第39話 私達の罪
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☆《破邪結界》☆
聖女ミカによる結界の一種。
結界内の対象は大幅に能力を削がれる。
また対象が悪しき存在である場合、その効果はさらに大きいものとなる。
強力な結界であるが故に使用難易度が非常に高く、消費魔力も莫大なものとなる。加えて、玉座の間という広大な空間を覆うほどの《破邪結界》などという芸当が可能な人物は聖女ミカをおいて他にはいないだろう。
☆《外部内魔力》☆
体内に存在する魔力を、魔法に変換せず魔力のまま体外へと放出したもの。
アンジェリカは体外に放出した魔力を操作し、魔法を発現させることで極度に小さい魔力放出孔に限定されることなく、擬似的な上級魔法を使用することを可能とした。
またこの技術によって、アンジェリカのオリジナル魔法である《反射鏡》という『魔法を反射する魔法』を用いることが出来る。
今現在も、玉座の間全域に極低濃度にアンジェリカの《外部内魔力》が散布されている。
○○○
ミカがアンジェとエリスに顔を向けた。
彼女達の視線が交わった。たったそれだけだ。けれど、それだけで彼女達に通じ合う何かがあったのか───
「クラーテル教会で聖女を務めておりますミカと申します。この場で三人の代表として発言させていただくことをお許しください」
ミカが深々と頭を下げると、どよめきが起きた。
「それでは聖女ミカ殿、話を続けてくだされ」
ミカの提言に、マディソンが頷き、話を促した。
「私は長きに渡って彼───勇者リューグーインの側で御使えさせていただきました。その間の勇者パーティのことは仔細把握しております。
これまで彼が成したとされるその功績の全ては、嘘偽りです。
新造最難関迷宮を実際に踏破した人物は勇者ではなく、先程マディソン宰相の仰られた、勇者と一緒に召喚された聖騎士ヤマダに相違ありません」
彼女の声に、決意のようなものを感じた。
それが何なのかは───
「こんなのはインチキだッッ!! 絶対にやらせだッッ!! 悪質なやらせだッッッ!!! おいッッ! ミカッッッ!!! これは一体どういうことなんだッッッ!! 今なら許すッッ!! 今なら許すから早く取り消せッッッ!!」
多くの者の前で喚き散らす竜宮院をミカは一瞥もせず、視線を前に向けたままであった。
「聖女ミカ、勇者リューグーインはこの様に言っておるが?」
マディソンが竜宮院を小馬鹿にするように、軽くミカに尋ねた。
「私の証言は『クラーテル様の御名』に誓って、全て真実です」
ミカの話を遮るように、竜宮院が「アンジェリカッッ!! エリスッッ!! お前達も何とか言ったらどうなんだッッッ!! 勇者であるこの俺に歯向かいやがってッッ!!」と騒ぎ出した。
しかし、教会関係者の誰かによって生成された結界が口に貼られた。
竜宮院が静まったタイミングでミカが話を再開させた。
「私達三人も彼と同様に償い難いほどの罪を犯しました。勇者リューグーインが功績を偽ったように、私達三人の功績もまた、嘘偽りに塗れたものでした」
「嘘偽り、とな?」
「はい、その『嘘偽り』にございます。真実、私が七つの迷宮踏破の内、寄与したのは《鏡の迷宮》だけとなります。また、私以外の勇者パーティの一員であるアンジェリカは《光の迷宮》踏破、エリスは《刃の迷宮》踏破のみに貢献いたしました」
「聖女ミカがこのように言うておるが?」
マディソンが、アンジェとエリスに問うた。
「間違いございません」
「聖女ミカの言う通りです」
二人は、答えた。
国がどうしようが、これは結局のところ俺と彼女達の問題だ。
俺はいまさら国に報告なんぞしなくても良いと言った。
それなのに、彼女達は全てを白日の下に晒した。
「三人の代表者として聖女ミカに問う。
お主、自分の言うておることの意味をわかっておるか? 最重要案件であった新造最難関迷宮の踏破───その功績を己のものとし、真の攻略者に冤罪を擦り付け追い出した。
国と国民を騙したのみならず、人道にもとる行為をした───お主はそう言ってるのだ」
彼女達を待ち受ける未来は暗い。
追放か? 鞭打ちか? それとも───
あれだけ苦しんだ彼女達が、どうしてこれ以上苦しまねばならないのだ。
タイミングが来るまで黙ってろと厳命されている俺は、どうするべきか。
「わかっております。私達はどのような罰でも甘んじて受けるつもりです。それが愚かな私達に出来る唯一の償いです」
ミカ達の表情はどこか晴れやかだった。
けれど、それは違う。間違ってるんだ。
だって悪いのは全部───
「悪いのは、全部僕なんだッッ!!」
何か言いたいことがあるからと口に貼られた結界を剥がしてもらった竜宮院が、涙を浮かべて声を張り上げた。
みんなの視線が竜宮院に集った。
「三人を責めるのはもうやめてくれッッ!! ミカ達三人は、何も悪くないんだッッ!! ミカもッッ!! アンジェリカもッッ!! エリスもッッ!! みんな悪くないんだッッ!! 責めるなら僕を責めてくれッッ! 全ての責は勇者パーティのリーダーである僕にあるのだからッッッ!!!」
浮かべた涙がつつっと竜宮院の頬を伝ったのだった。
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