第16話 後の祭りの前⑤
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《征伐祭》も二日目となった。
俺が目覚めた日のどんちゃん騒ぎを含めると既に三日目であった。だというのにその熱気は収まるどころかより盛んなものとなっていた。先程ギルド出たとき、未だ昼前にも関わらず、人、人、人の人混みが目に入り、それはもう、見ているだけで気疲れしそうなほどであった。
俺はギルドの広間でぼーっと座り、そろそろ彼らが来るだろうし、昼飯はどうすっぺかなーなどと考えていた。
「ロウさーん!」
気が抜けていたのか、彼らが近くに来るまで全く気付かなかった
「やあ、その節はお世話になったね」
そこにいたのは、可愛い系小柄ショタとスタイル抜群のスーパーイケメンの二人組───弟クロアと兄クロエのテゾーロ兄弟であった。
「こっちこそ世話になった。今回の件に、二人が、いや、《旧都》が携わってくれなきゃ悲惨なことになってた。
本当に助かった、ありがとう」
あの大惨事を死者ゼロで切り抜けたことはまさに快挙であり、彼らの参戦なしでは、決してなし得ぬことであった。それどころか、彼らがいなければ、戦力の絶対数が足りずに圧倒的速度で増殖する靄を抑えきれず、戦線の崩壊と共に多くの犠牲者が出ていた可能性もあった。
「せっかくボルダフまで来てくれたんだ。ちょうど昼飯時だし、俺が何でもご馳走するよ。リクエストがあったら言ってくれよな」
これまでの礼をかねて俺は二人を食事に誘ったのだった。
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彼ら《旧都》が拠点にしている街は、ボルダフに近いと言えども、翼速竜のような騎竜がなければ、丸一日に近い時間が掛かるほどの距離にあった。
彼ら二人は、向こうの街でも祭りをしているにも関わらず、俺に会うためにわざわざボルダフに訪れてくれたのだった。
なのに───
「本当にこんなんでいいのかよ?」
店主から受け取った串肉を「あいよ」と二人へと渡した。
「ああ、構わない。というよりそれがいいんだ。な、クロア?」
「はい! 僕、これまでお祭りに来たことなかったので、いつかは自分も、と思っていましたので……」
「なんだよ、やめてくれよ! 俺はそういうのに弱いんだ! べらんめー!」
三人で、気の向くままだべりながら屋台を練り歩いた。
特にクロアはちょこちょこと歩いて、何を見ても目を輝かせた。
そんな彼を俺達二人は微笑ましく見ていた。
そもそもクロアは十七、十八歳だというのに、長い病床生活が続いたからか、あまりにも線が細かった。その華奢さは、どう見ても十二、十三歳のものであった。
「ねぇねぇロウさん、あれは何?」
「あれはたこ焼きもどきだな」
かつての俺の同郷の人が広めた、たこの代わりに別のものを入れて焼いたたこ焼きのまがい物であった。
「じゃあ、これは?」
「凍らせた木の実だな。お、いちじくめっけ。こいつはマジ美味いからいっぱい買って後で一緒に食おーぜ」
俺達は気になった食べ物は片っ端から購入したのだった。
食べながら歩くのも中々に乙なものであるが、小さな口で小動物のようにはむはむと一生懸命食べるクロアは食べる速度も遅く、買った物全てを食べ切ることは不可能であった。だから俺は、購入したほとんどをマジックバッグにしまったのだった。
この後どこかに座ってゆっくり食べればいいしな。
「兄さん、ロウさん。楽しいねー」
にへらとクロアが相好を崩した。
自然と、あの日見た死に瀕したクロアの姿が思い起こされた。
クロエが「こら、あんまり離れるなよ」と弟を注意した。
───どうしていつも私達だけ
彼も、己と弟の不幸を嘆き、涙を零していた。
その言葉には共感しかない。俺だって、どうしていつも自分だけこんな目に合うんだと、何回も、何回も、数え切れないほどに自身の境遇を嘆いていたのだから。
けど、今の二人からはあの日の陰を感じない。
不幸から解き放たれた彼ら兄弟の現在の姿を見ていると、俺の辛い日々にも意味があったんだと思わせられた。
それこそ絶対に口には出来ない自惚れかもしれないけれど。
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誤字報告毎回本当にありがとうございます!
少し短いけど、お許しを
次で祭りは終わりです




