第7話 Never Say Die. ( vs《封印迷宮より現れしモノ》)②
○○○
細切れになった《三つ首の地龍》の残骸は、まるで時を巻き戻すかのようにその場に集合し、ぐにょりぐにょりとスライムのような挙動を数度繰り返した後、傷一つない三つ首龍の姿へと回帰したのだった。
恐らくこうなるんじゃないか、とは一度目に切断した身体が元に戻った段階でプルミーも予想していた。
ただでさえ厄介な三つ首龍は、物理的な破壊を無効化するといった液体的な特徴を備えた身体となっていた。
言うなれば眼前のモンスターは、完全なる新種であり、いわば《三つ首の液体龍》であった。
「そろそろか───」
彼女の呟きとほぼ同時に、後方から上級魔法が一つ、それに続いて、二つ三つ四つと放たれた。
人格に問題はあれど、さすがは今回の人員に選ばれただけのことはある。彼らの申し分ない威力の魔法が、途切れることなく降り注いだ。
「やったかッッ!!」「やったわッッ!!」「やりましたわッッ!!」「やってやったぜ!!」「やってやったどん!」「やってやったばい!!」などといった声が背後から聞こえた。元より、これで倒せたとは思っていないプルミーはさらに不安を覚えたのだった。
様々な上級魔法によって発生した爆煙が晴れた───
「グゥルルルルルルルルルルルオオオオオォォォ!!」
そこには無傷の龍が───怒りの雄叫びを上げた。
大気を揺るがすようなそれは、こちらの人員の志気を挫くには十分な威力であった。
「狼狽えるなッッ!! 相手同様に、こちらもまだ被害は出ていないッッ!! やりようならいくらでもあるッッ!!」
《三つ首の液体龍》が尾をしならせ、地に叩きつけた。土は散弾のように飛び散りパーティを襲った。
「護れ───」
彼女の声にならい空中に多数配置された《葬送の機雷》───蒼い焔の球体の内のいくつかが彼女の前方へと位置し、全ての石礫を見事に焼き尽くしたのだった。
後衛では、戦闘のセオリーとして盾職がしっかりと魔法使いや回復職達を護っていたので、無傷であった───と安心した瞬間、《三つ首の液体龍》は、恐らく土魔法を発動しているからだろう、まるで豆腐に箸を刺すかのような軽さで地面へと両の前足を突っ込んだ。持ち上げられたその手には大量の土が載せられていた。
「シールダー何か来るッッ!! 何としてでも護り切れッッ!! ヒーラーッッ!! 魔力切れの者は一刻も速く薬を飲めッッ!! 来るぞッッ!! 増幅器発動ッッ!!」
指輪の砕ける音と共に、プルミーはさらに多くの───辺りの空間を埋め尽くすような《葬送の機雷》を呼び出した。
「グゥルウウウウウウウウウウウアアアアァァ!!!」
速度勝負。呼応するように《三つ首の液体龍》の手の土くれは既に、巨大な円錐へと姿を変えていた。
「お前達ッッ!! ここが正念場だッッ!! 歯を食いしばれッッ!!」
彼女は背後のメンバーを鼓舞すると《三つ首の液体龍》に先んじて、大量の《葬送の機雷》を土の円錐へと放った。
そいつは、大量に放たれた蒼い焔が着弾する前に、ドギュッッ!! とまるでロケットが発射されたような音を残し、龍の手から射出された。
ドドドドドドッッ!! と《葬送の機雷》が触れる都度に小爆発を起こし、その巨大な体積を削って削って削り取った───しかし、それでも残った土の円錐の勢いは完全には殺し切れず、プルミーは咄嗟に人造魔剣───イミテイションゴールドを抜き、
「アアアアッッッ!!!」
裂帛の気合と共に投擲した。
黄金の刀身を持つ魔剣はトップスピードのまま土の円錐へと突き刺さり───爆発───ガラガラという岩の崩れ落ちる音を残し───貫通───さらにはその先の《三つ首の液体龍》へと突き刺さった───瞬間───「《開放》ッッ」───彼女の声によって最大級の爆発が起きたのだった。
後方から、叫び声が聞こえた。爆発の衝撃は馬鹿にはならず、飛び散った礫は殺傷能力を十分に残していた。
「ケガは治せッッ!! 魔力を切らせるなッッ!!」
プルミーは魔力をどこまでも蓄えるというイミテイションゴールドの性質を利用して、一気に解き放つことで魔力爆発を起こした。
斬撃による分割は無効、上級魔法によるリンチも無効、ならばということで用いられたのは、人造魔剣を使い捨てることで発生させた魔力爆発であった。
しかし、
「ギャリリリリリリィィィィィルゥアアアアァァァ!!!」
多少はダメージがあったのか、ぷすぷすと煙を発しながら、それでも五体満足で《三つ首の液体龍》が現れた。
取れる対策が一つずつ削られていく恐怖をプルミーは感じた。
「くそったれッッ! ならッッ!!」
まだ対処法はある!!
