第50話 聖騎士 vs 勇者(究極) ③
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「人聞きが悪いな。かっこいいだろ」
俺の姿以上に、彼という存在自体がバケモノだ。
その数々の悪行を思えば、決して言い過ぎではない。
他を寄せ付けない自己中心性を持ち、自分本位が過ぎればそれはもう、バケモノと変わりはない。
一歩二歩と後ずさった竜宮院であったが、やがて意を決したように声を張り上げた。
「ッッッ──《時間破壊》ッッッ!!」
視界。閃光。無数。縦横無尽。全方位。
魔力を極限まで詰め込んだ十二の腕と、左腕と光魔法で誂えた右腕で以て、ひたすらに捌き続けた。
それは七秒か、八秒か。しかし、彼にとっても、そして俺にとってもひたすらに長い時間であった。
しかし、
「六発か───」
超加速を終えた竜宮院の身体がくの字に折れ曲がり、胸、腹、両肩、右脇腹がボコォォと変形した。
「痛、いあ、あ、どう、して」
「もう少し痛そうにするかと思ったけど、全然平気そうじゃないか。骨折も無さそうだしよ」
「なんで、俺は最強に、なったのに……パワーも、スピードも俺が圧倒して、たじゃないか」
ダメージが抜け切らない竜宮院が心底不思議そうな声を漏らした。
「簡単なフェイントに引っ掛かるような腕前でよく言うな。単調で力任せの攻撃なんてすぐに適応される」
「ギ、グギギ」
「もう、諦めろ竜宮院。俺が言うのもこれが最後だ。大人しく投降して罪を償え」
竜宮院の目は未だに死んではいなかった。
けれど、それを隠すように、彼はひきつった笑みを浮かべた。
「山田、僕達は同郷から来た数少ない友人だろ? そのよしみだと思って僕を救ってくれないか? 僕はもう、悪いことはしない。だから僕を上手く逃してくれよ」
俺の表情を見て何かを悟ったのか彼は言い募った。
「みんなにはすまないことをした!! 本当だ!! 僕は何て愚かな人間なんだ!! 取り返しのつかないことをした!! みんなのことを思うと胸がいたくて今も涙がとまらないんだ!! 僕は心から反省しているんだ!!」
俺は、首を振った。
「竜宮院、実は俺も反省してる」
竜宮院が俺の言葉に疑問符を浮かべた。
「お前をここまで野放しにしてきたことをな」
「山田ッッッ───」
ぐっと歯噛みした竜宮院がババッと両手を広げて、言葉を絞り出した。
「本当なんだ。反省してるんだ。それに僕は暴力が嫌いなんだ。暴力はやめて言葉で話し合えばきっと通じるはずなんだ。僕達は同じ故郷を持つ仲間───いや、僕達は同じ星に住む人間なんだからさ」
彼の形の良い口から薄っぺらなセリフが矢継ぎ早に放たれた。
必死に捲し立てる彼の姿は道化そのものであった。
「僕がここから脱出出来たら、君には君の望むだけのものを用意する!! 女だって!! 金だって!! 美術品だって!! レアアイテムだって!! 珍味だって!! 何でも何でも、何でも用意して君に恩返しするから、だから僕を───」
「もうやめろ、竜宮院。俺は逃がすつもりはないし、お前はここで終わりだ」
彼はこれまで好き放題にやってきた。
その罪を償わないといけない。
「それよりお前、『暴力は嫌い』って言ったな。俺も暴力は嫌いだよ。
けど、誰にでも、拳を握りしめないといけない場面ってのはあるもんだ」
そうだ。これは俺達の覚悟の問題だ。
「───それが今ってだけだ」
「どうしてぇ!! どうしてぇわかってくれないのぉ!! 僕は本当に反省してるのにぃ!!」
竜宮院が泣き言を終えたタイミングで、
「《時間破壊》ッッッ!!!」
一瞬で最高速度に達した竜宮院が、俺に背を向け、結界まで飛び出すと、剣を二度、三度叩き続けた。
「《超光速戦闘形態》」
二人の神気結界が破れるわけがない。ようやく気付いた竜宮院が、覚悟を決め、俺に相対し、地を蹴った。
完全なる光速戦闘。
超高速の世界。同じ土俵。もはや彼の剣閃の全てが解った。
「──────ッッッ!!!」
竜宮院が声にならぬ声を上げた。
黒グラムで、振り終わり様の彼の剣を叩き抜き、真っ二つにぶち折った。すかさず黒グラムは鞘にしまい、
「竜宮院、《限界突破》に感謝しろよ」
十二本ある内の二本の光の腕で彼を、拘束し、持ち上げた。
残る腕がボコンボコンと胎動した。
「な、なにすんだ、このバケモノ!!」
「人を人と思わないお前の方がよっぽどバケモノだろ」
「このッ!! モブのくせにッッ!! 山田ァァァ───ぐええええええええええぇぇぇ!!!」
もう良いだろ。そのうるさい口を閉じろ。
右の拳を顔の叩きつけたが、拘束された彼は、後ろにぶっ飛ぶことなくその場で磔となった。
「お前が執念深いことは、もうよく知ってる」
これまでの彼の行いは、召喚当初から企んでいたことだ。
「だからお前が完全に行動不能になるまで俺は殴るのをやめやしない」
「ひゃ、ひゃだ、ひゃだァァ!! ひゃめれくらさい!!」
両腕と十の光の腕───そいつを使った俺の、
「全力のラッシュだ」
ボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴン───
それは超高速状態の解けるまでの、
ボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴンボゴン───
たったの五秒でのことだ。
俺は竜宮院の全身に千発以上の拳を叩き込んだ。
やがて、《超光速戦闘形態》が解除され、背中から生やした光の腕が粒子となり消えると、そこには、徹底的なダメージで、ずだ袋の様になった竜宮院が横たわっていた。
ようやく、終わった。
俺はぐったりとなった彼を光魔法にて拘束し、みんなの方へと駆けていった。
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