第39話 続 聖騎士 vs《遍く生を厭う者》③
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俺と《遍く生を厭う者》の戦いは、まさに死闘という言葉こそが相応しかった。
《遍く生を厭う者》の二本の腕と十の暗黒の腕が、剣と拳とで俺に引導を渡さんと、圧倒的速度で以て振るわれた。
俺も負けじと二刀と二拳を以て迎え撃った。
《瞬動》の連続掛けで《遍く生を厭う者》の攻撃をいなした───
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!!」
がしかし、完全に攻撃に転じた目の前の化け物が、まるで主人公のような声を発しながらラッシュを仕掛けてきた。
《遍く生を厭う者》の十の暗黒の腕による攻撃は蛇のようにしつこく、破壊した側から瞬時に復元した。ジリ貧だ。均衡が徐々に傾き始めた──けれど、それが何だと言うんだ。
「負けてたまるかよッッ!!」
俺は光魔法で、五、六、七、八、九本目の腕を追加し、
「これでも足りねぇか!!」
さらに、
「足りねぇんなら増やせば良いッッ!!」
十、十一、十二、十三本目の腕を顕現させた。
「ラッシュ比べが好きなんだろ? できらぁ!!」
《遍く生を厭う者》の計十二を超える、左右の腕と背面から生やした十一の光の腕の計十三の腕で高速の連打を叩き込んだ。
闇の腕と光の腕が互いに衝突し、バンバンと大気を揺るがした。
ラッシュの均衡。その隙を逃さず、超加速した俺の二刀が、《遍く生を厭う者》の剣を受け弾き、肉体を切り裂いた。
「こっちはお前と違ってやれるとこまでやるしかないんだよ」
《遍く生を厭う者》の復活のインターバルに、急いでポーションを飲み下した。
状況は依然として拮抗していた。
けれど、数時間も経たない内にポーションは底を突いた。
もはや回復の手段は失われ、戦闘の継続によって確実に負うであろう傷は、これからは治ることなく増え続ける。
するとどうしたって身体に支障が生じ、戦闘のパフォーマンスは落ちてしまう。
これはもう負のスパイラルだ。
行き着く先には確実な死が鎮座して待っている。
ならば───ならばどうすることが正解か───
考え続けた俺の脳裏に、再び何かが過ぎった。
それこそが、何よりも恐ろしい───
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そこから先、どれほどの時間が経過したか俺は知らない。
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ギザ刃の大剣が俺の右肩の肉を大きくこそぎ取った。
神経がどうかしたのか、肩が上がらなくなった。
動作に支障の出ないように、光の粒子でそこを覆った。
肉体と遜色のない働きをさせるべく光の粒子で擬似的な身体のパーツを創り、それをあてがったのだ。
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《遍く生を厭う者》が俺の二刀のグラムに狙いを定めた。俺は気付かずにまんまと策にハマった。
クロスしたグラムと《遍く生を厭う者》のギザ刃の大剣が鍔迫り合いとなった。それこそが彼の望んだ状況であった。暗黒の腕が俺の光の腕の隙間を縫うように、二刀のグラムの刀身を横から思い切り殴打した。俺は堪らずに二刀から手を離してしまった。
《遍く生を厭う者》はその好機を逃すような生半可な相手ではなかった。大剣による───ではなく、速度を付けた左手の抜き手が俺の腹部へ向けて放たれた。何とか避けるも、完全には避け切れず、俺の脇腹を再び抉り取った。
俺は、流血箇所に手を当て、光魔法で創った代替パーツをあてがった。
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しばしの拮抗の後、《遍く生を厭う者》の暗黒の多腕の先端、その全てが鋭利な刃物のような姿となった。
永遠に続くような突きが始まった。俺の十一の光の腕で受けるもそれは悪手であった。光の腕が断ち切られた。復元し体勢を立て直すためにも距離を取ろうと後ろへと下がるも、暗黒の腕は非常に鋭く、最後の一撃をかわし切れず、俺の右耳が吹っ飛んだ。
どばぁと出血したが、耳殻部であったため聴覚にさしての支障はないと判断し、傷口を光の粒子で覆うに留めた。
俺の状況を待たずに我が意を得たりと、得意気な顔をした《遍く生を厭う者》が再び、身体から十の鋭利な腕を発射した。けれど、今度は問題はなかった。