「《葬送の機雷》ッッッ!! ッッけぇぇぇぇぇ!!」
まだまだ残されていた蒼い焔が、《三つ首の液体龍》へと放たれた。
《三つ首の液体龍》に攻撃をさせてはいけなかった。一撃が、たったの一撃が非常に強力で、対処を少しでもミスると致命傷になり得る攻撃であった。
「引き続き私が足止めするッッ!! シールダーとヒーラーは不測の事態に備えろッッ!! 魔法使いは私の合図に合わせて各々の持てる最高の魔法を叩き込めッッ!!」
彼女は足止めすると言った。
それはまさにこれから行う一斉攻撃の準備に加えて、足止めすらもしてみせるという宣告であった。
決死の覚悟で相対するプルミー達を嘲笑うかのように《三つ首の液体龍》が直接的に地面の染みにせんと、距離を縮めようと足を踏み出した───直後、
「着火」とプルミーが唱えた。
バガァン!! 大量に配置された蒼い焔の一つが《三つ首の液体龍》に接触し爆発を起こした。すると、体勢を崩し《三つ首の液体龍》がよれた先に───さらに二つの蒼い焔が配置されており───ババガァン!! と再び爆発を起こした。
余裕から一転、怒りに支配された《三つ首の液体龍》が首を持ち上げた───その先にまたもや一つの蒼い焔があり───バガァン!! と爆発を果たした。
プルミーによる《葬送の機雷》の配置と操作は絶妙なものであった。《三つ首の液体龍》が動く先々に配置された、蒼い焔が一呼吸ほどの時間ごとに、何度も何度も、何度も何度も何度も、爆発し続けた。
彼女の時間稼ぎ───それは延々尽きることなく起こり続ける《葬送の機雷》による小規模爆発であった。
小さき者に嬲られた《三つ首の液体龍》は本能からかプライドからか、喉から絶叫を迸らせ───再び《葬送の機雷》と接触し、爆発を起こした。
「知能のないケダモノがッッ」
彼女は残る二本の《イミテイションゴールド》に《三つ首の液体龍》の魔力を纏わりつかせ、手心を加えて投擲した。二本の人造魔剣は絶妙に貫通することも、排出されることもなく、《三つ首の液体龍》の体内に残ったのだった。
「《プロヴォーク》」
彼女の呼び掛けに従い、《魔剣ニーズヘッグ》が光輝き、一張の弓へと姿を変えた。《多重魔力変換型穿光弓形態》───それが《魔剣ニーズヘッグ》のこの形態の呼び名であった。
彼女の背丈を遥かに超えるそれは、『弓』というよりはかつて攻城兵器として用いられた『バリスタ』に近かった。またどこか近未来的であり、またどこか超常の魔術を思わせる、相異なる二つを内包したその姿は、見る者の息を飲ませたのだった。
プルミーによって水平に構えられたそれは、ジジジジという強烈な魔力の迸りと魔力音を立てて、敵を一撃で仕留めんと、彼女の合図を待った。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
『おもしろい!』
『続きが読みたい』
『更新早く』
と思った方は、よろしければブックマークや『☆☆☆☆☆』から評価で応援していただけたら幸いです。
みなさまの応援があればこそ続けることができております。
誤字報告もいつも本当にありがとうございます!!




