第33話 不撓不屈の魂 / 彼女達①
◇◇◇
これまでの異世界生活を見ての通り、聖騎士ヤマダは運が悪い。
もしも、この世界でステータスの各種項目を数値化することが出来ていたのなら、彼のluck(幸運値)はそれはもう酷いことになっており、目も当てられない惨状であっただろう。
ひとえにそんな限界低luck人間ヤマダが、七つもの《新造最難関迷宮》の攻略を果たし、さらには《封印迷宮》の攻略を目前とまですることが出来たのには理由がある。
まず、聖騎士職と彼の持つ成長スキル自体が強力であったこと。そして、彼が地獄のような訓練を乗り越え、格上との実戦に次ぐ実戦の果てに、あらゆる困難を乗り越える強さを手にしたからであった。
しかし、彼がやってこれた理由はそれだけではない。
彼には、何よりも胆力があった。
一度腹を括り、そうと決めたら決して折れない、不撓不屈の鋼の如き胆力があったのだ。
○○○
セナの分身体である式符セナは、俺の代わりに攻撃を受け、その身を光の粒子へと姿を変えた。
「聖騎士よ、これでまた独りになったな」
俺の心は、目の前の屍人に対する憎悪や、式符とはいえ俺のせいで彼女を失ってしまった悲しみでいっぱいであった。
けれども、それ以上に、不甲斐ない己への怒りが、俺を責め苛んだ。
しかし、そんな俺を慮るかのように、光の粒子は、それまでの式符とは異なり消滅することなく、俺の中へと吸い込まれた。
───大丈夫だから、イチロー
彼女の温もりを、心を感じた。
───私が手伝ってあげる
俺に心の中で語り掛けるセナの声を聞いた───瞬間、
「こ、れは───」
対《三つ首の液体龍》戦で何とかすることが出来た《気》の吸収───その時の感覚であった。
「俺は一人じゃねぇよ。いつだって俺には、彼女がいてくれる」
魔力なら、もういくらでもある。
相手が速過ぎて反応出来ないのなら、《瞬動》で思考を加速し続ければ良い。
負担が大きい? そんなものは我慢すればいい。
これまでだってずっとそうやって俺はやってきたんだ。
「恐怖で気でも触れたか聖騎士……戯言は地獄で言ってろ───フンッッ!!」
《遍く生を厭う者》が気合と共に神速の連撃を放った。常時加速モードを決め込んだ俺には、スローに見えた。
腕の部分加速───全てを余裕をもって弾き返すと、カウンターとばかりに腹部を一閃し、真っ二つにしてやった。
反射か苦悶か「うぐお」などと、声を出そうが関係ない。
どうせ復活するだろうが、光魔法で消滅させておいた。
「どうせ蘇るんだろ? それならそのときで何回でもやったらぁ」
前回は千八十回であった。
あれとは比べ物にならない能力を手にした《遍く生を厭う者》は一体、何回倒れれば、完全に消滅するのか。
予想も付かないが、覚悟を決めた。
セナに会うためにも、やり切るしかなかった。
◇◇◇
イチローがどこかの空間に引きずり込まれた数分後。
ようやく、聖騎士ネリーや王国騎士団達が駆けつけた。
その場には多くの者が、《遍く生を厭う者》の邪気に当てられ意識を失い倒れていたが、オルフェリア達は、彼らの介抱を援軍で駆け付けた者達に押し付け、足代わりの馬を一頭借り受けた。
三つ首龍戦で力を使い果たしたアンジェリカとプルミーを後ろに乗せると、すぐさま街へと帰還を果たした。
一目散にギルドへと向かった彼らは、《連絡の宝珠》にてアノンに連絡を取り、ことの次第を伝えた。
いつも冷静沈着な彼が、見たこともないような取り乱し方をしたことが意外であったが、数分もすると平静を取り戻した。
プルミーが彼に「オーミ様はいるか?」と尋ねたところ、ちょうど先程、三人を担いでやっとこさ街に戻ったのだという。
意識を失った剣聖は寝不足などから起こる単なる過労であったが、死の一歩手前にいたアシュリーと、実際に一度命を失った聖女達三人を回復することは、センセイにとっても中々大変なことだったようで、ようやっと休憩に入ったところであった。
「話を聞いただけでは、どうするべきかワタシにもさっぱり見当がつかない。これは私達だけで手に負える問題ではない」
アノンが悲痛な声を上げた。
「仕方ない。アノン、オーミ様を起こしてきてくれ」
イチローを助けるためにどうするべきか───この場にいた皆がそれぞれ自身の不甲斐なさを嘆いた。
アノンが頷き、「少し待っててくれ」と席を立とうとしたそのとき、
「状況はあまりよくないみたいじゃの? なあに、我が来たからには問題はもう解決したも同然じゃ。ほら、どうなったか我に申してみよ」
スクルドに繋いだ《連絡の宝珠》から頼もしい声が聞こえたのだった。
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