第26‘話 竜宮院王子①
割烹更新しております。
よろしければ是非……!!
◇◇◇
「ふーーーっ!! こんなもんかな!!」
稀代の英雄勇者竜宮院王子は、ペンを机に置いて、両手を上に上げて、ぐぐーーっと伸びをした。
竜宮院は、すっかり自分の物として扱っているレモネギルドの一室で執筆活動に勤しんでおり、ちょうどそれが一段落着いたのだった。
この脚本の出来栄えならば、次の舞台の演目は、大盛りあがり間違いなしである。
「よーし、よし!」
竜宮院は自分自身で己の創作物に太鼓判を押した。
仕事も一段落したし……次は飯だな。
彼のお腹が空腹が訴えていた。
早く僕に相応しくも美味いものを腹に詰めなければ。
だったらそろそろヒルベルトを呼ぶか……。
食事を注文するついでに、書き上げた原稿を渡せばば良い。ふふっ、これじゃあ意図せず一石二鳥じゃないか。さすが僕。
それに僕の教育の行き届いたアイツなら、今さら何かと注文を付けずとも、僕の好みの料理を用意し、運んで来る。元々愚鈍な奴ではあったが、これまで手塩に掛けて育ててきた甲斐があったというものだ。
一頻り自画自賛し満足すると、竜宮院はパンパンっと手を叩いた。すると、背後の壁に侍っていた男性が「お呼びでしょうか?」と彼に尋ねた。彼は竜宮院によって雇われた召使いであった。
「ヒルベルトを呼んでこい」
竜宮院が完結に命じると、召使いの男性が「ハッッ!!」と声を張り上げ、急いで部屋を後にした。
◇◇◇
「勇者様っ! おっ待たせしましたっ〜!」
数分もしない内に、「はぁはぁ」と息を切らし、額に大粒の汗を流したヒルベルトが竜宮院の部屋へと訪れた。
「呼んでからここに来るまでの時間は及第点かな。けどまあ、そんなことより僕はお腹が空いた。何か用意したまえ」
「そろそろ勇者様が空腹なのではないか思いまして、既に準備に取り掛かっております〜! もうしばらくお待ちください〜!」
腹が減ったと伝えるだけで、喜んで食事を用意するヒルベルト。彼が部屋を飛び出すと、半刻もしない内に、部屋には様々な料理が運ばれてきた。竜宮院は「よくやった」とだけ言うと、目の前に並ぶ料理にがっついた。竜宮院の食事が終わるまでさらに一刻ほどが必要であったが、その長い時間、ヒルベルトはニコニコと人好きのする笑顔を浮かべ、竜宮院の食事光景を見守り続けた。その様子は竜宮院に「ったくw……こいつ、僕のことどれだけ好きなんだよ」と思わせるほどのものであった。
◇◇◇
仕事に一段落付け、夕食を終えると、ふと竜宮院は、窓の外の日が落ちていることに気付き、己の頑張った一日に想いを馳せ、充実を感じていた。
「お、そうだ。ヒルベルト!」
とそこで竜宮院は思い出した。
「勇者様、なんでございましょうか?」
「わかっているだろう? お前なら」
「勇者様に、そんなに期待されてるだなんて……私、感激しております〜!
では、僭越ながらお答えいたします……勇者様が私の名をお呼びしたのはズバリ!『偵察』と『治癒』ですね?」
竜宮院は厚かましくも、前者は『街の治安を護るための偵察』であり、後者は『今後の活力を得るための過去の激闘で傷ついた肉体と精神の治癒』というお題目の元、飲み歩くことを『偵察』と呼び、女性を堪能することを『治癒』と呼んでいた。
「ようやく君もこの域に達したか。ここまで育てるのにどれだけの時間と労力を割いたことか……。僕に感謝したまえ」
「ははー! さすが竜宮院様ですー!」
「ただし、点数にすると60点ってところかな。ほらヒルベルト、これを受け取れ」
ヒルベルトがさっと差し出した手に、竜宮院が書き上げた原稿をポンと置いた。
「これは……?」
「これは、封印迷宮踏破の真実さ。ようやく書き上がったよ。これを以て次の僕プロデュースの舞台演目とする」
タイトルに『勇者リューグーインと封印迷宮』とあり、ヒルベルトは一瞬目眩がした。
「そんなに一生懸命原稿を見つめて……君はもう僕の熱心なファンだね。遠慮はいらないから、今から僕が『偵察』に行ってる間にでも読んでおいてくれ」
パラパラと一分ほど流し読みしたヒルベルトが、竜宮院にとりあえずの感想を述べた。
「よく、ここまでお書きになられましたね」
忖度し、なおかつ具体的な言葉を避けるとこの様な感想となる。
「ふふん、当たり前じゃないか。まあ僕が偵察してる間にでもしっかりと読んでおくこと、それから今後この話をどのように展開していくか考えておいて」
「かしこまりました〜! いやー! このような大作をいの一番に読ませていただけるなんて私、本当に幸せ者ですねぇ〜!」
◇◇◇
───よく、ここまでお書きになられましたね
ヒルベルトの一言目の言葉だ。
やはりアレは中々物事を捉えられている。
《封印迷宮》での戦闘などの詳細な情報はほとんどなかった。ただ大まかに龍、スライム、竜人を討伐したことだけは把握していた。けど、まあ、それだけ分かれば十分だろう。あとは想像でどうとでもなる。
いや、違うな。
これは単なる想像ではない。
将来的にはこれが現実になるのだ。
ただし、いくつかのある問題の内、その中でも特に大きな、目の前に横たわるとある一つの問題を解決しなければならない。
問題は"アレ"の解除である。
これがどうやっても叶わない。
一度決定したら変更は利かないのか?
いや、それはないはずだ……。
僕の"勘"がそう言っている。
そうだ……何よりも僕という素晴らしい存在の"勘"がそう言っているのだ。
それが外れるわけがない。
ならばなおさらどこかで時間でも作って、集中してスキル研究に取り掛かる必要がある。
「勇者様〜! 準備は終わりましたよ〜! 出発ですよ〜! 出発〜!!」
……とはいうものの、そんなに急ぐ必要はない。そうだ。だって僕にはこんなにもたくさんの待っててくれる人達がいるんだから。スキル研究に費やす時間は勿体ない。
それに僕は、今回の功績を足掛かりに、近い将来パフィを娶る。するとどうだ? 僕がこの国の王となるのだ。王となれば誰にも気兼ねなく行動できるだろうし、邪魔者はいなくなるだろうし、それこそ時間なぞ腐る程あるだろう。
だからこそ今、僕は何も考えずに───銘酒の海を泳ぎ、僕を愛する女性達に溺れたい。
 




