第49話 聖騎士 vs 勇者(究極) ②
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「で?」
それが何だといういうのだ。
「『で?』って……お前───い、痛いだろ!? 泣き叫べよ!!」
左足と右腕を光魔法で代替し、拾った左腕を光魔法で接着。
これくらいいつものことだろ。
ポーションすらいらない。
「竜宮院、お前はどこまでいってもつまらない人間だな」
彼が目ン玉をひん剥いたのが分かった。
「地位も人間関係も、他人のものを喜んで奪い取って、それだけで飽き足らず技までマネかよ。本当にお前って奴は底が浅過ぎてつまんねー奴だ」
《瞬動》にて思考は加速済み。
「うるっさいうるっさい!! お前みたいなモブに───」
どこまでいっても竜宮院は変わりはしない。
俺は彼に飛び掛かり、目一杯に握りしめた拳を、彼の端正なマスクへと全力で叩き込んだ。
「ぐぅバァァァァァッッッ!!!」
竜宮院は吹っ飛んだ先の結界に衝突し、弾かれ、ゴロゴロと転がった。
「《限界突破》? 最高のスキルじゃないか。今から俺が、どれだけ殴っても壊れないんだからな」
殴りつけた方の拳をぐーぱぐーぱと数回握り、光の腕が完全に制御下であることを確認する。
「オールグリーンだ───」
竜宮院が起き上がる前に、センセイとアノンへと視線を送る。
体感ではあるが、一度、彼の《時間破壊》を受けたからわかる。あれは俺の《超光速戦闘形態》だ。
「あががががッッ!! 痛ぃ痛ぃ痛ぃぃぃぎぎッッッ!!」
竜宮院が頬を押えてうめき声を上げている傍ら、俺の意図を解したセンセイやアノン達は、てきぱきとみんなを誘導し、神気結界の外へと出た。ここからは───
「竜宮院、みんなは結界の外に避難した。ここには俺とお前の二人だけしかいない。正真正銘、二人だけの空間だ」
彼が立ち上がり、膝の砂を払った。
「山田ァ!! ついさっき半ダルマにされたくせにやけにイキってるじゃないかァァァ!! よくも俺を殴りやがってッッッ!! 俺の力と、俺の《時間破壊》に恐れ慄いて謝るなら今の内だぞッッ!!」
言い終わる前に、グラムを拾った俺が先手を取った。
一足飛びからの、唐竹割り───からのフェイント───そこで横一文字───竜宮院は上昇した能力のみで無理やり何とか追いついたが───キィンッ!───彼の剣を弾き飛ばした。
「よく、追いつけたな」
「クソッッ!! こんなはずじゃないんだッッ!! なのにどうしてッ! どうしてッッッ!!」
竜宮院が真っ赤に血走った瞳で俺を呪い殺さんばかりに睨みつけた。
「俺は《限界突破》を使って人類の限界を超えたはずなんだ!!」
「《限界突破》で限界を超えた、か。
お前らしいな。お手軽ワンタッチで《限界突破》───恥知らずなお前にちょうどぴったりのスキルじゃないか」
「だ、黙れ」
「黙らねーよ。俺は何度も自分で限界を超えてきたぜ?」
「モブキャラごときが何を───」
「敵はいつだって格上だった。
何度も死にそうな目に合ってきた。
だけど、その度に泥臭く足掻いて、限界を超えてきたんだ」
物理無効。超強力な魔法耐性。魔法反射。無限復活。炎の精霊身体。超加速。氷結概念。妖精の王女。不死。凄絶なる剣鬼。最強の龍。人類の敵。
様々な敵と相対し、俺は生き延びてきた。
限界を───己を超えなければ生きてはこれなかった。
「お前は器じゃねーよ、竜宮院」
竜宮院が押し黙った。
「俺が、インチキ野郎なんかに負けるかよ」
俺は彼に向かって言い切った。
すると竜宮院は、何かをボソボソと呟いた。
「大丈夫、大丈夫だ。僕は大丈夫。俺には最強最大の必殺技である《時間破壊》があるんだ。さっきは上手くいったんだ」
やはり彼は、正気ではない。
「《時間破壊》」
彼の姿が瞬間───光速に達し───ブレた。
けれど、脳の部分加速により、動きを捉えることが出来た。
間断なく襲いくる加速された彼の剣撃を、腕の部分加速により、弾いて、弾いて、弾いて、弾いて、弾いた。しかし───
「はッはァァァーーーー!!」
竜宮院の加速が収まり、彼の哄笑が響いた。
その瞬間、俺の身体に幾つもの剣閃が走り、血が吹き出した。
大丈夫、問題はない。
急所は無事。全て切り傷だ。
やっぱりだった。彼の《時計破壊》は俺の《超光速戦闘形態》をより使い勝手をよくしたものだ。
俺のものより魔力消費も少なく、連続使用が効く。
けれど、もう、そろそろだ。
あと一回ほどで───
「やっぱり俺は最強だァァァア!!」
俺の怪我を見て気炎を上げた竜宮院であったが、俺は彼に構わず『センセイ、ミカ、あとで頼む』と心の中で謝罪しながら、先程の傷を光魔法で覆った。
「御託はいいから、さっさと来い」
喜びの声を妨げられた竜宮院が「謝ってももう許さない!」と謎の奇声を放ち、「《時計破壊》」と再度超加速してみせた。
俺は背中から光の腕を四本ほど生やし、彼を迎え撃った。
彼の技は俺の模倣、というよりも上位互換版と言えるかもしれなかった。けれど、所詮は───
「どうだっ!! 山田ッッッ!! 手応えがあったぞ!!」
彼が加速を収め、俺に勝ち誇った表情を見せた。
俺の頬に一筋の傷が走り、背中から生やした光の腕がぼとりぼとりと切り落とされていた。
「奇遇だな竜宮院、俺も手応えがあった」
《時計破壊》。
凄まじい威力だった。
けれど彼の攻撃は、どこまでも単調だ。
「もう、見切った。それに、」
俺も、今一度限界を超えてみせよう。
「なんだ……それ、は……ばけもの」
だから、俺は、自身のこれまでの制御可能限界を超えた、十二の光の腕を背中に創り上げた。




