第17話 魔法使い⑥ / 超龍決戦( vs 《封印迷宮より現れしモノ》⑤)
◇◇◇
聖騎士ヤマダが私達へとぐるりと視線を向けた。
「よしっ! これからあの化け物討伐の最終フェイズに入るっ! そのための準備は終わった!!」
プルさんによる、後方への指示も終えていた。
指示で先程と異なったのは、眼前の龍に効果のある火属性の上級魔法を使える者は、プルさんの合図に従って一気に放ち、使えない者は靄討伐の方を優先しろということであった。
「今度こそあの化け物を仕留めるぞぉーー!! チーム《聖騎士の屑》!! 《電撃作戦》の成功を願ってー! えいえいおー!!」
遥か前方では、プルさんの《葬送の機雷》によって良いように嬲られている三つ首龍が怒りの咆哮を上げているというのに、全く危機感を見せない聖騎士ヤマダが、何とも気の締まらない掛け声を上げた。
それに合わせて小さく恥ずかしげに「おー!」と声を上げたのはプルさんであった。
オルフェリアにいたっては、腕を組んで「やらないといけないわけ?」と溢した。
二人の反応に対し、悲壮感溢れる表情を浮かべたヤマダを見ているとおかしくて、私はくすりと笑った。
たったそれだけのことだけれど、私の胸の内に灯された火は、薪を焚べたように激しく燃え上がり、これから行う作戦の全てが上手くいく、そんな気がした。
魔法発動の準備を終え、私は頷いてみせた。
「ならッッ!! まずは私からだッッッ───」
プルさんが、既に起動状態を終えた《魔剣ニーズヘッグ》を力の限り投擲した。
魔剣は三つ首龍にかすることなく、その上方へと飛んだ。やがてそれは頂点に達し、魔剣は重力に従って落下をはじめた。切っ先は下を向き、そこにはちょうど三つ首龍の胴体があった。
「《ドレッドノート》」
彼女の命に従い、《魔剣ニーズヘッグ》がその姿はそのままで───大きさを変えた。魔剣は、気が付けば数メートルほどの物となり、それでも留まることなく加速度的に巨大化を果たし、三つ首龍に接触する頃には、彼の龍の体長の半分はあろうかという大きさとなり、当然の如く、三つ首龍の液体の身体にぶっ刺さった。
三つ首龍は憤怒から《葬送の機雷》を爆破させながら、もがきにもがいて、その蒼い火の玉の張り巡らされた範囲から逃れた。そして激しい咆哮と共に、しっちゃかめっちゃかに暴れた。それでも、三つ首龍の怒りは収まる気配を見せず、身体を犬の様に伏せさせた。すると三つ首龍の周囲に魔力が渦巻き、周囲の地面がべこべことへこみ、莫大な体積の土が宙に浮かんだ───かと思えば、あっという間にそれらは、いくつもの、圧縮され硬質化された土の円錐へと姿を変えた。
けれど、無駄な努力だ。
だってもう───
「《ナルカミィィィィッッ!!》」
再び瞬時に発生した巨大な積乱雲から、稲妻が落とされた。
落下地点は、巨大化した《魔剣ニーズヘッグ》であった。
三つ首龍の胴体を刺し体内へと刀身を潜り込ませた魔剣───それを雷の通り道とし、魔法耐性を持つ体表を無視し直接内部にダメージを与える───というのが私達のプランであった。
まさにそれは成功し、三つ首龍に大規模なダメージを与えた。
その叫びは、怒りというより、苦悶に近く、集中力を失ったのか、宙にあった土の円錐がゴトゴトゴトと、次々に地に落ち、土塊へと姿を戻した。
ここから先は、まさに生きるか死ぬかだ。
私達の魔力が尽きれば私達の負け、私達が削り切れば私達の勝ち。命を賭けた一世一代の大勝負と言えた。
○○○
積乱雲はますます大きくなり、《三つ首の液体龍》へと絶えることなく稲妻が降り注いだ。
アンジェリカの額から汗が伝った。
もうどれくらい続いたか、五分か、それとも十分か、正確な時間は分からずとも、俺は早く終わってくれと願った。
俺は、眩い光に、目を細めた。するとちょうどそのとき、後方から放たれたたくさんの上級火魔法が、三つ首龍へと着弾した。
ふと気付いた。あれだけいたはずの靄の姿が消えている。夢でみた展開と同じであった。《三つ首の液体龍》は、まずは周囲の靄を吸収し、再生を果たす。
そして、それでも足りなければ───
ここで、魔力の流れの変化がはっきりとわかった。
全方位から、禍々しい魔力が、今この場に集いつつあった。
三つ首龍がバーチャス戦線全域、もしくはそれ以上の広域から、靄を取り込み、再生と強化を始めた証左であった。
◇◇◇
アンジェリカが次々に魔法を開発したり、これまで想像すらされてこなかった技術を発展させることが出来たのは、彼女の卓越した知識もさることながら、その圧倒的な技量によるところが大きい。
自身の体外の魔力を用いる技術も、もちろんそれに当たり、他人との間に《魔力回路》を通す技術は、まさに彼女にしか出来ない妙技と言えた。
そのために、アンジェリカにとっても、未知とされた《魔力回路》は不確定要素の塊と言えた。
◇◇◇
どれほど経ったか、時間感覚はもう、ない───
稲妻は尽きることなく降り注ぎ、それでもなお、身体の再生と崩壊を繰り返す《三つ首の液体龍》を相手に、私の魔力の底が見え始めた。
「俺達の魔力を使えッ」
ヤマダが叫んだ。
どうして魔力が尽きつつあることに気付いたか、なんて野暮なことはもう言わない。彼らのこちらを慮った表情でわかった。
「遠慮はしないわ。ヤマダ、プルさん。私に、魔力を───」
私の魔力操作に従って、彼らとの間に繋いだ《魔力回路》から温かなものが流れ込んだ。
それは魔力と───彼らの思いと、記憶であった。
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