第54話 勇者竜宮院の黄金の未来④
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「ん? ちょっと待ってくれ。君のその魔力量───」
ギルバート枢機卿が一瞬呆気に取られた表情となった。
「もしかして《限界突破》は一時的なものだったのかい? あー、ならプランの練り直しが必要じゃないか」
眉を顰めたギルバート枢機卿であったが、すぐに気を取り直したのか、
「けど、まあいいか」
彼はクラーテル教会の関係者達へと視線を向けた。
「今日は、私の呼び掛けでクラーテルから多くの者が駆け付けてくれてね」
数多くの教会関係者の中から、教皇も含めた十人が、前に出た。彼ら彼女達はすかさず、拘束された竜宮院をぐるりと取り囲むように並んだ。
「みんな、君に対して思うところがある人間ばかりさ」
竜宮院が大きく喉を鳴らした。
「君は、バカだからはっきりと言ってあげないとわからないだろうけど、彼らはみんな君に憤りを覚えている」
周囲を見回した竜宮院が身体を震わせた。
「王都、グリンアイズ、スクルド、ブルームーン、シースカイ、フリッパー、ペルメル、ジンフィズ、サンガフ、レモネ」
ギルバートがいくつもの街の名前を告げた。
その全てに聞き覚えがあった……というよりもその全ては俺達が訪れた街であった。
「行く先々で、君はたくさんの人を傷つけた。君のエゴで傷つけられた者にも、大事な人がいる。彼らが復讐を目論んでも不思議ではない。ごく自然な当たり前のことさ」
拘束された竜宮院が必死に身体を捩った。この場から一刻も早く逃げ出すべく彼は全身で足掻いた。
「それに、君は聖女ミカに悪しき術を掛けた。教会上層部のおよそ全ての人間が彼女を敬っている。君のしたことは到底許せることではない。なのにどうして君は自分だけは無事でいれると思ったんだい?」
まあ、白痴に聞いても答えは出ないか、とギルバートは結論付け、さらに言葉を続けた。
「今から君に施すものは、私達から愚かな君へのプレゼントだ」
ギルバートの合図に従って、竜宮院を取り囲んだ者が、いくつかのアイテムを床に並べ、竜宮院を中心に幾何学模様や文字などの魔法陣の様なものを描いた。すぐさまそれは終わり、再び竜宮院を囲んだ彼らの内の一人が、何らかの詠唱を始めた。
「君はバカのくせに、口だけは一人前だったね。嘘も平気で吐くし、人を騙しても良心の呵責を微塵も感じない。そう考えると君には嘘の才能はあるのかもしれないな。だから、まずは君から"嘘を奪おう"」
ギルバートの声にはある種の覚悟があった。
「ああ、私としたことが、どうにも自身の怒りをコントロール出来ないみたいだ。我ながら未熟に過ぎる。君の、今際の際の声が聞きたいだなんて」
彼が再び、二指で空を切ると、竜宮院の口元の結界が剥がされた。
「もう、やめてぇぇぇぇぇぇーーーーー!!」
竜宮院が叫ぶと同時に、一人目の詠唱が終わった。
そして彼が、
「【不妄語の戒め】」
唱えると、竜宮院が一瞬光の柱に飲み込まれた。
あっという間の出来事で、竜宮院も自身に何が起きたのか理解出来ず、ポカンとしていた。
「これで君は未来永劫、嘘を吐けない。それがどんなに些細な嘘であろうと、他人のための嘘であろうとね。ああ、君の魂に"それ"が禁忌であると焼き付けたから、解除は出来ないよ」
「ああ、やめてください、やめてください」
ギルバートは淡々と説明を続け、
「誰か助けてよ……誰か助けてよぉ……」
「【不偸盗の戒め】」
「ミカ! 助けて! アンジェリカ! 僕を、」
その間にも、次々に詠唱がなされ、
「あーーー!! やめてよぉぉぉ!! どうしてこんなに───」
「【不邪淫の戒め】」
「僕が何をしたっていうんだぁぁぁぉぉ!!」
光の柱が竜宮院を飲み込んでは、
「いやなのぉぉぉぉぉぉーーーー!!」
「【不飲酒の戒め】」
「ビルべうどぉぉぉぉ!! たすけ」
消えを繰り返した。
「これで四つ。君の得意な嘘や、搾取、それから君の大好きな性行為や飲酒はこれから二度と出来ない」
う、ううと竜宮院が地に顔を伏した。
「万が一君がこれらをしようとしても精神と肉体の両方に激痛や痺れなどが起こり、君は一定時間行動不能となる。実際に行為を行えば、後遺症が残り、それは回復薬や回復魔法では治らない」
「どうして、君達はこんな酷いことが……出来るんだ……」
「酷いこと? 君は何言ってるんだい? 私がもう終わったと言ったかい? まだ半分も終わってないのに」
ギルバートが淡々と事実を述べた。
それを聞いた竜宮院が、
「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
涙を流して叫び声を上げた。
「もう、いいだろ!! もう、十分じゃないか!!」
竜宮院が魂の叫び声を上げた。
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誤字報告毎回本当にありがとうございます!
野暮な説明でお恥ずかしいのですが、
作者一部表現を誤り、誤解を産む形となってしまいました
ミカさんに関しては、やっちゃったら能力を失う云々とどこかで明記していると思います
今回結界も使ってましたし、つまりそういうことです。
誤解させてしまった方々やミカには本当に申し訳ありませんでした




