第52話 勇者竜宮院の黄金の未来②
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やれやれと肩をすくめてギルバートが言った。
「君は先程、これだけ大勢の前で吊るし上げられて、嘘つきの誹りを受けていたね。見てたよ。可哀想にね。本当に酷いと思うよ。そんなこと私にはとてもじゃないけど出来ない。あれこそ非人道的な行いの最たるものだね。
でも安心して欲しい。私の考えは彼らとは少し違うから。そもそも私はね、嘘にも理由があれば許されるべきだと思うんだ」
「理、由?」
ギルバート枢機卿の言葉に、竜宮院が単語で聞き返した。
「そうさ。理由だよ。そっちの世界にも『嘘も方便』って言葉があるだろう? こっちにもそういう考え方があってね。私は、嘘も場合によっては必要なものだと考えている。けど聖職者なんてものをやっているとね、教皇様をはじめ頭の硬い連中しかいなくてねぇ……その点、君は柔軟な思考をしているようだ」
「貴方は、物事の機微をわかってるようだ」
竜宮院の尊大な物言いに「うんうん」とギルバートは頷いた。
「そもそもの話だけど、どこの世界だろうと、どこの分野だろうと成り上がっていくには綺麗事だけじゃあ駄目だ。それは何も、私の所属する組織───神を敬うという名目を掲げているクラーテル教会でも例外じゃない。
ほら、あっちを見てみなよ。私の言ったことに心当たりのある人間がチラホラと顔を青くしてる───とはいえ、私もどちらかと言えば彼らと同じ考えなんで、彼らのことをどうこう言うつもりはないんだけどね」
ギルバートはいたずらっ子の様に人好きのする笑みを浮かべた。
「そういうわけでね、君が成り上がるために嘘を吐くなどの多少の強引な手段を採ったとしても、私は、それはごく自然なことであると考えている」
竜宮院は真剣な表情でどこか感じ入った様子をみせた。
「だから私が君の力を借りたいと思うのも、自然な流れなんだよ」
「僕は、何をすればいいんだ……?」
乗り気になった竜宮院は、それでも多少控え目に尋ねた。
「なぁに、簡単なことだよ。これまで君がやってきたように、様々な分野で知恵を貸してくれればいい。ああ、勘違いしないで欲しい。何も、難しいことは言ってない。君がアイデアや知恵を出してくれさえすれば、私が責任を持って、それを実行に移すだけの資金と一流の人員を提供する」
竜宮院が唇をぺろりと舐めた。
「この僕に、君の下につけと言うのか?」
答えなんてとっくに決まっているくせに、竜宮院は良い条件を引き出すためか、素直に頷かなかった。
「ああ、ごめんごめん。何も、別に私の部下になれとか、クラーテルという組織に属せとか、そういう風に強制しているわけじゃないんだ。少しわかりにくかったね。要するに、君にはコンサルのような形で、外部顧問としていて欲しいと言っているんだ」
「コンサル……外部顧問……」
ギルバート枢機卿の言葉に、竜宮院が何かを呟いたが、俺には聞き取れなかった。
「君を裁き、罰を与えるよりも、君のその豊かな知識や非凡なアイデアを生かすことこそが、この世界の発展に寄与するのだと、私は確信している」
竜宮院が意を決して尋ねた。
「もし、もし、僕が君の返事に頷いたとする」
「うんうん」
「すると僕は───君達の様な生活を送らないといけないのかな?」
言いあぐねた竜宮院は、『君達の様な』とぼかすことでギルバートへと尋ねた。
「君のいう『君達の様な』というのが、どのようなことを表すのかは大体が想像がつくが、そもそもクラーテル教会ってのは、それほど戒律が厳しくないからね───」
ギルバートが身内である教会関係者の数人に視線を送ったのがわかった。視線の先の数人が肩を震わせた。
「そもそも、うちにだって生臭坊主がいないわけじゃない。まあ、問題ないと思うよ。というか、そもそも君はクラーテル教の外部の人間という体だしね」
竜宮院が、しばし顎に手を当てて、悩んだ素振りを見せた。
ことさらに自分を大きく見せるための演技だ。
二分近くそうしていたか、しかし、そこで───
「僕は、君の話を受けようと思う。この僕の知識が君達の生活の礎になるのなら、喜んで手助けしよう」
竜宮院の言葉を受けて、ギルバートが顔を明るくした。
「おおーー!! まさに今日は素晴らしい日だ!! 聖騎士くんも勇者くんも適材適所。今日という一日で二人の英雄が誕生したんだ。これを素晴らしいと言わずして何を素晴らしいと言うんだ!!
今後、誰もが今日という日を『英雄記念日』と呼ぶことだろう!
みんなも、彼のため、アルカナのため、この世界のために、盛大な拍手をーーっ!!」
誰も拍手をしない中、ギルバートだけが満面の笑みで「パチパチーー!!」と拍手をした。竜宮院も満更でもなさそうであった。
「話は変わるんだけど、勇者くん、君が連れてきた女性陣は綺麗所しかいなかったねぇ」
唐突に切り替わった話に「ん、ああ」と竜宮院が頷いた。
「彼女達は、僕が長きに渡って厳選して連れてきたオンナだからね」
「なるほど。ということは、彼女達以外にも君の"オンナ"はいるのかな?」
「まあ、そういうことだね。二、三十はいるんじゃないかな? どいつも従順で可愛い僕のオンナさ」
「はー! 凄いねぇ! けど、『英雄色を好む』ともいうし、君ならそのくらい当然なのかな?」
ギルバートの言葉に、竜宮院がにんまりと笑った。
「僕が思うに、成功を収めるにはエネルギッシュであることが必要不可欠だ。そうしたずば抜けたエネルギッシュが、多くのオンナを求める理由かもしれないね」
「ははー! なるほどー!! 恐れ言ったよ勇者くん!!
ならちょうど良かったよ。君にはこれからは僕の近くで働いてもらうことになったけど、クラーテルのシスターはね、正直キレイな娘が多くてねー! 絶対に君も満足すると思うね」
そして、竜宮院もこれから来たる、己の黄金の未来を思い描いてか薄ら笑いを浮かべた。
どうして、彼は気付かないのか。
あっけらかんと軽薄に話すギルバートから放たれる気配に、俺は背筋を震わせたのだった。
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