第47話 聖騎士 vs 勇者 ⑤
本日2話目になります
前の話がまだの方はそちらからお願いします。
○○○
砕け散ったリファイア。
その瞬間がスローモーションに感じられた。
嗚呼、ああ。
一人で過ごした日々。
思えば俺の相棒はリファイアだけであった。
これまでに踏破した全ての迷宮はリファイアなしでは成し遂げることは出来なかった。
リファイア───リファイア───リファイア───しかし感傷に浸る時間はもうない。
今すぐにでも、竜宮院のスキルの具現たる黒いオーラが、俺達のいる空間を満たし、事象を捻じ曲げるべく、脈動している。
そこで、俺はようやく気付いた。
リファイアは砕け散り、無数の破片に姿を変えた。
そのときの煌めきが───欠片が───空間に滞留していた。
「リファイア、お前───」
滞留した欠片は、渦巻き、そして───
「山田ァァ!! 人間は諦めが肝心なんだァァァ!!!」
竜宮院が黒いオーラに勢いをつけるかのように、腕を勢いよく前へと突き出した。さらに口を三日月のように釣り上げ、哄笑を上げた。しかし、未だに宙を浮遊するリファイアの欠片───その内の目視出来るほどに大きな欠片の二つが圧倒的速さで放たれ、
「ぐぅぅぅぅぅゔッッ……どう、じで」
竜宮院へと突き刺さった。
「痛、だい……痛い、よ」
それを皮切りに、いくつかの欠片が俺達へと飛来し、一つはミカに、一つはアンジェに、一つはエリスに、一つはパフィに突き刺さり。そして最も大きなそれは、俺へと突き刺さった。
その場で滞留したリファイアの欠片は、眩い光を放ち、途轍もない速度で、セナとセンセイの結界の外へと拡散された。
「何で、何で出来ないんだ!!」
竜宮院の喚く声にハッとなった。
周囲を見た。竜宮院のスキルである黒のオーラは完全に霧散していた。
☆竜宮院の体内にある二つの《護剣リファイア》の欠片☆
《護剣リファイア》の主たる山田のスキル《スキルディフェンダー》の効果を獲得し、さらに聖剣の頃の性質《増幅器》によって《スキルディフェンダー》を極限まで増幅させた効果を持つ。
今現在、欠片は竜宮院王子の体内に入り、分子レベルで溶け込み、混ざり合い、分離は不可能である。
一つ目の欠片により竜宮院王子のスキル《■■■■■■》は生涯封印されました。
二つ目の欠片により竜宮院王子のスキル《○○○○○○》は生涯封印されました。
「どうしてッ!? どうしてッッ!! 僕の力ッッ!! ああッッ!! ああッッ!! ああッッ!! ああんッッ!! 何でだよッッ!! 何でなのォォォォォ!! 何で使えなくなっちゃったのおおおォォォォォ!!」
彼の悲鳴のような雄叫びが虚しくこだました。
そしてまた一つ。
啜り泣く声が聞こえた。
声の主はパフィだった。
膝をついて両手で顔を覆いさめざめと泣いていた。
大丈夫だ。心配するな。忘れてしまえばいい。
幾つもの掛けたい言葉が脳裏をよぎった。
けれど、まだ終わってなかった。
竜宮院が幽鬼のようにゆらりと佇み髪を掻きむしった。
血走った目が彼が正気を失っていることを表していた。
いや、彼はそもそも正気ではなかったか。
「山田、お前みたいなモブキャラのせいで俺の計画は台無しだ。
お前は、神から与えられた俺の才能を妬んで、わざわざ俺の足を引っ張ったんだ。抜きん出た人を妬み嫉みで攻撃するだなんて、恥ずかしいと思わないのか?」
「恥ずかしいのはお前だろ。寄生プレイ人生とか恥ずかしくないの?」
俺の言葉に竜宮院がキッと反応した。
「お前は、何にもわかっちゃいない!! 俺にはそうするだけの権利がある!! 日本にいた頃も特権階級の人間ってやつは確かにいた!! 勇者の俺があいつらと同じことをして何が悪いんだ!!」
「違うだろ」
「このモブヤローが何が違うんだッッ!!」
「わかんねーのか? わかんねーフリしてるだけだろ?」
「何……を?」
「お前は特別でも何でもないただの平々凡々な男だろ。
そもそも何の能力もないし、何も成しちゃいない。
したことと言えば、酒に溺れて、女を抱いて、虚栄心を満たすためだけに人を振り回して他人に迷惑を掛け続けた───ただそれだけだ。
いくら御大層な口上をいくら述べようと、お前の本質は何も変わりはしない。お前は自分のことを一廉の人間と思い込んでるかもしらねーけど、大層なことは何も出来やしない」
賢しらな口調や大物振った振る舞いはもはや滑稽ですらある。
「お前は己をコントロール出来ず他人に迷惑をかけ続け、欲望にズブズブに溺れたただの悪党だ」
竜宮院が顔を真っ赤にし、肩をいからせた。
「黙れよッッ!!」
彼も自分でわかっているのだ。
「英雄ごっこは楽しかったか?
