表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

254/357

第28話 Before The Catastrophe②

一応本日2話目になります








◇◇◇





 プルミーと共に事情を聞いたアンジェリカは、まさに本件の当事者であった。イチローは言葉にしなかったが、彼が勇者に立ち向かうのは、恐らくは自分達のためであろうことも理解出来たのだった。


 そんな彼の優しさに胸が温かくなるのを感じたが、それと同時に、彼が白い少女へと思いを告げ、口づけを交わした場面が想い起こされた。彼女は、ぶんぶんと頭を二度ほど振り、彼の力になることだけを考えろと自分を強く戒めたのだった。


 それはそれとして、勇者の持つ力は依然として正体不明であった。しかし、それならその能力の正体がどのようなものであっても対処出来るように備えれば良い。この考えこそが、アノンやイチロー達の導いた答えであった。


 ならば自分にも出来ることはある。

 勇者の能力は、『魅了』、『洗脳』、『催眠』、『操心』、『操身』のような特殊な"力"だろう。それがスキルやアイテムによるものか、『魔眼』や『魔口』といった『原始の魔呪(プリミティブカース)』の類かは不明であるが、もしそれが、前述の力ではなく勇者の用いた特殊な魔法によるものであれば、アンジェリカにも力になることが出来るはずだ。一つの方針を得た彼女は、その日から招集の日に向けて、休むことなくひたすらに己の知識と技術を磨き続けたのだった。


 



◇◇◇





 辺境周辺で活躍する《旧都(ビエネッタ)》と言えば、アルカナ王国の探索者であれば知らぬ者はおらぬほどの、有名なSランククランであった。

 その中心的存在として、一際強い存在感を示すのはクロエとクロアのテゾーロ兄弟とされた。


 彼らは、クランを脱退する覚悟を決め、その運営を信頼出来る者に任せる引き継ぎの大部分を済ませ、今現在、ボルダフにて穏やかな生活を送っているのであった。《封印領域》と言われた、大規模災害の解決に尽力した《旧都(ビエネッタ)》もその功績を称えられ国からの招集対象となっていた。その代表者として、二人も参加する手筈となっていた。


 そんなある日、イチローとかつて約束していたディナーを共にすることになった。ディナーと言っても、雑多な食事処であったが、探索者である彼らに思うところはなかった。

 ただ、どこか緊張した様子の彼から、食事に手を付ける前に、どうか力を貸して欲しいと頼まれた。

 二人に断るという選択肢はなかった。


 クロエには、ただ、どのように力を貸せばいいのかという漠然とした疑問があったが、己の身内たるクロアには、力を貸せる何らかの方向性がすぐに見つかったようであった。そのことに安心して、クロエ達は食事を進めた。


 三人で楽しい時間を過ごし、そろそろ店を辞するかというところで、クロアが思い出したようにマジックバッグをガサゴソと漁った。


「ロウさん、これなんだけど」


 クロアがテーブルに何かを置いた。

 それは幾何学模様が至るところに彫り込まれたフリスビーを二周り大きくしたような円盤状の何かであった。


「これは?」


「これは、小型化と持ち運びの両方を目指した、《改良型鶴翼の導き(クレイン)》のプロトタイプです」


 イチローは声を失ったようだった。

 彼の知っている《鶴翼の導き(クレイン)》のサイズとあまりにも違っていたからに違いなかった。


「希少鉱石や魔石なんかのレア材料が必要な点や、消費魔力量が異常に多いことや、その他にもリファインしなくちゃならない点は数え切れないくらいあって、これから先改良を続けたとしても、どうも一点物になりそうなんだけど……まあ、それでも何とか『プロトタイプ』と銘打てるくらいの出来にはなったかな」


 クロアは専門的な話になるとことさらに饒舌になる。

 えへんとクロアは胸を張ったのだった。


「今日───ロウさんに会える日に、間に合わせるために、少し頑張ってみたんだよ!」


 と言っても、ボルダフに来るまでにおおよその試行は終わっていたことを、横で聞いていたクロエは知ってても言わなかった。


「おいおい、おいおい」


 イチローだって、クロアが有能な開発者であることは、以前の《鶴翼の導き(クレイン)》のエピソードから知ってはいた。けれど、たったこれだけの短期間でこうも改良出来る物なのかという疑問が沸いた。彼は(かぶり)を振った。答えは、間違いなく否だろうと。


 ただ一つ、イチローの見積もりが甘かった。

 影に日向にSランククランを裏方で支え続けてきたクロアは、本物の天才に違いなかった。

 とそこでイチローは何かを閃いた様子を見せた。


 それが何かはわからなかったが、彼の表情に重い葛藤が見てとれた。


「いいよ、イチローさん」


 声を掛けたのはクロアであった。

 その声に突き動かされるように、彼はクロアに声を掛けた。

 良心の咎とがめか、彼の喉がひくついていた。


「クロア、これから俺は無茶を言う。これは多分お前にしか出来ないことだ。金も、材料も、いくらでも出す。報酬も言い値で払う」


 イチローの並々ならぬ様子に、クロアが鋭い表情を浮かべ、頷いてみせることで、続きを促した。


「───だからよ、俺の願いを頼まれてはくれないか?」





◇◇◇





 聖騎士アシュリー・ノーブルに待ち受ける運命は確定された死であった。また彼女は与えられた使命から、《是々の剣(アファマティブ)》の封印から離れることが叶わなかった。


