第37話 続 聖騎士 vs《遍く生を厭う者》①
○○○
とにかく《遍く生を厭う者》は執拗であった。
予想通りとは言え、何度消滅させてもその都度完全復活を果たし、それはもううんざりするくらいに俺の命を狙い続けた。
それに相対する俺は、式符セナのお陰で、魔力量の制限から解き放たれたが、だからといって目の前の《遍く生を厭う者》との戦いが楽勝になったかというとそんなことは全くなかった。
《超光速戦闘形態》は身体の負担やクールタイムがあるため、どこまで続くかもわからない今回の戦いでは極力使用を控えた。
その代わりとなる主な戦術は、常時《瞬動》による思考加速を行い、《遍く生を厭う者》の速く重い攻撃を認識し、その対処に《瞬動》を腕や足に重ね掛けするといったものであった。
もちろん《瞬動》もノーリスクで使えるわけではない。疲労だってあるし、《超光速戦闘形態》ほどではないが、脳に常時掛け続けたと言えども息継ぎと同じで、どこかでわずかではあるがクールタイムを取らないといけなかった。
いつ脱出出来るかわからない《遍く生を厭う者》との戦闘で大きな不安要素は三つ───水、食料、回復薬の残りであった。
時間の経過に従い、この三点の内で最も消費が激しかったのはやはりポーションであった。
《瞬動》の使用や激しい戦闘から生じた疲労はギリギリまで我慢し続け、戦いにはっきりとした支障が出そうになったタイミングでポーションを摂取することにした。
いくら節約したとしても、このやり方ではポーションの消費量が増えるのは必然であった。
そして二日と半日が経過した頃。
その消費量は、あれだけ備蓄していたポーションの七割を失うほどであった。
ポーションを使い果たすことは即ち死と同義である。このままで大丈夫なのかという不安が俺の心に顔を出した。
俺と《遍く生を厭う者》の戦いはギリギリ釣り合った天秤の傾きであった。
何か一つの切っ掛けで急激に傾くことは必至であった。
俺が戦闘で工夫しているように、前回の《廻天屍人》戦同様に《遍く生を厭う者》も復活するたびに何らかの強みを得ていた。
それは微々たるものではあるが、決して無視できるものではなかった。
「またかよっ!!」
叫び声を上げざるを得ないことに、目の前のモンスターが俺の《光時雨》の弾幕をものともせず飛び込んできた。
ついに目に見えてわかるほどの光魔法耐性を得た瞬間であった。
「何度やっても同じだッッ! 脆弱な人間よッッ!!」
振り下ろされるギザ刃の大剣を加速して弾き、返す刀で一刀の元に切り裂いてみせた。
「《光収束》」
広範囲攻撃に特化する代わりに威力を分散させた《光時雨》と異なり、名前の通りに威力を収束させた《光収束》を叩き込んだ。すると《遍く生を厭う者》はジュワァとその姿を消した。
もはや《光時雨》程度の光魔法であればほぼ無効にされたと考えられた。なら俺の光魔法はいつまで有効であるか。
かつて《不死の迷宮》で味わった恐怖心が、再び首をもたげたのを俺は確かに感じた。
そこから、さらに六時間が経過した。
相手が光魔法の耐性を持ったのは、俺が有効だからと使い過ぎたからかもしれないと考え、《廻天屍人》戦とは違い、俺はその使用をここぞというときのために控えることにした。
すると今度は、
「だッッ!!───」
《瞬動》によって加速された剣が《遍く生を厭う者》の体内に食い込むも、ついに一刀で切り裂くことが困難となった。
「───しゃあッッ!!」
脚と腕に《瞬動》によって加速し───連動───軸足をくるりと逆方向に回転させ、先程刃を入れた箇所の逆側から一太刀浴びせた。
「ぐおッッ!!」
《遍く生を厭う者》が呻いたが構わずにそのまま両断し、幾度目になるか、加速した剣で細切れへと姿を変えてやった。
「これだっていつまで使えるか───」
続きを言葉には出来なかった。
言葉にしたらきっと俺は───
○○○
そしてそこからさらに六時間ほどが経過した。
俺と《遍く生を厭う者》との戦いは三日目に突入していた。
そもそも《遍く生を厭う者》はとんでもなく硬くて、馬鹿みたいに速くて、嘘みたいに重い攻撃を放つ。さらに光魔法耐性を持ち、何度も蘇り、蘇るたびに成長するというこれまでに戦ってきた中でも一番凶悪なモンスターであった。
俺は忘れていたのだった。
彼だって、俺が光魔法で弾幕を張ったように、闇魔法で───
「ッッ───」
それまで、肉弾戦主体であった彼がついには、闇魔法をバカスカと使い始めた。いわゆるグミ撃ちという奴だ。
加速した脚で床を蹴り、その全てを避け、それでも避けられないものはグラムで切り裂いた───直後、
「ぐうぅッッ!!」
弾幕の陰から、大剣が煌めいた。
《遍く生を厭う者》の一振りであった。
俺の左腕は切り飛ばされ、さらなる闇魔法で完全に消滅させられたのであった。
「人間とは何と不自由なことか」
したり顔で《遍く生を厭う者》が両手を広げて高らかに叫んだ。
「腕を一本無くしたくらいで大騒ぎだ。全く見るに耐えん。
腕が無くなったのなら───」
彼が自分の腕を大剣で切り離し蹴り飛ばした。
そして「───生やせばいい」と宣うと、切断面から黒いうにょうにょがいくつも伸びて絡まり合いすぐさま腕が戻ったのだった。
息をするくらい簡単なことだろ? と言わんばかりの彼の煽りを左腕を失った苦痛を噛み殺しながら、俺は聞いた。
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