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第55話 勇者竜宮院の黄金の未来⑤

先日の夕方頃に更新してますので

まだの方はそちらを先にお願いします!






○○○




「気分はどうかな? 勇者くん」


 キッと竜宮院はギルバート枢機卿を睨んだ。


「最悪だよ」


 ギルバート枢機卿が、竜宮院の反応を受けて話し始めた。


「清廉なクラーテル教の多くの者は、みんなが幸せになればいいって言うんだけど、私は少し違っててね。ああ、もちろんみんなが幸せになればいいという気持ちはあるのだけれど、それは二番目でいいと思っている」


 なら、一番は───


「まずは、私の周りの人間が健やかに、そして幸福に生きてくれたらいいと願っている。それが波及して、結果的に、大勢の人間が幸せになってくれたら願ったり叶ったりだね」


 ギルバート枢機卿の顔には怒りだけでなく、明らかな疲労が見て取れた。肉体的なものというよりは、精神的なものかもしれなかった。


「私はね、教会に属する者は自分の家族だと思っている」


 竜宮院が、俯いた。


「君は、多くのシスターに良からぬことをしたね?」


「ああ、した」


 嘘を()けない竜宮院が、ギルバート枢機卿の問いに肯定を示した。


「レモネにいたハロはね、本当に良い子だった。愚直なまでに真面目なあの子は、清貧が過ぎるほどに節制をしていてね、何回も修繕した服を着ていたよ。自身の新しい服はいらないから、貧しい子に買ってあげてくださいってね。全ては他人のためにと、動いていた彼女だったけど、つらい表情なんて一度も見せなかった。それどころか、彼女の見せる天真爛漫さは、何物にも代えがたいものだった。どれだけ悩んでいる人でも、彼女の側にいれば心が温まった。ハロは、まるで太陽みたいな子だったよ」


 彼は、何かに思いを馳せているようであった。


「私は、気付くのに遅すぎた。彼女の件を知って以降、それまでの君の足跡を辿った。そしたら、まあ出るわ出るわ。私は自分の愚鈍さを呪ったよ。ジェーンもキャスもケイトも、その他のみんなも、君にとってはただのモブで、ただの欲望の対象だったんだろう」


 わかるかい? とギルバートが問い掛け、答えを待たずに話を続けた。


「私はね、怒ってるんだ。だからこれは、聖職者にあるまじき復讐ってやつなんだ。私には、どうすれば君のように振る舞えるのかがわからない。君はさっき『どうして君達はこんな酷いことが出来るんだ』って私達に言ったね? 逆に私が聞きたいくらいだ。どうして君はそんなにも他人の痛みに鈍いのか? どうして君はそんなにも自分本位に振る舞えるのか?」


 竜宮院は、沈黙を貫いた。


「沈黙は金───か。ふん、まあいい。君に与えた四つの戒めは、私達から君へのプレゼントだ」


「何が、プレゼントだッ! こんなものは人権侵害だ!!」


 これからの生活を想像したのだろう。

 竜宮院の憎悪が、恐怖を完全に上回った。

 しかし、構わずギルバート枢機卿は話を続けた。


「それでは、君の処遇について、本題に入ろうか(・・・・・・・)


