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第22話 ロマンスの神様

○○○



「ししょおぉ」


 俺の言葉を聞いたエリスは俺に駆け寄り抱きつき、張り詰めた糸が切れたように「うあー」と幼子のように号泣したのだった。



 

 竜宮院達から離れて俺はこの辺境にやってきた。

 要は彼らから逃げてきたのだ。

 

 そして俺は今また、逃げることを選び、誤った方へ進もうとしていた。


《封印領域》の件で、国から招集命令が出ている。命に従い王都に上った場合、俺は確実に竜宮院と再会するだろう。

 彼に会えば、セナとの生活によってようやく思い出すことのなくなったあの日々の傷口が再び開いてしまう。

 それを想像するだけでも、じくじくと心が痛むのだ。


 アノンやセンセイは自分達に任せろと言ってくれた。

 二人の優しさに甘えて、ゆっくりしてもいいじゃないか。

 もう十分過ぎるほどに頑張ったはずだ。

 二人に全てを投げ出し、この地で全てを忘れて安住してもいいじゃないか。

 彼らの申し出は俺にとってあまりにも甘美なものであった。


 俺の心の情けない部分が、『二人に甘えちゃえよ』と幾度となく俺を諭そうとした。

 そう出来れば、どれほど楽だろうか。

 


 けれど、わかることがある。

 ここが最後の分岐点だ。

 俺がこれからも逃げ続けるか、それとも立ち向かうか、の。

 

 あの日、謝罪したアンジェリカは地に伏せて、涙を流した。

 ミカは己が赦せないと、世俗を離れると言った。

 そして、今、まさにエリスが死を選ぼうとしていた。


 全てのわだかまりが失せるにはもう少しだけ時間が掛かる。

 それでも俺は、こんな現実を願っていたわけじゃないのだ。


 だから俺は、もう一度立ち向かわなければならない。

 全ての涙を払うために、そして自分自身のためにも、俺は俺の足で、再び竜宮院の前に立ち、奴の全てを否定してやる。

 そう心に決めたのだった。




○○○





「エリス、ムコ殿、少し良いか?」


 ひっくひっくとしゃくり上げたエリスと俺に、センセイが尋ねた。俺達は頷いた。


「どこから、話せばいいかのう。そうじゃな、聖剣について我の知ってることを話そうか。と言っても、我にもわからんことはあるから、多分に推測が含まれるがな」


 とりあえずは、とセンセイは続け、

「エリス、聖剣を見せてみよ」と命じた。


「は、はい」と答えたエリスは、隣のオルフェに渡されたハンカチで涙を拭い、立ち上がった。

 そうして目の前に差し出された聖剣を、センセイはじっと見定めるように、注視した。


(ぬし)達が聖剣と呼んでいるこやつは、かつての勇者によって人を護るためという願いを込めて創られた業物(わざもの)よ。

 その願いを元に付けられたその《真名(まな)》を、《護剣リファイア》という」


 センセイは、何かに想いを馳せているようだった。


「《護剣リファイア》は自身の《真名(まな)》を呼んだ持ち手を、(あるじ)に足るか否か、見極めて、認める」


「見極めて、認める……?」


「そう。その技量と心根を認めた者を、自身の遣い手として、(あるじ)として認め、彼に最大限に力を貸す。

 そもそも《護剣リファイア》は、増幅器(アンプリファイア)を由来とした名を持つ通り、遣い手の能力を何倍にも増幅する能力を持つ。ムコ殿にも、何か思い当たることがあるのではないか?」


 センセイが厳かに、俺へと問うた。

 思い当たる節は───ある。





○○○





☆《信頼と信用》☆

 異国の少年である聖騎士ヤマダの固有スキル。

 スキル所有者と互いに信用し信用され、信頼関係を結べたパーティメンバー、またはそれに準じる者を対象とし効力が発揮されるスキル。その効果は、彼らの成長を促進し、また魔法やスキルに関わらずに、スキル所有者により施されたあらゆるバフが大幅に強化されるというものである。





☆《スキルディフェンダー》☆

 異国の少年である聖騎士ヤマダの固有スキル。

 悪しきスキルから己と仲間を護る。






○○○




「その顔は、身に覚えがあるようじゃな」


「《封印迷宮》探索時に、何度もリファイアに助けてもらいました。エリス達が、正気に戻ったのももしかするとリファイアのお陰なのかも───だけど、リファイアの今の(あるじ)はエリスのはずでは」


