第21話 罪と罰 / 超龍決戦( vs 《封印迷宮より現れしモノ》⑥)
ハッピーバレンタイン!!
本日2話目!!
◇◇◇
少年は指定された時間に合わせて到着したはずだった。
長方形のテーブルに、向かい合って座った形となった勇者の、その両隣には、二人の女性がいた。
今まさに、少年が現れ、着席したというのに、二人はその時間すら惜しいのだと言わんばかりに、一瞥すらしない。
目の前のテーブルを、まるであちらとこちらを隔てる境界線のようだと思った。
食事中、三人は非常に楽しげで、よく笑いよく話した。
一方少年はまるで空気であった。
勇者は愚にもつかないことを延々と語ってみせ、彼女達は、ときには勇者へとしなだれ、甘え、ときには彼を甲斐甲斐しく世話を焼き、褒められると目を潤ませて頬を赤らめた。
見るに耐えない光景とはまさにこのことだと、少年は目を逸らした。けれど、少年は言わずにはいれなかった。
「竜宮院、訓練はしてるか? ミカ、炊き出しは? 以前はやってたよな。アンジェは、日課はこなしてるか?」
少年の問いに、三人はしばらくはきょとんとした顔を浮かべた。すぐに勇者が手を叩いて吹き出した。それを皮切りに、二人も声を上げて笑った。
「二人共、聞いたかい?」
「はい、勇者様」
「ええ、聞きましたわ」
少年は困惑した。一体何がおかしいのか。
「ああ、何がおかしいかわからないのかい? やれやれ、僕は君のお母さんじゃないんだ。聞けば何でも説明してもらえるだなんて思わないことだ。けど、まあいい、サービスだ。説明してあげよう。そもそも、これまでのやり方で上手くいってるんだ。ならそれで問題はないんじゃないかな? ってことだよ。
やり方を変えたことで失敗したら君は責任が取れるの?」
何を馬鹿なことを叫びそうになった。しかし遮られた。
彼に侍る二人が「さすが勇者様」と次々に声を上げたのだ。
「君が迷宮から得て分配された金を、僕達はわざわざ使って回ってる。それが何故だがわかるかい? 僕達は何も遊びでそんなことをしているわけじゃないんだ。今まさに《新造最難関迷宮》の脅威に晒され、貧しさに苦しむ民のためにも、僕達なりに頑張って一生懸命に経済を回しているんだ。
そうだろ? 僕は何か間違っていることを言っているか? それなのに君はどうしても僕達を悪者にしたいのかい?」
彼の発言───その全てが、詭弁だった。
「君は、馬鹿の一つ覚えみたいに、僕にも、そして彼女達にも、炊き出しだ日課だ、訓練だなんだと偉そうに講釈を垂れているけれど、訓練をしたからといって民はご飯を食べられるのかな? 神を尊んだからといって金塊が採れるのかな? それに日課とやらをこなしたからといって不作の畑に雨でも降るのかな?
こんなにも。
こんなにも、こんなにも。
こんなにも、こんなにも、こんなにも頑張っている僕達に、何度も何度も何度も、御高説をこれでもかと垂れ流すんだ。君はさぞや大層ご立派な聖人君子様なんだろうね」
少年は、聖女の敬う神への信仰が人を救うことを知っていた。
それに、魔法が赤髪の少女を構成する大事な要素であることも知っていた。
「おまえらは、どう思うんだ?」
少年はその質問に賭けたのだ。
「民のためを思い、勇者様と共に日々を過ごすことこそが、最優先されるべきでしょう」
「私もそう思う。勇者様の言う通りね。勇者様は何も間違えてないわ」
何よりも───何よりも、だ。
少年は、誰にも聞かれぬように呟いた。
信仰に日課、そのどちらも、自らの心の中にある、衝動にも近い何かによって、自発的に動かなければ、無意味だ。
「帰る」とだけ告げて、少年はその場から去った。
◇◇◇
三つ首龍の身体から、十数個の泡が飛び出した。
泡が伸縮を繰り返し、一つの姿をとった。それは三つ首龍と同等の身体を持つ、ドラゴニュートの姿であった。
ザッザッと彼らがこちらに向かって歩み出した。
◇◇◇
その日から少年が彼らを目にする機会はほとんどなくなった。
街で偶然見かけたときか、《新造最難関迷宮》に行くかどうかの確認をし、彼らを背後に連れて進むときだけ、少年は彼らの顔を見ることになった。
◇◇◇
少年の視線の先には勇者達三人がいた。
向けられた感情は少しの羨望、と寂寥感や、怒りや、悲しみに───無力感であった。
◇◇◇
またある日、偶然三人を見かけた。
以前とほとんど変わらぬ彼の感情には、諦念の色が滲んだ。
◇◇◇
彼の諦念は徐々に大きいものとなった。
◇◇◇
その感情は彼の中で、確実に育った。
そしてある日、意図せずに見てしまった彼ら三人へと向けられた感情は、完全なる諦念であった。
◇◇◇
少年は彼らを諦めたのだ。
◇◇◇
そして、今、私は───
彼の、そんな瞳を、もう見たくはなかった。
◇◇◇
彼にそんな顔をさせたのは、他の誰でもない、私だった。
◇◇◇
取り返しは、つかない。
私には、どうすれば良いか見当もつかなかった。
十五体もの液体龍人がこちらに向かって走り出した。
その内十体はオルフェリアへと、そして残り五体は私達三人の方へと襲い掛かった。
「少しくらい離れても《魔力回路》は繋いだままでいられるか?」
イチローに問われた。難しい───とは言わなかった。代わりに言葉少なに「出来るわよ。任せて」と答えた。
浅ましくも、今さら私は、彼に、かっこいいところを見せたかった。
「プルさんは《魔剣ニーズヘッグ》の維持を、アンジェリカは《ナルカミ》を切らさないように。あいつらは俺が対処する」
私達にそう告げて、彼は剣を抜いた。しかし液体龍人へと駆け出したとき、彼の魔力量は既に一割を切っていた。
私には既に、このペースでは三つ首龍を《ナルカミ》で削り切ることが不可能であるとわかっていた。
私はどこまでも自分勝手な人間なんだろう。
全てを思い出しても、私は彼に償いたいと考えている。
それこそが自己中心的な感情であることも理解していた。
けれど、それでもなお、私は彼に報いたかった。
そのためなら、私は、自分の命なんて、少しも惜しくはなかった。
だから、そのためなら───
○○○
アンジェリカから急激な魔力の高まりを感じた。
その魔力の動きは、夢でみたプルさんの最後に似ていた。
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