第1話 明日へ①
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泣き崩れた竜宮院は「誰か助けてぇ」だとか「ママァ」だとか「どうして」だなんて泣き言を漏らし続けたが、慈悲の手が差し伸べられることはなかった。
それどころか無駄に戦闘力を持ってしまった彼は、暴れることがないようにと、見たこともないような魔導具を大量に装着させられていた。それらの魔導具の具体的な説明は省くが、まあそういうものだと思ってもらって概ね間違いはないと思う。これまで彼がやってきたことを思えばこれくらい当たり前のことであった。
また連れられた先では、長い時間を掛けて取り調べの様なものをされるだろう。これまでのやらかしや、彼の持つスキルなど。
そいつが、簡単に終わるとは俺には思えない。
無力化された彼は、ひっくひっくと泣きべそをかきながら腕を引っ張られて連行されていった。
俺は彼がこの場からいなくなる前に伝えないといけないことがあった。
「竜宮院、少なくとも二十年頑張れば、帰れるように手助けしてやるからな!」
彼の背中に向けて声を掛けた。
竜宮院は、俺の言葉を聞くと、「二十……年も……? ああああァァァーーー!! ああーーー!!」と大声で泣き叫んだのだった。
《願いの宝珠》を用いれば、どれだけ時を経ても、あの日のあの場所にあの日の姿で帰ることが出来ると言われている。
残念ながら《願いの宝珠》は一つしかないので、彼には、二十年後に再使用が可能となった召喚の魔導具で向こうへ帰ってもらうつもりだ。召喚の魔導具という通常の帰還方法で二十年後向こうへと帰った場合、四十歳となった竜宮院があの日の竜宮院と入れ替わるわけだが、これに関しては仕方のないことだろう。
彼には、迷宮探索の達人として苦労した記憶と、二周りほど年歴を重ねた身体で帰還してもらおう。
ただ、彼がそのとき、本当に心の底から反省しているのなら、俺が若返る手段を探してやってもいいし、この世界での苦労の記憶も消去して、クリーンな竜宮院(?)として戻してやってもいいかもしれない。ただ現段階では、彼が将来的に反省して真人間となっている可能はかなり低いと考えられる。
竜宮院の姿が失せ、後は俺達がはけるだけとなった。
セナとセンセイの視線を感じた。
俺は笑顔を向け、彼らの元へ駆け寄った。
笑顔のセナを期待するも、彼女のじとーっとした視線は俺の右後ろに向けられていた。
「おや、熱烈な視線じゃあないか」
アノンの声であった。気配を全く感じなかった。
彼の言葉にセナが沈黙を保った。
「無視とはつれないね」
軽口を叩くアノンに、セナが言った。
「わたしは、人間が嫌いなの。だから話をするつもりはない」
セナがアノンを威圧した。
けれどアノンは意に介さずセナに問うた。
「ふむ。キミが、イチローの最愛か……」
一瞬で顔に火がつく質問であった。
なのにセナは全く逡巡せずに答えた。
「イチローの最愛は、わたしとセンセイ」
セナのノータイムの答えに、
「非常に妬けるね……」
アノンが何かをボソリと呟いた。
それが何なのか、俺には聞こえなかったが、セナには聞こえたようで心なしかドヤ顔を浮かべていた。
というか、最愛とか言うの恥ずかしいからやめろや。
アノンが気を取り直し、俺に顔を向けた。
「キミは、恐らくこのまま今日中にボルダフの隠れ山に帰るつもりなのかもしれないが、三日だけ王都に泊まってくれないか?」
「どうしてだよ?」
「それは、見てのお楽しみ。絶対にキミに後悔はさせない。
ああ、オーミさんと、セナ氏も王都に残ってくれるのなら、ワタシが良いものをお見せしよう」
真顔のセナが少し怖かったが、よく考えたら普段からこんな感じだった。センセイはいつも通り俺達を見て楽しんでいる。
「セナ、どうする? しんどいなら、一緒に帰ろう」
俺の問い掛けにセナが、しばし悩んだ───が、
「気配薄が、何かを見せてくれるんでしょ? せっかくの機会だから見ていきましょう」
気配薄とはアノンのことか。
あんまりにもあんまり過ぎるあだ名であった。
セナも、本調子ではなさそうであったが、隠れ山から離れた当初と比べると、雲泥の差であった。けれど、
「具合が悪くなったら、遠慮せず言ってくれな」
心配は尽きない。
「ムコ殿、セナとイチャつくのも結構。けれど、向こうで主を待っとる者達がおるぞ。はよ行ったらんと可哀想じゃろ」
センセイに言われて、俺はハッとした。
「セナ、少し待っててくれ。話をしてくる」
「待ってる」
セナの簡潔な返事を受け取ると、俺は彼女達の方へと向かった。
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