 短い生を封印の維持に費やすという、悲劇的な呪縛に囚われた彼女であったが、その鎖を完膚なきまでに破壊してくれたのはイチローという青年であった。

 死に瀕する危機に陥っても見返りも求めない彼の高潔な姿は、こうなりたいという彼女の理想の姿そのものであった。


 彼女も、屋敷の維持をユストゥス達に任せに、ボルダフに逗留していた。生来の面倒見の良さからか《封印領域》関連の後始末をアノンや領主に頼まれた彼女はどうしても断ることが出来ず、日夜仕事に追われていた。


 そうこうしてようやく、平穏を取り戻しつつあったその日、ヤマダと食事に行くこととなった。彼の、どこか覚悟を決めたような表情は、いつもより大人びて見えた。そんな彼から「力を貸して欲しい」と頭を下げられた。何でも自分一人で出来そうな彼から頼まれたことに驚き、返事が遅れてしまった。すると彼はアシュリーが返事を渋ったのと勘違いし、苦い表情を浮かべた。

 アシュリーは、あわわと焦り、彼の手に己の手を重ね「私が君の助けを無下にするわけないだろ?」と伝えたのだった。


 彼の話は、あまりにも摩訶不思議な話であった。けれど聖騎士職自体の評判が徐々に、しかし確実に落ちていく日々を味わったアシュリーは多くのことに合点がいった。

 そして、何よりも、人伝いに聞いた彼の話と、実際の人物像がかけ離れ過ぎた。


 彼は孤独の中でずっと戦っていたのか。アシュリーは彼の孤独の日々に想いを巡らせ、涙を流したのだった。

 イチローはアシュリーの涙に驚き、慌てたのだった。



 彼と別れ帰路に着いたアシュリーは、宿に戻るとその足で、一度自らの屋敷に戻ることを決意した。

 彼女は、共にこれまでの苦役を堪え忍んできた仲間に、助力を願うつもりであった。彼らもまた、気高く、高潔な精神の持ち主であり、間違いなく力を貸してくれるはずであった。

 今度は、私が君の力になりたい。

 アシュリーは強く心からそう願ったのだった。






◇◇◇




「オーミ様!」


 気が付くと彼女は街の人から尊敬と共に、そう呼ばれるようになっていた。これまで、ほとんど人里で目立つようなことをしてこなかった彼女であったが、彼女自身、思うところがあったのか、今回は人里で精力的に動くことを決めたのだった。


 オーミは手が空くとふらりと教会に赴いた。彼女は教会での治療に無償で携わっていたのだった。機会はそれほど多くなかったが、単純な怪我から瀕死の者まで、彼女は多くの者を完全に治療してみせた。神の御業にも匹敵する偉業をこなすも、彼女は大したことはしてないとばかりに、誇ることも語ることもせずに、治療を続けた。また彼女は「ありがとうございます! オーミ様!」と感謝を告げられるも、「よいよい」「達者でな」「元気での」と軽く返し、見返りを全く求めることはなかった。


 また別の日には、教会の行う炊き出しに出向き、彼女も現地のシスターと共に、大量の食事を振る舞ったのだった。

 立ちっぱなしの重労働であるはずの炊き出しであるが、彼女は疲れた表情一つ見せずに、明るい表情で仕事を続けた。


 そういったことが何回もあると、気が付いたときには影で彼女は「女神様」などと呼ばれていた。


 そんなある日、炊き出しに訪れた彼女の隣には───

 





最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

『おもしろい!』

『続きが読みたい』

『更新早く』と思った方は、

よろしければブックマークや『☆☆☆☆☆』から評価で応援していただけたら幸いです!

みなさまの応援があればこそ続けることができております!

いつまでもなくならない誤字脱字ですが

報告してくださる皆様本当にいつもありがとうございます!


これで、次から竜宮院やイチローが介するお話となります!最後までお付き合いよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そんなある日、炊き出しに訪れた彼女の隣には─── 竜宮ぃん(`Д´)ノおまえじゃねぇ! だったらどうしよう。
[気になる点] 勇者のスキル持ちを殺すことが出来ない(飼い殺しで我慢している)現状、どういう解決に持っていくのか楽しみ。 記録改ざんなどを解除させず殺していいなら、クレインで事前に海のど真ん中に浮かべ…
[一言] イチローの仲間達がイチローの願いに応じて集まってくる!いいですね! リューグインの強制力に打ち勝ってギャフンと言わせてほしいところ。 まだハピエンを疑っている私....。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