第46話 聖騎士 vs 勇者 ④
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☆召喚者に与えられしスキル☆
この世界に召喚された者は多くのスキルを得る。
特に勇者に与えられるスキル数は群を抜いており、他の職業とは一線を画すほどである。またそのスキルの一つ一つが強力であり、戦場においては、状況を一気に覆すジョーカーとなり得る。
これこそが多くの地球人が召喚される理由でもある。
また、召喚者に与えられしスキルはその人物の性格、特技、興味、思考などの様々なパーソナリティが反映される。
舞台が好きだった召喚者には、勇者の戦闘スキルの他、《舞台》に関するスキルが与えられた。
歌が好きだった召喚者には、《歌唱》に関するスキルが与えられた。
刀剣や刀鍛冶に興味があった召喚者には《鍛冶》に関するスキルが与えられた。
人との信頼を大事にし、家族や友人を何より大切に思い、また困った人がいたら見過ごせない、バカのつく程のお人好しの召喚者───山田一郎には、《守護神》《信頼と信用》《スキルディフェンダー》といった大切な人を護るためのスキルが与えられた。
では勇者として召喚された竜宮院王子にはどのようなスキルが与えられたのか?
他者が己のために働くことは当然で、他者の功績ももちろん己のもの。自分以外がどうなろうとも構わない───そんな内心をおくびにも出さずに日常生活を送り続けた彼には、一体どのようなスキルが与えられたのか?
勇者竜宮院のスキルの具現たるオーラは、タールを混ぜ込んだような、全ての色を喰らい尽くす黒であった───それは比肩するものの無いほどに強力無比なスキルであったが、バフと《護剣リファイア》による増幅効果により強化された山田の《スキルディフェンダー》によって抑え込えこまれ、ただ消滅を待つのみというところまで追い詰められた。
青褪めた顔で、泣き言を漏らす竜宮院は、しかし諦めが悪かった。彼の中には全てを認め、罪を償うという思考は微塵も存在しなかった。
彼にあったのは未来へのビジョンであった。
それも、姫を娶り、王を追い落とし、聖女を側室にし、政教の全てをその手に納めんとする未来図だった。
そのためには、この死中を自身の強力な《スキル》によって乗り切る必要があった。
そして、彼には、明るい未来を実現するまで絶対に諦めないという蛇のような執念があった。
竜宮院は、迷うことなくわずかな可能性に賭けた。
彼は、その賭けに───
○○○
竜宮院から、黒いオーラが再度噴き出した。
「やったぞ!! やった!! やはり正義は勝つんだッッ!!」
その威力は先程よりも強く、俺とリファイアによって抑え込んだ黒いオーラが、ジリジリと空間内での存在感を強くし始めた。
竜宮院のスキルの急激な威力の上昇に、加速度的に俺達の負担が大きくなった。バギン。食いしばった奥歯から音がし、口内を血の味が満たした。
「山田! 神様はやっぱり僕を選んだんだ! 不思議そうな顔をしてるね!! いいよ、僕が何をしたか教えてあげるよ!!」
ピシリ───何かの音が聞こえた。
「スキルってのはね、基本的には一度用いたら、クールタイムを挟まないと使えないってのが常識だ。けれど、僕は常識を打ち破ったんだ!!」
言葉を発する余裕など、ない。
「親切な僕が教えて上げるんだから耳をかっぽじって聞きたまえ!! 僕がやったのは───」
「黙、れ」
竜宮院が俺の滝のような汗を見てせせら笑った。
「僕は、スキルを連続使用することで、効果を重複させたんだ!! まあ、僕は選ばれし勇者だからこそ、このような芸当が出来たんだろうね!!」
黒いオーラはさらに俺のスキルを押し返した。
もはや拮抗状態と呼べるものではなかった。
鼻の下に生ぬるい感触があった。
「リファイアッ!! あと、もう少しだッッ!! 俺とッッ!! 俺ともう少しだけ頑張ってくれッッ!!」
俺の呼び掛けに従い、リファイアからさらなる光が生じた。
俺とリファイアの死力を振り絞った光だった。
「うおおおオオオォォォォーーーーーー!!」
しかし、竜宮院が「あくまで保険だよ、これは」と告げた瞬間───三つ目───さらに重複された黒いオーラが俺達の光を飲み込まんと勢力を広げ───そして、
ピシビキリ───手元から崩壊の音が聞こえた。
信じたくない、音だった。
☆聖剣☆
その名を《護剣リファイア》という。
かつての鍛冶スキルを持つ勇者の少年によって創られ、誰かを護る剣であるという意味とamplifier(増幅器)という単語を元に名付けられた。
召喚された当初は勇者に与えられたが、《鏡の迷宮》のボス戦において山田の手に渡る。
以降は、弟子のエリスに譲渡されるまでの間、長きに渡り次々と新造最難関迷宮の攻略に取り掛かる山田に力を貸し続けた。
ただし、《真名》が判明するまでは、力を十全に発揮出来ずに、オリハルコンやアダマンタイトなどの《神石》に叩きつけても全く傷つかない超硬い鈍器として扱われていた。
山田の手を離れたあとも、遣い手の一人であるエリスに警告を出し続けた。
そもそも、無機物たる聖剣に感情など存在するわけがない。
鍛治スキルによって彼の剣を創り上げた少年勇者も、聖剣にそのようなものを付与してなどいない。
しかし《封印迷宮》内部にて、《真名》を取り戻して以降も、エリスの窮地を救い、ミカやアンジェリカを正気に戻すべく働き続けた。
そしてまた今回も、創り手の願い通り大勢の民を護るため、そして主の一人と認めし聖騎士山田のため、《護剣リファイア》は己が持てる全ての力を振り絞った。
○○○
信じたくなかった。
けれど、信じないわけにはいかなかった。
俺とリファイア。
竜宮院のスキルの圧倒的な力の前に、何とか、全力を放出し、紙一重で、耐え忍んだ。
しかし───
「ここッ! までッ! きてッ!! クッソオオオオオオオオオォォォォッ!!」
俺よりも先に、《護剣リファイア》に限界が訪れた。
パッキィィィィィィィィィーーーーン!!
崩壊だ。
俺の相棒たる《護剣リファイア》が完全に砕け散り、無数の破片となり、宙を舞った。




