第51話 勇者竜宮院の黄金の未来①
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勇者が暴れ出すという前代未聞の騒ぎが収まり、それぞれが元の位置へと戻り、気を取り直して話の続きをすることとなった。
例外は竜宮院。彼は最低限の回復しかしてもらえず、さらには数々の魔法やら結界やらで四肢を縛られ、言葉を交わせないのはもちろん、身動きすら取れず何とか膝立ちでいることが精一杯の状態であった。
再び前に立ったマディソン宰相が「さて」と再開の声を上げた。
「まずはイチロー、そなたには謝らなければならぬな。
聖剣の破片が光を放ち、空に消えていったあの瞬間、これまで何が起こっていたのかはっきりと自覚出来た。私達は、私達はおかしくなっておったんだな。勇者の術中に嵌まった私は、そなたがおらぬところでも、過分にそなたを貶めた。本当に私は愚かであった」
この通りだ、とマディソンが頭を下げた。
「私は戦いに門外漢ではあるが、先程の勇者との戦闘は誰が見ても、一目でわかる凄さがあった。
やはりとも言うべきか、全てはアノンの言う通りであった。
これまでの私達の過ちを認め、勇者の功績はイチローのものであったと公表しよう。そしてまた、先程のそなたの主張通り、聖女ミカ、賢者アンジェリカ、剣聖エリスの三人に関しては、そなたの言い分を全面的に考慮し、罪には問わない。発表する際に三人のことは、私達の方で上手く配慮することを約束する」
リファイアが光を放ち空へと消えたあの瞬間、かつての俺と竜宮院を知る人の記憶の中の俺達の認識が、逆になっているという現象が解除されたようだった。
「そのお心遣いに感謝いたします」
「そなたとは、後でもう一度話をしたい。了承してくれるか?」
「積もる話もあるでしょうし、喜んでお受けしましょう」
俺の返事に、宰相のじいさんが満足そうに頷いた。
「これで私からの話は終わりとする。後はよろしく頼むぞ」
宰相の代わりに現れたのは若き枢機卿であった。
「マディソン宰相殿に代わり、ここからは私が仕切らせてもらおう。私の名前はギルバート・ラフスムス。クラーテル教の枢機卿を務めさせてもらってる」
玉座の間に足を踏み入れた当初から、俺へと何度も視線を投げかけてきた男であった。その視線から悪意は感じずとも、俺にも思うところはあった。
「聖騎士イチローくんだね。良い目をしている。さすがは───
ああ、そんなにかしこまらないでよ。緊張しなくていいから。それから先程、私の言いたいことはマディソン宰相が全て仰ってくださったけれど、私も君に直接礼を伝えたかった。
私達のために頑張ってくれてありがとう。その苦労は並々ならぬものであっただろう。私達は出来る限りの誠意を持って、君に報いることを約束しよう」
俺は彼からの謝辞を喜んで受け入れた。
クラーテル教枢機卿の一人。
ギルバート・ラフスムス。
気さくで温和な雰囲気な人だと思った。
けれど、それが彼の一面でしかないことは俺にはわかっていた。
微笑みを浮かべ、柔和に細められた彼の瞳の奥にある、憤怒の炎を、俺は感じ取っていた。
「勇者であるリューグーインくんに聞きたいんだけどいいかな?」
彼は微笑みを湛えたまま、竜宮院へと問うた。
四肢の自由を奪われ膝立ちのままの竜宮院が、急に名前を呼ばれたことにはっとした。
「勇者くん、そんなに驚かないでよ。ほら、深呼吸、深呼吸って、あっ! 口を塞いでるから出来ないか。誰かわからないけど、勇者くんの口のあれ剥がしてあげてー! 大丈夫? 苦しくない? 勇者くん」
ギルバートの雰囲気に押され、竜宮院が頷いた。
「ぷはっ! 僕を、どうするつもりだっ!!」
口元が開放された竜宮院が尋ねた。
「私はね、マディソン宰相達とは違ってね、勇者くんの有用性を買っているんだよ。君が私達の言うことを素直に聞いてくれるなら、今回のことは大幅に減刑してもいいと考えている」
彼の言葉に、疑うように竜宮院は訝しげな表情を浮かべた。
「ちょっとちょっと警戒しないでよ。君の話はいくつか聞いてるよ。例えば肥料作りに失敗した話や、難病の少女を救おうと外科手術を提案した話もあるね。あれは思うに、君の良心の発露だったんじゃないかな? 君だって勇者だ。人を救いたかったんじゃないのかな? 大丈夫。私は知っているから」
竜宮院がギルバートの言葉に関心を示した。
「私はね、君ばかり悪いという評価は誤りであると思っている。先程の話もそうだけど、せっかく君という知恵の泉から"肥料作り"というアイデアが授けられたんだから、それを活かせなかった農家にも非がある。けれど悲しいことに、この考え方は凡人にはどうもわかりにくいみたいでね。その点君にはわかるだろう?」
ギルバートの言葉に、ぱぁっと表情を明るくした竜宮院が頷いたのだった。
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