第1話 意識
まとめや説明回みたいな感じです
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ヤマダ達は、《封印迷宮》にて人類にはおよそ打倒不可級とされた怪物を次々に葬り去った。
そもそも、彼らが《封印迷宮》にて相対した各階層のボスモンスターは、ヤマダがこの世界に呼び寄せられる元凶となった《新造最難関迷宮》にて、その最奥を護っていたボスモンスター達であった。いや、実際には、件のボスモンスターをさらに強化したものであった。それが四体も現れたのだから《封印迷宮》の危険性もわかろうものである。
このように、人類の天敵であり最悪とされた《封印迷宮》であるが、これらの凶悪なボスモンスター達や、聖女達に芝刈りゲーばりに討ち滅ぼされた無数の骨戦士や屍人を産み出すのに莫大なエネルギーを消費していた。
《封印迷宮》の持つエネルギーは三人の聖騎士達によって日々施される《魔封》によって抑えつけられながらも、長きに渡って土地から吸収したり、人々の恐怖を糧にしたりと、様々な方法によって蓄えられたものであった。
イチローやアンジェリカの推測は正しく、《封印迷宮》は人々の恐怖心を読み取り、その恐怖の象徴たるモンスターを生み出したのであった。飢餓や流行り病による死者、もしくは彼らの納められた墓地に対する人々の恐怖から創られたモンスターこそが骨戦士や屍人であった。
また、今回の《封印迷宮》によって創られた新しいモンスターは《液状生命体》であった。これらは人々がやむ気配のない長きに渡る雨や、それによって引き起こされる水害に対する恐怖を読み取った結果生み出されたモンスターであった。
さらに言えば、ヤマダが降した《水晶のヒトガタ改》の液状化能力もその副産物のようなものであった。
これまでに述べたように、《封印迷宮》は人々の恐怖を読み取っている───ということは、つまり、《封印迷宮》自身に《意識》、もしくはそれに類するものがあるということであった。
そして、封印迷宮を駆け回るイチロー達に対し、この《意識》は徐々に危機感を募らせていた。
《意識》の用意したボスは《水晶のヒトガタ改》、《天使改》、《龍骨剣士》、《超高速の剣劇改》の四体であった。いずれもが、一体で国を壊滅せしめることが可能なほどのモンスターである。
《封印迷宮》に足を踏み入れた悲しき生贄達から読み取りし恐怖心を元にして創られたモンスター達であったが、これらがたったの数日間で蹂躙され滅ぼされたのだから、《封印迷宮》としても、これから靄の数をもっと増やして、イチロー達の言うところの《トークン》や《ジェネレイター》の数を増やしてこうとしたその矢先のことであり出鼻を挫かれた───いや、そんな生半可な被害ではなかった。
実際のところ、《封印迷宮》の《意識》はイチロー達に踏破され、滅ぼされる危険性を感じたのであった。
主戦力である聖騎士と彼の師匠たる女性も、名だたる凶悪なボスモンスターをほぼ無傷で切り抜けたのだ。《意識》がそう感じたとしても何も不思議はなかった。
そして何より、《意識》は手をこまねいて、踏破されるのを待つばかりではなかった。
《封印迷宮》には逃走経路が用意されていた。
《意識》は誰にも気付かれないよう、静かに、そして確実に地脈を掘り進めていたのだった。自身を成長させるに足る、力の豊潤な土地を探すため、そして何より、自らを脅かす者が現れた場合すぐさま離脱するために───
こうして、《封印迷宮》によって掘られた地脈は、ノーブルからバーチャス、バーチャスからアロガンス、アロガンスからバーチャスへと繋がることとなった。
ヤマダ達がボスを倒すにつれ、《封印迷宮》は自身の存続を掛けた保険の為にも、己の力を地脈により移動させ続けた。
《封印迷宮》は、残された力をバーチャスとアロガンスの二箇所に分散させるとなると、自身が完全に討伐されてしまうリスクが大きいことに懸念を抱いた。
そのため、《封印迷宮》の《意識》は二つに一つの選択によって選ばれた避難先に、残された全ての力を送ることを決めたのであった。
そしてそれは、バーチャスにて、はっきりとした影響を及ぼしたのだった。
◇◇◇
時は遡り、スクルドの街のギルドにて、プルミー・エン・ダイナストが多くの猛者を前にして、これからの戦闘に関する会議を終えた頃に戻る。
残り二人の聖騎士さんの名前と封印のアイテムが全く出てないのは不自然だったので、過去の分から遡って明らかにさせてもらいました。
出番もあれだし、明記しなくてもいいかと思ったのですが……
それから、プルミーさんがいる街の名前も明らかになりました。これも遡って記載してますのであしからず……