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第41話 俺とセナ vs《遍く生を厭う者》①

○○○



 見覚えのある紅い刀身によって切り取られた長方形の空間は漆黒のがらんどうとなり、そこから───


「セナ!」


 俺の最愛の少女が姿を現した。

 彼女───セナは、周囲を見渡すと、俺に気付いた。


「イチロー───」


 一瞬、セナがふらりと崩折(くずお)れ、膝を地に着け───る前に俺はすかさずにキャッチっ! 彼女を抱きかかえた。

 セナは嫌がる素振りを見せず、俺に身体を預けた。


 ───イチロー、ごめ、ごめんね。ちょっと、だけ、待ってね


 あのときのセナの声が脳裏に蘇った。

 かつて隠れ山から離れようとした彼女は、俺に謝罪し、大きな不調をきたした。センセイは、不調の原因はセナの心的なものであると仄めかしていた。セナがここにいるということは、そういった全てを耐え忍んで来たに違いなかった。

 

「イチロー、生きてて良かった……」


 彼女の指が俺の頬に触れ、指は俺の左眼辺りをなぞった。


「こんな───痛かった、でしょう」


 彼女の指が無くなった右耳に触れ、視線は俺のツギハギだらけの身体に向けられた。

 セナがポロポロと涙を(こぼ)した。

 立ってられなくてふらつくほどの自身の不調を顧みず、セナはひたすらに俺を思って涙したのだ。


「確かに痛かったよ。けど、セナが来てくれたから───」


 その先を口にする前に、


「馬に蹴られて黙ってくたばってろ」


 俺とセナとの久しぶりの逢瀬を妨げるべく、大剣を構えてジリジリと詰め寄っていた《遍く生を厭う者(アイニカ)》に再度顕現させた十一の光の腕の先を(ひづめ)に変え、それら全てを加速させて叩き込んだ。邪魔者がしばらく行動不能になったのを確認し、俺はこほん、と一度咳払いした。

 そして、先程の続きを、


「セナが来てくれたから、俺はもう大丈夫なんだ。何でだろうな。俺は、本当にもう、大丈夫ったら大丈夫なんだよ」


 彼女の温もりを感じ、俺は確かにそう思った。

 俺の言葉に、セナは目を二、三度パチパチすると彼女は何とか、地に足を着け、手を伸ばし、俺の背に手を伸ばした。


「イチロー、何、それ、バカ」


 俺の両手にすっぽり収まった彼女の手に力が込められた。

 彼女に負けじと、俺も彼女をしっかりと抱き締めた。


「これが終わったら、伝えたいことがある」


 死亡フラグ? そんなものは知らない。

 いくらでも建ててやるし、いくらでもへし折ってやる。


「イチロー、奇遇。わたしも貴方に伝えたいことがある」


 互いに言いたいことがあるだなんて、一体なんだろ? などとは思わない。彼女の気持ちは、彼女の声から、言葉から、仕草から、姿から、触れ合った温もりから───彼女の全てから、既に俺に伝えられていた。


「ならよ、ちょっと待っててくれ。アイツをぶっ倒してくるわ」


 錯覚か、何なのか、不思議だった。

 彼女が横にいる、それだけで、俺は何でも出来る気がした。


「白き少女よッッ! 性懲りもなくッッ!! 先程、我が暗黒の腕で串刺しにされたことを忘れたかッッ!!」


 目の前の《遍く生を厭う者(アイニカ)》はようやく復活を果たし、気炎を吐いたが───


「黙れッッ!! おまえがイチローをこんな目に合わせたッッ!!」


 セナの美しくも激しい乱舞。

 その全ての拳打が急所へと直撃し《遍く生を厭う者(アイニカ)》の身体から盛大に煙が吹き出した。


「ウグうオオオオオオオオォォォォォッッ!!」


遍く生を厭う者(アイニカ)》の絞り出すような苦悶の叫びが喉から迸った。そして彼の再生と共に城壁がボコリボコリと崩れ落ち宙に消えた。


「うーん、やっぱり今のイチローでは、まだ少し難しい」


 ガーン! 万能感にも似た感触はまさかの錯覚だった模様。


「そんな顔しないで。イチロー、大丈夫だから」


 セナが、半泣きの俺の、光魔法によって代替された右手に触れた。


「イチロー、あなたが戦うと言った。わたしはあなたを信じてる。これから、わたしがすることは、ほんの少しだけの小さな手伝い」


 彼女から俺へと、何かが流れ込んだ。

 それはセナやセンセイから感じる馴染みのある力でもあった。


「《気》を把握し、息をするかのように自然を操る今のイチローなら、《神気》を感じて、使うことが出来る」


 彼女から、俺へと流れたそれは、俺やミカの光の魔力とは位階の違う力であった。その神聖さを、本能が感じた。


「これは、その手伝い」


 俺が受け取ったのは、力だけではなかった。

 彼女の───セナの真心が、俺の心に触れた。


「もし、それであなたが勝てなかったら、イチロー、わたしが彼の相手をするわ」


 彼女は、つらいだろうに、それをおしてでも、何とか胸を張って告げた。 


「けどそんなことには絶対にならない」


 何故とは聞かなかったが、セナの言葉が続いた。


「わたしは誰よりもあなたのことを知っているもの」


 俺は真正面から告げられた言葉に赤面することになった。









最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] good セナチャンカワイイヤッター セナニウムがしみわたる [一言] アイニカさんカワイソス。
[一言] > 「これが終わったら、伝えたいことがある」 おいおい大丈夫か!?死亡フラグよりも危険なフラグ建ってないか? (タイトルを2度見しながら)
[良い点] 更新ありがとうございます! [一言] 倒せるのはもう間違いないでしょう…が、終わったら伝えたいことがある…今までが今までだから不安が強く残る。あの勇者が持っていかないよな…?まだ勇者の能力…
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