 竜宮院の時が止まった。

 俺も、驚いた。これで終わりじゃないのか───


「君はこれまで、七つの新造最難関迷宮を踏破したという名目の元で好き勝手やってきた。だからね、それを真実にしよう」


 竜宮院は「えっ?」と尋ねた。


「つまりね、七つには足りないけれど、残る五つの迷宮の攻略の一部を君に任せようと思うんだ。

 さすがに《限界突破》は永続的な効果ではなかったけれど、君の持つ《成長率5倍》という類稀(たぐいまれ)なスキルは、早々に君を一流の戦士にしてくれることだろう」


「どうして!! どうして僕が、お前達みたいな野蛮人達のために働かなきゃならないんだ!!」


 ギルバート枢機卿の提案に、竜宮院が声を上げて反対した。

 彼の反応を見て、ギルバート枢機卿が手を上げた。

 それは合図であった。準備はとうに終わっていた。


「【忠義の戒め(プライドフォビア)】」


 竜宮院を外した所(・・・・)に、光の柱が上った。


「今回はわざと外した。今の光は、傲慢に振る舞うことを戒める光。万が一、今みたいに、他者を軽んじた発言をすれば、私達は君の枷を増やす。数は最大七つまで追加出来る」


 ギルバート枢機卿の決意を感じ取った竜宮院が、ぼそぼそと何かを呟いた。


「どうして、僕が、こんな目に合わなくちゃならないんだ。異世界に来れば凄いスキルをもらって無双出来てハーレムを作れて知識を持ち込んでチヤホヤされて誰からも認められて何やっても上手くいくはずじゃないのか」


 それは愚にもつかない戯言であった。

 竜宮院の言葉にギルバートが堪えきれず「ぷっ」と笑った。


「何だよ? 僕を笑ったのか?」


 ギルバート枢機卿は目を剥いた竜宮院を宥めるように言った。


「君は本当に馬鹿だなぁ。私は、君の今言ったことのほとんど全て叶えた人を知っている。誰かって? 君と一緒に召喚された聖騎士くんだよ」


 おいおい、やめろし。

 ハーレムじゃねーよ。

 やらしいことなんてなんにもしてねーよ。

 それどころか、やましいこと一つしてねーよ。

 知識チートもしてねーよ。

 それどころか無知チートで毒キノコ食って死にかけたり、露天でおっさん達にボラれる始末だよ。


「彼は、君とは違って何事にも一生懸命だったからね」


 ギルバート枢機卿は話を変えるべく「まあ、そんなことはいいんだ」と述べた。いいんかい。もっと褒めろ。


「勇者くんには、新造最難関迷宮踏破の一部を担ってもらう。これはもう決まったことだ。拒否をしても構わない。その場合、君には生体ゴーレムのパーツになってもらう。さぞや、強力なゴーレムが創れることだろう」


 ヒッ……と息を飲んだのは竜宮院だった。


「私達の隙を見て、逃げても構わない。君のデータを登録した追跡アイテムで私達は地の果てまで君を追い掛ける。見つけ次第、君には生体ゴーレムの───」


 生体ゴーレムのパーツという単語はあまりにも強力なワードであった。


「う、う、うう、どうしてぇー! 僕は勇者なのにぃーー!!」


 竜宮院が声を上げて涙を流したが、ギルバート枢機卿はそれには触れずにこれからの予定を告げた。


「私達の用意した人員と合流後、レモネに戻ってもらう。そうして、まずは勇者くんには《時の迷宮》を攻略してもらおう」


 ギルバート枢機卿の言葉を聞き、


「どうしてぇ僕ばっかり不幸な目に合うのぉぉーー!」


 竜宮院は、大声で泣きに泣いたのだった。






 






最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

『おもしろい!』『続きが読みたい』『更新早く』

と思った方は、よろしければブックマークや『☆☆☆☆☆』から評価で応援していただけたら幸いです。

みなさまの応援があればこそ続けることができております。

誤字報告毎回本当にありがとうございます!




これにて勇者様の処遇の話は終わりです。


めちゃくちゃ書き直しました。

初稿はもっともっと凄惨な感じでしたが、センセイや山田がいるのにそこまでさせるかな……とか考えてこんな感じに落ち着きました。



前話の感想欄の伸びる速度が過去一でした。

たった一時間であんなに感想を頂いたのは初めてのことでした。

混乱させた皆様、ご迷惑おかけしました。

ミカさんも、誤解させてすいませんでした。



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― 新着の感想 ―
もっと凄惨なものにしてくださいお願いします!それを見る為に読んだのですよーー
[一言] いやそりゃ「コイツには不幸になって欲しい」って思う人間を延々増やし続けてきたんだから当たり前じゃん? そしてそう思う人間と接触する機会もほぼ失われてその評価は固定されたから、 今後も「ゆっ…
[一言] ギルバートさん、飄々としてるけど熱い人だった。
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