第12話 貴女との約束を
○○○はイチロー視点またはそれに準ずるもので
◇◇◇は他者視点だったりします
○○○
あらゆる物を飲み込み、万物を焼き尽くさんとする破壊の力が、プルミーさん達に向けて放たれた。
しかしプルミーさんは迅速であった。
彼女の準備は既に完了していた。
「《煉獄の門》」
彼女の呼び掛けに応じて、燃え盛る業火に包まれた、禍々しくもどこか荘厳な門がゴゴゴゴと音を立てて現出した。
それは恐らく、プルミーさんが召喚したものに違いなかった。
○○○
彼女───エルフのギルマスことプルミーさんと映像の魔導機によって互いに顔を合わせて話し合った日に話を戻したい。
俺はその夜、夢をみた。
内容は前回と同じ、プルミーさんが多くの者を率いて戦う夢であった。
ただし、その内容の全てが同じではなかった。
前回みた夢でのプルミーさんは、どこか切羽詰まった表情であり何かを諦めた表情が印象的であった。
しかし、その日みた夢でのプルミーさんからは、絶対に何としてでも状況を打破してみせるという意志を感じた。
装備にしてもそうだ。前回の夢とは異なり、恐らくは彼女の持てる中での最高最善の物が装着されていた。
しかし───その結末が変わることはなかった。
プルミーさんは、みんなを率いて死力を尽くした。
実力以上の力を用い、老獪な策を張り巡らせ、誰一人欠けさせることなく、全身全霊の一撃により敵を滅ぼした───かに見えた。
その先はまさに、悪夢であった。
俺はもう、確信していた。
それまでにみた悪夢は、もう単なる悪夢ではなく、これから確実に来る未来のビジョンなのだ。
目覚めと同時に俺は、最悪の未来を阻止すべく頭を抱えた。
そうして辿り着いた解答は、俺が持ち得る、たった一つのやり方であった。
けれど、それは、センセイによって否定されることとなった。
○○○
「我は反対じゃな」
まさかのセンセイの反対に俺は、己の耳を疑った。
「ムコ殿、我も主の優しさはよう分かっとるつもりじゃ。そして我は主のそういったところを愛してさえおる」
「ならッ───」
食い下がった俺をセンセイは一瞥し、
「主がソレを、最後まで使こうてしまったときどのようなことが起こるか、我にも予想出来ん」
俺は、呆気に取られた。
そんな可能性を考えたこともなかったからだ。
「強力な力の行使には、強力な代償を伴う。
強い魔法には、大量の魔力を。素晴らしい武技には、欠かさぬ功夫を。それこそが、自然の摂理。
ならソレは───下手をするとムコ殿の虎の子の宝珠以上の力を発現させるソレはどうなる？ 何も代償がないとどうして安心出来る？」
彼女は言い聞かせるように俺へと告げた。
センセイは何も間違ったことは言ってない───けど、
「なら、これから起こる不幸がわかってて、俺はそれを手をこまねいて待つことしか出来ないのですか……？」
床に液体───血がぽたりぽたりと滴った。
いつの間にか、無意識に硬く握られた俺の手の平から流れたものであった。
センセイが俺の手を取った。
「ムコ殿、自分を責めて、傷つけんでくれ」
普段の飄々とした彼女が、俺を慮って顔を歪ませた。
俺はセンセイのその表情が好きではなかった。
彼女にはいつだって「くふふ」と笑って他愛ないイタズラをしていて欲しかった。
ちょうどそのとき、チカリと、俺のマジックバックが一瞬光った気がした。センセイの視線も確かにそこへと向けられていた。
「セナも、ムコ殿にはいつでも笑顔でいてもらいたいと思うとる」
センセイが一つ大きな溜め息を吐いた。
「我も、甘くなったものよ」
彼女はくしゃりと微笑んでみせた。
「けど、まあ、悪くはない」
そこでようやくセンセイは俺の手を離したのだった。
「ムコ殿、これはセナからのお願いでもある。セナが言うておる。『イチローの力になってあげて』とな」
じゃあ！ と俺が声を発するのを手で制止し、
「プルのやつを助けるのに、ムコ殿のソレを用いることを考慮しよう。ただ、それは最後の保険とする」
こうして、センセイが俺に、条件付きながら協力してくれることになったのだった。
○○○
ソレを用いずに済む最善の策は俺達が、彼女───プルミーさんの戦いに参戦することであった。
最短時間で彼女の元へと馳せ参じるためにも《鶴翼の導き》は欠かせなかった。それに───
竜の背から見えたプルミーさんの召喚した巨大な門が、三つ首龍の光線と接触し、大爆発を起こした。
俺達には、それほど悠長にしてる時間はなかった。
「ここで降ろします」
竜の御者が俺達に告げた。
最前線は既に危険な状況であったため、少し離れた場所に降りることとなった。
急いで駆け付けた俺達の前で、プルミーさんが煌めく刀身の魔剣を振るった。目の前の化け物が一刀両断された。
まさに夢の通りの展開であり、化け物がそれで終わらないことを俺は知っていた。
「プルミーさんッッ！！」
俺は大声で彼女の名を呼び、彼女の元へと駆けた。
何とか、間に合うことが出来た。
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誤字脱字報告もいつも本当にありがとうございます！
やったーやっとここまできたー
ここを書きたかったんだー
それから前話も加筆して倍くらいになっております……オルフェさんのかっこいいとこや、アンジェさんの何かヤバい感じとか増えてますので、もしお手隙の時間でもございましたら……
一応ですが、第5章20話『小指を繋ぐ』と第21話『あいにくの雨で』の話ですね。