十一の光の腕に、これまでに溜め込んだ《伝説話級》の武器を装備させ、迎え撃ち、完膚なきまでに磨り潰した。
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《遍く生を厭う者》の剣に重さが増した。
流し切れずに、右手の小指と薬指が無くなった。
深刻な欠損であった。戦闘に支障が出ると判断し、瞬時に光魔法によって創った欠損部位のパーツをそこにあてがった。
俺の負傷を察知し、油断し手を止めた《遍く生を厭う者》に二刀のグラムを当て───超加速───その身体を四分割してやった。
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「何ボケっとマヌケ面晒してんだよ?」
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俺の超加速した蹴りと《遍く生を厭う者》の蹴りとが衝突した。結果は相打ち。接触部位であった右足の足首より下が折れて千切れてぽーんと飛んでいった。
俺は溜め息を吐きながら、欠損箇所を光魔法で補い───間髪入れずにその復元したばかりの足を軸にし、光魔法を込めた拳で渾身の一撃をレバーへと叩き込んだ。
「ぅ、ぐおう」
へぇー、屍人でも肝臓への攻撃が効くんだな。
追撃の連打。ぐちゃぐちゃになるまで打撃を叩き込んだ。
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チュンチュンチュンチュン───
闇魔法のグミ撃ちが始まった。
俺も《光時雨》にて対抗し、光魔法と闇魔法との正面衝突と相成った。
「グゥ……オオオォォォォォォォォォォッッッ!!」
苦悶の声は《遍く生を厭う者》のものだ。
押し切れるか───俺は《遍く生を厭う者》の放った無数の黒い玉を超える数の《光時雨》を放ち相殺───さらに飛び込み一閃───内部に《光収束》を叩き込み爆散させた。
グミ撃ちの際に相殺仕切れず、右脚大腿部を貫く一撃があった。
すかさず手を当て、負傷した箇所を光魔法で埋めて覆った。
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「笑えよ」
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《遍く生を厭う者》の十の暗黒の腕がしなった。
完全な不意打ちだった。
しなった腕から無数の黒い針が放たれた。
初動が遅れ、避けて弾くも、その全てを捌き切れず、その内の一つが俺の左眼を傷付けた。
仕方なしに手を当て、光魔法で傷を埋め、超加速した腕で力いっぱいグラムを投げつけた。
全く反応出来ない《遍く生を厭う者》の頭部へとぶっ刺さり、
「ブウおッッ!!」
奇声を上げた巨体もろともそのまま背後の壁へと突き刺さった───それ以前に地を蹴っていた俺が飛び掛かりもう一刀のグラムを突き刺した。
「死んどけ」
大量の光魔法を流し込み《遍く生を厭う者》は爆散したのだった。
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左脚の感触が気持ち悪かった。
さきほど《遍く生を厭う者》にバッサリと切断され、さらには消滅させられたのだった。
だから今ある左脚は光魔法で形成されたそれであった。
どこか慣れないふわふわとした感触ながらも、しっかりと土を踏みつけると、俺は再び《遍く生を厭う者》に迫り、再び蹴りを放った。《遍く生を厭う者》も負けずに蹴りを放ち、互いの蹴りが衝突した。
前回は相打ちであったが、今回は完全に叩き折ってやった。
俺はするりと低い姿勢を取り、《遍く生を厭う者》のブラついた脚を引き千切り投げ捨てた。重力に従い沈みいく巨体。その勢いを利用し目に入った腕を身体をいっぱいに使い思いっ切り捻り切って、ぽいと放り捨てた。
彼が怯んだ隙に、十三の腕でラッシュを叩き込み、《光収束》で燃やし尽くした。
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散々好き放題やってきたくせに、《遍く生を厭う者》が今更表情を変えて後ずさった。
それがおかしくて俺は言ってやった。
「さっきまで得意気に笑ってたろ? もう一回笑ってみせろよ」
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