第8話 Never Say Die. ( vs《封印迷宮より現れしモノ》)③
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《魔剣ニーズヘッグ》───彼の魔剣は別名《従順なる暴食龍》と呼ばれている。
それは持ち主の意によって、剣、槍、鞭、弓、さらにはライフル、モーニングスターのように、およそこの世界に現存する全ての武器類に姿を変える従順性を持ち、またそれと同じくらいに強烈な獰猛性をも秘めているからであった。
獰猛性の発露。
それこそが《多重魔力変換型穿光弓形態》によって確定される絶命の一撃だった。
様々な形態の中でも最も存在が不安定な《多重魔力変換型穿光弓形態》であるが、持ち主自身の大量の魔力と、それまでに魔剣自体に溜め込まれた全ての魔力を用いることで、その姿は完全に現実の物へと固定される。そして一度その存在の固定が済んでしまえば───
キュイイィィーーーン!!
巨大な機械弓形態となった《魔剣ニーズヘッグ》がさらに強烈な光を放った。機械稼働の音にも似たそれが幾重にも響き渡った。
「お前達ッッ!! 十秒後だッッ!! 私に続けぇぇぇッッ!!」
プルミーは底無しの食欲を持つ魔剣へと、最後の一滴まで己の魔力を食らわせた。
注意すべきは、矢が大地を穿つように絶対に射たないことだ。
「五、四───」
彼女のカウントは最終へと向かう。
《多重魔力変換型穿光弓形態》となった《魔剣ニーズヘッグ》は己の存在を維持せんと周囲の魔力を吸収するのみならず、あらゆる存在を魔力へと変換し、どこまでも吸収し続ける。
「二、一───《ディスチャージ》」
それは猛り狂う龍へと告げた、もう何も我慢することはないという解放の文言。
そして弓の名手たるエルフの彼女も、この距離からなら絶対に対象をはずさない。準備は出来ている。
《三つ首の液体龍》と《従順なる暴食龍》。
奇しくも、両者共に龍の名を冠する者どうしの戦いとなった。
「ッてぇぇぇぇぇぇーー!!」
いつもは冷静沈着なプルミーの激しい怒号に従い、後方の魔法使い達から放たれた色とりどりの上級魔法が空を埋め尽くした。そしてプルミーから解き放たれた光の矢が煌めきの軌跡と共にマッハを超え───《三つ首の液体龍》へと突き刺さり───ドッッバァンッッ!!───液状の身体に突き刺さった矢は、二本の首と合わせて身体の半分以上をふっ飛ばしその部位を完全に吸収し消滅させ───遥か彼方の上空へと姿を消した。
「グゥルルルルルオオオオオウウウウウオオオオォォォ!!! 」
戦闘に入ってから初めて聞く化物の苦悶の声が、大気を揺さぶった。
さらに遅れて着弾した無数の上級魔法が、《三つ首の液体龍》の残された身体をこれでもかと、破壊し尽くした。
しかし、最後のイタチッペか、《三つ首の液体龍》が残された左前足を持ち上げ、何らかの術式を発動させた。プルミーの《葬送の機雷》を見て真似たのか、直径三十センチはあろうかという球体が無数に浮かんだ。
「わかってるさ。まだやるんだろ? バケモノめ」
《魔剣ニーズヘッグ》の《多重魔力変換型穿光弓形態》を使用することで精神力と魔力を限界まで消費したプルミーは、もはや立っていることもままならない状態であった。しかし、背後のパーティの不安を慮って、全く疲労など感じさせないようにと装ってみせた。
そして、最後に足掻く《三つ首の液体龍》を射抜くように見つめ、彼女は唱えた。
「《開放》」
先程、《三つ首の液体龍》の魔力を染み込ませた《人造魔剣イミテイションゴールド》───液体の身体を貫通しないように、そして体外へと排出されないようにと意図して投擲された二本のそれは、ようやっと紡がれた彼女の言葉に従い、《三つ首の液体龍》の体内で大規模な魔力爆発を起こし───残された身体を完膚なきまでに消滅させた。
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