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第3話 セナ



山田にとって安らげる展開が少し続きます。

○○○


「なぁ」


「何かしら?」


「いや、何してんの?」


「添い寝よ」


「何で?」


「あなた、死ぬところだったのよ」


「いや、それはわかったって」


「あなた、死ぬところだったのよ」


「何で同じこと二回言うん? ってかそれ以前にも同じセリフを聞いた記憶があるんだけど……もしかしてこれデジャヴなの?」


「……」


「何で黙り込むの? 俺が悪者みたいじゃないそれ? 命の恩人を黙りこくらせた俺って何?」


「添い寝よ」


「話、通じてる?」


 この後めちゃくちゃ、添い寝した。




○○○



 こんな感じで彼女との日々は過ぎた。

 そこそこ回復するまで二週間と少し。


 内訳としては、匙を持てるようになるまでに三日、立ち上がるまでにそこから一週間、歩けるようになるまでにさらに一週間。


 そんなわけなので、彼女には色々とお世話になった。

 匙を持てるようになるまで、彼女に口許まで匙を運んでもらったし、言うに憚られるような様々な面倒を掛けることとなった。

 添い寝の一件についても、俺の容態が急変したときのためなのだと後から聞かされた。


 さて、人間というのは中々にしたたかなものだ。

 およそどんな場所に住むこととなったとしても、ある程度の時間が経てば慣れてしまうもんで、だんだんと心に余裕が持ててくるものなのだ。


 そうなると、それまではいっぱいいっぱいで気にも留めなかったことが、今度は気になってくる。


 しばし彼女と俺の日々にお付き合い願いたい。



○○○


 体力の回復にともない、言葉を交わせるようになった。

 そうして俺は彼女と少しずつ会話を重ねた。


「君のおかげで助かった。本当に感謝している」


 喋られるようになれば、まずはお礼をと考えていた。


「別に構わない」


 彼女は表情を変えずに何てことのないように答えた。

 比喩でなく彼女から後光を感じた。


「いつまでも、『あなた』、『君』ってのも変だよな」


 お世話になった彼女の名前を知りたかった。


「俺の名前は山田一郎。イチローと呼んで欲しい」


 彼女はぱちぱちと二、三度まばたきすると、しばし(おもて)を伏せた。


 神々しさすら感じさせる彼女の端麗な表情からは、今の俺には何を考えているのか伺い知ることが出来なかったが、心の中で『何歳くらいかな? 俺よりは年下よね?』などと考察を重ねたり、『まつ毛なっが!!』などと心臓の鼓動をドッキンドッキンと速くさせていた。


「……」


 彼女が、何かを逡巡する間、俺はじっと彼女を待った。

 彼女の着物の()がぷかぷかと宙に浮かんでいた。


「わたしの名前は───」


「君の名前は?」


 促すように俺は尋ねた。


「セナ」


 何かを噛み含めるように彼女は答えた。


「そう、わたしの名前はセナ」


「セナか。いい名前だね。これからしばらく───」


 しばらく?


 回復した俺がここにいる理由はない。

 しいていえば、俺は隠遁生活を望んでいる。


 けれど、ここには既に彼女が住んでいて、彼女の隣にこれからも俺がいる理由は何なのだ?───などと思考を巡らせていると、


「構わない」


「え?」


「イチローの好きなだけここにいればいい」


 彼女は何かを見透かしたかのように、俺に許しを与えた。


「……すまん。恩に着る」


 胸がいっぱいで、そう答えるのが精一杯だった。



○○○



 いつだったか、俺はかねてより気になっていたことをセナに尋ねた。


「俺らがいるこの小屋さ、これってどうしたん?」


「……?」


 セナはよく分からずに小首を傾げた。


「いや、ごめん。今のは俺が悪い。この小屋造ったのは誰なのかな?って思ってさ」


 俺達が一緒に過ごしてるお世辞にも立派とは言えない小屋。

 木々の長さが正確ではないのか屋根は傾いてるし、木々の間には所々隙間があったりする。

 さぞや、風通しがすごかろうと思いきや全くそんなことはなく、風も全然通さないし、かといって変に熱が籠りすぎることもない。この小屋での生活は快適そのものであった。

 だから、どんな技術があればこんなわけのわからない小屋を作れるのかという単純な俺の疑問だった。


「小屋を造った人……?」


「そう。色々と不思議に思ってたんだ。小屋だけじゃなくて、俺の使ってた布団だってそうだ」


 布団、食事の器、カップなどその他もろもろの生活必需品など、そのどれもが小屋と同じで、不器用な作りとなっていた。そのくせどれもが使い心地が良かったり、変に機能的であったりと困惑するほどであった。


 何らかの神々しい粒子みたいなものを放ちながら、セナは目線を上に向けた。


「小屋やこの家にある物は、センセイと一緒に造った」


「センセイ?」


「そう、センセイ……」


 このやりとりで理解した。

 セナはそのセンセイとやらについて詳しく話すつもりはないのだ。けれど、俺だって自分の身許(みもと)を一切明かしていないのだ。お互い様だった。

 それに、もし逆にセナがしつこく詮索してくる人柄であったのなら俺は回復と同時に山から降りていただろう。

 そう考えると、今のこの気の置けないほっ(・・)とできる環境はお互いが変に詮索しないからこそ、成り立っているものと言えるのかもしれない。


「家は、山の裏手を降りていったところにある森林地帯にいた、《古代の悪魔樹エルダーデモンズトレント》から造った」


「《古代の悪魔樹エルダーデモンズトレント》?何かすごい物騒な名前なんですけど」


「単なる雑魚」


 そんな名前の雑魚がいるかあああああ!?


「うるさかったからセンセイと二人で大伐採したの。大丈夫。あれらは生きているだけで環境に害を与える害木」


 なんでもセナによると《古代の悪魔樹エルダーデモンズトレント》は周辺の魔力と地中の栄養をぐんぐん吸いとるらしい。


「ちなみにそのコップも器も匙も、全部《古代の悪魔樹エルダーデモンズトレント》から出来てる」


 おお、もう。


「イチローはもう何回もそれを口に入れてる」


「ははっ、全くお茶目な冗談を」っと無理矢理納得する俺。


「それから、その布団は《反重力蚕アンチグラビティワーム》の糸から造った」


 ヒェー!? なにその物騒な蚕!?

 物騒な蚕どころか、彼女がセンセイなる人物と二人で間引きした話を始めとした物騒な話は続いた。


 セナは虫も殺せなさそうな華奢でたおやかな容姿であるのに全くそんなことはなかったぜ!


 話も一段落したころ、俺はまだ完全回復からはほど遠くて、疲れから(くだん)の布団の上に寝転がった。

 なんたらワームに合掌。くわばらくわばら。


「んでさ、何してんの?」


「添い寝」


「いやだから───」


「添い寝よ」


 食い気味で答えなくてもいいじゃん。くすん。

 そうこうして一日が過ぎたのだった。






最後まで読んで頂きまして本当にありがとうございます。

『おもしろい』

『他のヒロインが気になる』

『早く更新しろ』


と思った方は、よろしければブックマークと広告下にあります『☆☆☆☆☆』から評価で応援していただけたら幸いです。


応援が私の力になってます。

いつもありがとうございます。



次回は山田の強化回になります。

同時に勇者やヒロイン達の話も出るかも。

遅くても次にの次には出てきます。

それまでしばしお待ちを。

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[良い点] 安らぐ、安らぐよぉ [一言] 今までが今までだけにまだ怖い
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