───《鏡の迷宮》の踏破をした!!


 二人の声が、重なった。












○○○




「うーん、イチローの方が千倍かっこいい」


 俺の左隣のセナが言った。


「かっこいい───というよりは、ムコ殿の方が千倍はかわいいとは思うのう」


 右隣のセンセイがむにょりと俺の頬に指を突き刺した。


「ワタシは、セナ氏に一票、かな」


 背後にいたアノンが、俺に覆い被さり言った。

 すかさずセナが、アノンの頭を掴んだ。

 みしりみしりと頭蓋骨から音をさせて彼は「あだだだだだしぬうう」と謎の奇声を発した。そろそろやめたげてー。


「これは実際に本人達からしたらどうなんだい? 例えば信頼しあって頷いただけで通じ合う、みたいな場面とかさ」


 前方のアシュが隣のミカに話しかけていた。

 そう言えばアシュはミカ達にボッコボコにされたんだよなー。

 後日、三人から謝られたとは言っていたものの、まるで何事もなかったかのように振る舞う姿は、聖騎士を体現しているように思えた。


「概ね、間違いはありません。というより、アノンさんから頼まれてあのときの話をしたのは私ですので……」


 ミカの語尾が小さくなった。この感じは恥ずかしいときのやつだった。


「っていうか、ミカが脚本を手伝ったのっ!?」


 俺の声に反応し、ミカが俺の方に首を向けた。

 顔が真っ赤だった。彼女はウィンプルで顔を隠した。


「いけません……でしたか?」


「いや、駄目というわけじゃないんだけど、いつの間に───」


 俺の当然の疑問に対し、


「ムコ殿、別にいいじゃろ。そんな疑問は些末なことじゃ」


 センセイが、俺を窘めた。

 しかし、俺にはわかっていた。センセイの口が『ω』のようなフォルムになっていたことに気付いていたのだ。

 絶対にセンセイが関与しているに違いなかった。

 というより、ミカのセンセイに対する信頼がアツゥイ。 


「イチロー、どうだい? 良く出来てるだろ?」


 苦痛から立ち直ったアノンが、胸を張って俺に尋ねた。


「何か恥かしいんだけどよぉ。せっかくやってもらって何なんだけど、やっぱりこれやめにしない?」


「やめるのですか!?」


 俺のささやかな反対に、いの一番に声を上げたのはミカだった。

 彼女の表情に深い哀愁の色が浮かんだ。

 それを見ているとどうにも無下には出来ず、俺は困って「うー」と呻いたのだった。


「まあ、いいじゃあないか。ワタシの手掛けた舞台こそが、新造最難関迷宮踏破に関する新たな真実に───そのスタンダードになるのだから。これは、その第一歩ってやつさ」


 アノンの多才さには頭が下がる思いだ。

 そして世話になりっぱなし、借りを借りっぱなしで俺はもう、こいつにどうやってそいつを返済すればいいかわからない。


「アノン、色々とありがとうな」


 俺は何度目かになる、感謝の気持を伝えた。


「キミからそう言われただけでも、頑張った甲斐があったってもんさ」


 俺がしみじみとしていると、


「んー、やっぱり、俳優さんはもう少しカッコいい方が良いと思うわ」


 空気を読まずに、セナが物申した。

 何だかそれが無性に愛おしくて、俺は彼女を抱き締めたのだった。




 





 




最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

『おもしろい!』『続きが読みたい』『更新早く』

と思った方は、よろしければブックマークや『☆☆☆☆☆』から評価で応援していただけたら幸いです。

みなさまの応援があればこそ続けることができております。

誤字報告毎回本当にありがとうございます!



後日談のネタ募集してまーす。

全部を採用は出来ませんが、それでも良かったらどうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初の虫食いの部分が怖い…。 [一言] こうなったら、三人娘とパフィがおかしくなってから正気に戻るまでの心の中を見てみたいです。 今まで崇拝していた勇者がとんだ盗人だったとわかった時、…
[良い点] 今回から本当のハーレムが始まるのかなと嬉しくなりました( ^∀^) [一言] とりあえず、皆んなが楽しく食事したり、今までの激闘をイチロー中心で癒してあげれる話を希望します。
[一言] おっと、ここからエピローグでしょうか 果たしてどのような着地点になったのか気になりますね てか着地点が分からないと後日談ネタも思い付けませぬ それと、頭の文字化け?が意味不明で不穏なんです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