敵の前に立ったこともないのに、分不相応にもSランクパーティを率いたんだろ。聞いたぞ。お前のせいで全滅寸前だったそうじゃないか。その責任もエリスに押し付けたんだってな。
恥の上塗りにもほどがあるだろ。
探索者界隈じゃお前のこと『勇者は臆病で考え足らずで器の小さな雑魚』だって笑い者になってんぞ」
「黙れよッッッ!!」
「黙るかよ。商売ごっこは楽しかったか?
みんな言ってるぞ、お前のこと。
経営の経験もセンスも、欠片ほどもないくせに、いっちょ前に口を挟んでくるただの詐欺師だってよ!!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇーーーッッ!!」
「『黙れ』しか言えねーのか? 語彙力少ねーな。
図星だから動揺してんだろ」
指摘された竜宮院は、消火器のように顔を真っ赤にし、『黙れ』すら口に出来ず「ぐぅぅぅ」と唸るように呻いた。
「何度でも言ってやるよ。
御大層な言葉を使ったところでお前自身の中身はてんで空っぽ。どこまでいってもお前はただの穀潰しの詐欺師だ。
勇者だって? 勇者だからなんだよ?
聖騎士? そんなもん関係ねーよ。
本当に大事なものは───」
かつてを思い出して、胸が詰まった。
そうだ。俺は、いつだってそうやって生きてきた。
「大事なものは、俺達の心の深奥にある、己を己たらしめる確固たる芯だろ」
竜宮院が、歯噛みしたのがわかった。
「お前には、己の芯がねーよ。
全ての行動は自分のためで、一番大事なのは自分自身。
お前のやってることは己をことさらに大きく見せるためだけに行われた、無為で空虚な単なる独りよがりだ」
「五月蝿ぁぁぁぁいッッ!!」
「次の言葉は『五月蝿い』か?
もういい。お前は謝らない。そういう奴だ。
だからこれで終わりだ」
彼を拘束しようと、近付いた瞬間、
「僕は、暴力が嫌いなんだ」
先程までの様子とは打って変わって───
「だから、本当は使いたくなかった」
竜宮院がポツリと呟いた。
「僕はここから脱出して、僕に突き刺さった破片を絶対に取り出して全てを取り戻してみせる。だから一度しか使えないこのスキルを───」
俺は彼を拘束すべく、光魔法で輪を作って放った。
しかし───
「《限界突破》」
彼が告げた。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
○○○○○○○のか不明である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限○○何を○すのか不明である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限○○何を指すのか不明である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限界が何を指すのか不明である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限界が×指すの×××である。
◇◇◇◇
☆《限界突破》☆
限界が指す×の××××××である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限界が指すものは×××××である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限界が指すものは×類の×界である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限界が指すものは×類の限界である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限界が指すものは人類の限界である。
◇◇◇
☆《限界突破》☆
限界が指すものは人類の限界である。
[現時点での人類の限界点→山田一郎]