「ムコ殿よ、こうしてリファイアをよく見て分かったことがある」


 センセイがリファイアをそっと撫でた。


こやつ(護剣リファイア)からは二つの(えにし)が伸びておる。一つはエリスと、そしてもう一つはイチロー、お(ぬし)とじゃ」


 縁という言葉をセンセイが時折用いるが、実のところ俺は、それが何なのかはっきりと分かっていなかったりする。センセイは俺の表情からそれを察したのか、


(えにし)とは、そのままの言葉通り、人や物を繋いで結ぶ(えん)のことをいう。リファイアに関して言えば、こやつは現在の遣い手であるエリスだけでなく、以前の遣い手としてのムコ殿のことを未だに(あるじ)として今でも認めておる。それが(えにし)となり、我の目に映っておる」


 リファイアは今でも俺を(あるじ)と認めてくれているから、俺の願いに従って、彼女達を助けてくれた……のか?


「話はまだ続くぞ。これも確かなことは言えんが、ムコ殿が以前みたと言ったプルの夢と、エリスがみた悪夢は根本的に同じもんじゃろうな」


「同じもの? それはどういう」





○○○





☆《光魔法:極++》☆

 進化成長を遂げた山田の《光魔法スキル》。

 また、上記の結果が出て以降に鑑定は受けていないためにさらなる成長を遂げている可能性がある。





○○○




「恐らく(ぬし)らのみた夢は、ムコ殿の能力によるもんじゃろう。ムコ殿は類稀(たぐいまれ)な《光魔法》の遣い手だからの」


 類稀な《光魔法》の遣い手というワードに頬がニヤけた。

 えへへ、それほどでもぉ。


「けど、俺は光魔法は使えるけど、夢を見る能力なんてないですよ」


 それに、スキルにも予知夢関連のものはなかったはずだ。


「かつての我の知り合いに、才ある光魔法の遣い手がおった。そやつも時々、予知夢をみると言うておった。

 そやつ曰く、そやつの予知夢は『無意識下に行使された光魔法によって、確定されていないが起こり得る確率の高い現実が夢となって表れたもの』だそうだ」


 まあ、その辺の難しいことは我にもわかりかねるがの、とセンセイはからからと笑った。


「それにの、そやつは、『自身が観測者になることで、不確定の未来を変えることが出来る』とも、言っておった」


 センセイはそう言うと、俺とエリスへと交互に視線を向けた。


「ムコ殿は、身を以て経験しとるじゃろ。恐らく、ムコ殿がいなければプルはその命を儚い物としておったはずだ。(ぬし)は間違いなくプルの命を救っておる」


 それがどういうことかわかるか? とセンセイは俺達に問うた。


「夢は、警告じゃ。近い将来高確率で起こり得る未来を見せることで、危機に備えよという、な」


「警、告」


 エリスが己の中に咀嚼するように呟いた。


「そう、警告じゃ。

 ムコ殿の場合は光魔法を行使した無意識下による警告で、エリスの場合は、(えにし)を通してムコ殿の能力を行使してみせたリファイアからの警告と考えられる」


 リファイアが(えにし)を通して、俺の能力を増幅し用いて、エリスに予知夢をみせた。何だかとんでもない話である。


「エリス達を心配するムコ殿の意を汲んで、リファイアはずっと彼女達を護ってたのかもしれんな、というのはいささかロマンチックに過ぎるか」


 というか、もしかしてこいつ意識あんの?

《光の迷宮》攻略後から《刃の迷宮》攻略前までの相棒は聖剣リファイアであった。《真名(まな)》も知らずに、力任せにぶんぶん振り回してたんだけれど……。


「あのまま王都に向かっていても、(ぬし)は間違いなく失敗し、夢の通り、勇者の手に落ちていたじゃろうな。

 まさに、君子危うきに近寄らずと言えよう。

 だから、我は今ここで、(ぬし)らの判断を讃えよう。

 ムコ殿の元に戻った(ぬし)達二人の判断は正しかった。それこそが、絶望を打ち払う一歩目に違いなかった」


 ようやく泣き止んだエリスが、再び「うあー」と泣いたのだった。






 




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[気になる点] 予知というか分岐世界を観測する感じですかね『数多ある分岐から望んだ世界を掴み取れ!』みたいな(11eyesのアイオンの眼とか好きだったなぁ)真名が解放されたリファイアによって増幅された…
[良い点] つまり山田が頑張ったから最悪の展開にならなかったってことだな! [一言] エリス好き。
[良い点] そのままだとそうなる可能性が高かった 主が観測者となることで異なる道が開ける イチローもまた未だ主である つまりそういうことか?二人の主が揃わないと防御能力が落ちる?
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