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第31話 subtle / 覚る

○○○





 翌朝、少し睡眠不足気味であったが、体調はほぼ万全と言えた。

 王都に来るまでに、何度も打ち合わせを重ね、最終的な対策は既に終えていた。あとは身支度を整えて登城するだけだった。




 俺と宿を同じくしたのは、センセイ、アノン、アシュ、テゾーロ兄弟であった。エリスは実家へと戻り、オルフェはエリスの付き添いをミカは教会へと向かった。アンジェとプルさんは古くからの知人を頼った。


益荒男傭兵団(ベルセルガ)》代表者のサガ? ちょっと知らない子ですね。そう言えば、昨夜、必死に逃げようとする眼鏡のインテリイケメン(カミュ)を引っ張って、歓楽街に消えていったゴリラの噂を聞きましたね。まさか彼らでないことを祈るのみです。


 宿で支度を終えみんなが俺の部屋に集まった。

 俺はみんなの前で、「顔を隠す必要があるから」とアノンから渡された仮面を装着し、装備を隠すための黒衣を羽織り、それからとある指輪(・・・・・)を着けてみせた。


「くくっ、似合っているじゃないか」


 俺の姿にアノンが笑みを浮かべた。

 笑うなし! 俺が何か痛い子みたいじゃん!


「イチロー、大丈夫!」


 一瞬、眉を潜めたアシュが親指を立てた。

 ねぇ、それ何のポーズなの?


「僕は、かっこいいと思うんだけどなぁ」


「だな、クールでミステリアスでイチローくんにピッタリだ」


 テゾーロ兄弟が、手放しに俺を褒めてくれた。

 ただ、本心からこれをカッコいいというのならそれはそれで、厨二病の恐れがある。あ、俺と同じだわ。 


「そうじゃそうじゃクロエ達の言う通りじゃ! ムコ殿、素晴らしく似合っておルゥーーぷふぁぁぁ!!」


 ネット世界であれば「大草原不可避!」とでも言わんばかりの盛大な笑い方であった。俺は悲しい悲しいなのだった。


 だがしかし、それもこれも、俺の緊張をほぐすためのセンセイ達の思いやりに違いな「ファーーー!! ぶるすこふぁーーー!!」


 アカン! 多分違うわこれ!!

 これぜってーそんな高尚な思いやりじゃねぇーわ!

 俺は心を無にすると、彼らにすんと背を向けたのだった。


「わー、ムコ殿が怒ったー!」


「イチロー、ごめんー!」


 ふん、俺は怒ってるんだ。




○○○





 時間というのは無慈悲なもので、それを望もうが望むまいが、誰にでも平等に降り積もる。

 バカなやりともそこそこに、あっという間にその時は訪れた。

 名残惜しいが、全てが終わってからまたやればいい。



 馬車で向かう際に多少の混雑はあれど、これといった大きな問題も起きず、俺達はアルカナ王城へと着いた。

 不思議なことに、武器のチェックなどはされることなく、すんなりと門を通ることが出来た。マジックバッグのある世界だから、キリがないのかもしれない。

 アノンに言うと、今回は特例だそうで、王宮側も対処をしているとのことであった。





○○○





☆《多重清浄結界》☆

 悪しき心を持つ者の魔力や膂力といったあらゆる能力を減少させる清浄結界を、六重に重ね掛けしたもの。

 発動には、優れた光魔法の遣い手が必要であり、六重ともなると、大司教クラス以上の術者が少なくとも六人はいると考えられる。




○○○




 今回の集まりは《封印領域》討伐の功を労うための招集であり、主に活躍したクランやパーティや探索者が呼ばれることとなった。

 クランやパーティであれば、その組織のリーダーが代表者として登城するのだが、如何(いかん)せん人数が多い。


 ボルダフにいた俺達ですら、十三人もいる。単純に三倍するとほぼ四十人だ。人数が多くなるのも当然のことであった。


 そういったわけで、俺達はそれぞれの戦線でのメンバーごとに別のゲストルームへと通されたのだった。


 とてつもなく広いゲストルームには、いくつものソファとテーブルが備え付けられていた。ソファに腰を下ろすと、俺の隣にセンセイが座り、その隣には───、

 向かい合った前方のソファにはサガとカミュが腰を下ろした。

 サガの重みでソファが軋んでいた。サガがどっかりとスペースを取って座ったせいで、隣のカミュはインテリ眼鏡キャラなのに可哀想なことに、縮こまって座っていた。いや、そんな格好で眼鏡くいってしてもカッコ悪いから。


「ロウよ、いや、もうイチローっつーべきかァ。オレァ、門外漢だからよ、アイツらみたいには、力になれねェー。けどよォ、暴力が必要なときはいつでも言ってくれ、力になるぜェー」


 暴力というやけに物騒な単語に目をつぶれば、優しくてカッコ良くてメチャクチャいいセリフなんだけど、このゴリラ昨日高級娼館に行ってんだよなぁ。全部台無しである。


 そのとき、ガハハと大口開けて笑っていたはずのサガの空気が変わった。彼の視線の先───俺は、後方の扉に顔を向けた。


 そこにいたのは、竜宮院王子だった。

 悪趣味なほどにきらびやかな衣装に身を包んだ彼は、得意気に、見定めるように、あるいは見下すように俺達を睥睨した。


 そして、彼の右にはミカ、左にはアンジェリカ、その背後にはエリスが付き従っていた。

 さらに驚いたことに、竜宮院の背後には着飾った七人の美しい女性がぞろぞろと列をなして部屋へと入った。


 大丈夫。落ち着け。勝負はまだ始まっていない。

 俺は、必死に己を抑えた。

 しかし、否応なく、竜宮院の声が聞こえる。


「うわー、綺麗所が揃ったねー!! 君達ほどの美人なら、いつだって歓迎してるからね。え? 僕の名前? そんなに知りたいのかい? 僕の名は、稀代の英雄勇者竜宮院王子。この世界を救いし者さ!!」


 明るく、はっきりと、そして相変わらずのイケボで、彼は息をするかのように嘘を()いた。

 しらーっとなった空気に気付かず、竜宮院は髪をかき上げた。

 ガチャリ。再び、扉の開く音が聞こえた。


「勇者様っっ!! この日を一日千秋の思いでお待ちしておりましたっっ!!」


 どこか甘ったるい声だった。

 部屋に来たのはパフィであった。

 彼女は、急いで扉を開けた勢いのまま、竜宮院の胸に飛び込んだのだった。


 






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― 新着の感想 ―
[気になる点] ミカ・アンジェ・エリスが一時的に勇者の側に行っちゃったけど、多重清浄結界で助かったのかな? その場合、勇者は悪しき心を持っていると証明されるわけだな。
[一言] りゅーぐーいん「だめだよヤマダ君は僕の脇役、引き立て役なんだから、具体的に言うと美少女ゲーの親友キャラで女のコの情報を都合良くくれる便利キャラなんだから逆らっちゃだめだよダーメ、 さぁ……平…
[一言] つ、ついにクライマックスか?! ここにいる全員がリューグインの魔の手に掛かって絶望するイチローっていうクライマックスを半分くらい疑っている私がいる…。 あみだ様を信じてよいのか?か?か?か…
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