第13話 《聖騎士の屑》 / 超龍決戦( vs 《封印迷宮より現れしモノ》①)
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俺の呼び掛けを耳にしたプルミーさんが耳をぴくぴくと動かした。俺の声だと認識すると、その険しい顔を綻ばせたのだった。
「イチローくん……来てくれたんだな」
どこか感極まった様子の彼女であったが、俺の背後のオルフェリア、そして───
「アンジェも、来てくれたのか……」
愛娘といっても過言ではないアンジェリカを見て、どこか複雑な面持ちを浮かべたのだった。それも仕方のないことだと思った。
「プルさん……」
アンジェリカはそう呟いたまま目を伏せた。
それが罪悪感からくるものなのか、後悔からからくるものなのか、帽子の影になった彼女の表情は伺えなかった。
アンジェリカは街を出てからプルミーさんの元に戻ることがなかった。それどころか、一度たりとも連絡すら寄越さなかった。
さらには《是々の剣》を奪い、封印を解くといった愚行を犯してもいる。
それ自体が、竜宮院からの受けた何らかの力の干渉の結果だったとしても、プルミーさんはそれを知らない。
プルミーさんが愛娘たるアンジェリカの一連の行動にどういった気持ちを抱いているのか、俺にはわからなかった。
「来るわよ」
オルフェリアが告げた。
すると遥か前方で、プルミーに両断されたはずの三つ首龍───《三つ首の液体龍》の身体が液状化し、完全再生を果たしたのだった。
「アイツと戦うのに情報共有は必要だろう。少し下がって待ってろ。私が時間を作る」
咆哮を上げた《三つ首の液体龍》へとプルミーさんが先程以上の超遠距離から魔剣を振るった。
すると輝く刀身が鞭のようにしなり光の残像すら残し、一瞬の内に三つ首龍をバラバラに分解し、しばらくの間行動不能へと追いやった。
俺の現実が、俺のみた夢と一寸の狂いもなく同じというわけではない。実際に俺がここにいることが良い証拠だ。
ただ、《三つ首の液体龍》がこれで終わりではないことは確かであった。
「お久しぶりです、《蒼焔》。わたしはアノンに助っ人を請われてこの地に来ました」
「オルフェくんか……あれから、君の活躍は幾度となく耳にしている。君がいれば百人力だな」
えっ、この人敬語とか使えるんだ! という俺の視線に「なによ?」とオルフェリアはジト目を向けた。
「そんなことより、《蒼焔》がアンタのことを『イチローくん』って言ってんだけど」
はわわ! はわわわ! はわわわわ!!
「ほら! イチローなんて名前、ありふれてるし! 元メジャーリーガーの鈴木一郎だっているし、何かラップバトルしてる山田一郎なんて名前の人だっているし……って俺と同姓同名じゃんこれ!!」
とにかくテンパってる俺であった。
そんな俺に追い討ちをかますが如くオルフェリアは言った。
「わたしはイチローなんて名前の人物一人しか知らない」
プルミーさーーーん!!
あんたのせいで見事にバレましたよおおおおおぉぉ!!
何、口元に手をやって『バレちゃった!!』みたいな表情してんすかああぁぁぁぁ!! 可愛いやんけこのポンコツゥーーー!!
「警戒しないで。噂は嫌いなの。わたしは真実は自分の目で見極める主義だから」
心の奥を覗き込むような彼女の瞳は嘘偽りを許さない───俺はそんな気がして慎重に言葉を選んだ。
「君の想像通り、俺は聖騎士ヤマダイチローだよ……。
戦いが終わったあとでいいのなら、俺のことを説明しよう。金だって言い値で渡す。だから今回は何も言わずに力を貸して欲しい」
俺の言葉に対して、オルフェリアの声に力が籠もった。
「見くびらないで。わたしはバカアノンと約束したの。貴方達を助けるってね。一度交わした約束を違えるだなんて、わたしは絶対にしない」
まあ、戦いの後でしっかりと話は聞くけどね、と彼女は締めくくったのだった。
俺は恵まれてるのだろう。こんな状況にある俺を信じてくれる人がたくさんいるのだから。だというのに───
「こっちはいいとこなんだからよ」
背後で身体を復活させた《三つ首の液体龍》が馬鹿みたいな獣の咆哮を上げた。
「もっかい寝てろ、バカヤローが」
振り向きざまに一閃。
利き手人差し指と中指に付与した《光収束》を極限まで伸ばし、化け物を真っ二つに斬り裂いてやった。
どうせすぐに元に戻るんなら、きっちりと粉微塵にしてやればいい。俺はさらに幾度となく腕を振った。
「オルフェリアさん、改めてよろしく頼んます」
俺は彼女へと手を差し出した。
オルフェリアの空気がなんだか変わった。
何だか俺をまじまじと見てるような……
何なの? 何なのなの?
んー、それよりも───
「とりあえず、俺、プルミーさん、オルフェリアさん、アンジェリカの四人を暫定的に、チーム《聖騎士の屑》とします」
ちょっ! とか聞こえるけど異論は認めない!
俺、実はチームとか好きなんだ。
それに何となくで決めた名前だけど中々悪くないんじゃなかろうか?
「まずは、これから復活するであろう《三つ首の液体龍》へと、俺とアンジェリカがいくつかの実験をしてみます」
三人が俺の言葉に耳を傾けたのがわかった。
「俺はあの化け物を多少なりとも知っている。
ご覧の通り、三つ首龍───《三つ首の液体龍》はどれだけ斬り裂いても元に戻ってしまう。それだけじゃない。魔法で攻撃しようとも、耐性を持っているのか、ほとんどダメージを与えられないはずなんだ」
ただ、それが夢と同じ保証はない。
「俺の知識通りなのか否か、それを今から試してみます」
俺ならもう、極めて短い詠唱でいける。
詠唱開始と同時に、彼女らの前に立ち、
「《光時雨》」
俺の十八番である光魔法であった。
わかってる。ちょっとやそっとじゃ実験になんてなりやしない。
「だからよ、覚悟しとけよな」
俺の放った光の針が空を覆い尽くし、途切れることなく《三つ首の液体龍》へと降り注いだ。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
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誤字報告もいつも本当に助かっております!
本当にありがとうございます!
『Never Say Die』のお話ですが、
イチロー視点、もしくはそれに準ずる視点でしか使われない○○○によって話を区切ってました。
要するにあれは、イチローが『小指を繋ぐ』の直後らへんにみた悪夢の内容でした。




