第56話 救済③(vs《封印迷宮第四階層守護者β》)
◇◇◇
───ぶぉんぶぉんぶぉん。
三人が進むとぷかぷかと浮遊する宝剣が姿を現した。
眼前のモンスターこそが、ヤマダが、自身がこれまで戦った中でも最強候補の一角であると評するボスモンスター───《超高速の剣劇》であった。
《超高速の剣劇》の鳴動が大気を震わせた。これまで聞いてきたどんな獰猛なモンスターの雄叫びよりも恐ろしいものだった。三人は身体の芯から揺さぶられた。
しかし彼女達はすぐさま、それぞれが挫けそうな己の心を奮い立たせ、何とかして冷静でいるように努めた。
聖女ミカとアンジェリカは改めて目の前のモンスターを見やった。その姿はかつての宝剣と同様のものであったが、放たれる輝きは桁違いものであった。
「来るわッッ!!」
声を上げたのはアンジェリカだった。
それが戦闘の始まりの合図であった。
空気を切り裂く音を立て、凶刃は三人へと迫った。
予想通りの行動パターンであった。
宝剣に対する三人の作戦は、一つ一つの行為が命懸けであるという点を考えなければ、それほど複雑ではない。
六枚刃の姿でなくとも、宝剣の飛行速度は常軌を逸したものであった。アシュリーが前に出た。一直線に襲い来る宝剣の突き刺しを、聖盾によって弾いて押し込んだのだった。
作戦は単純明快だった。アシュリーが盾で、そしてミカが結界で護りを固め、アンジェリカが《反射鏡》の発動準備を整え、光線の射出に合わせて術を発動させるといったものであった。
「フッッ!!」と息を吐き、アシュリーが《超高速の剣劇》の斬撃を何度も器用にいなした。
世界でも有数の堅牢さを持つアシュリーの盾捌きは別格であった。しかし《超高速の剣劇》は蛇のような執拗さで彼女を攻めた。何度アシュリーに弾かれても、受け流されても、いなされても、斬撃の速度と勢いは全く衰えさせることなく、幾度となく三人へと斬り掛かり続けた。
次第に、さすがのアシュリーも全てを防ぐことがあたわず。ついにその刃は彼女へと届いた。切っ先は彼女の鎧を切り裂き───ということはなかった。
幾度となく防ぐ内に、刃が届くことは織り込み済み。
既にアシュリーは、《全強化+》、《守護神》、《我が身は盾である》の三つのスキルを発動させていた。
理由はそれだけではない。
聖女ミカによる結界が用意されていた。
それもこれまでのような単なる壁としての平面上のものや、パーティを包む半球上のものではない、三人の身体にフィットするように極限までに圧縮された結界であった。この土壇場で限りなく高い難易度の結界であったが、聖女ミカ自身の申し出によって作戦に組み込まれた。
本来であれば、アシュリーの鎧を切り裂いて、柔肌まで到達し得る斬撃であったが、戦いの前に立てられた綿密な作戦が効を奏した。
アシュリーと聖女ミカは、背中に触れるアンジェリカの手を感じた。二人はアンジェリカの必死の詠唱と共に、彼女によって通された魔力通路を通して、自身の魔力が動かされているのを感じた。
「焦らなくて良い」とアシュリーがアンジェリカへと声を掛けた。
宝剣は、自身の切っ先が三人の柔肌に届かないことなぞお構いなしに、さらに浮遊───否、飛行速度を上げた。その動きは三人の死角を探っているように思われた。そしてそれは実際に間違いではなかった。
《超高速の剣劇》は彼女達の背後を狙い、それまで以上に縦横無尽に飛び回ったのだった。
「くッッ!!」
するとこれまで弾き返せていた宝剣の斬撃が、ついにはアシュリーの盾捌きを上回った。
けれど、アシュリーは二人へと声を上げた。
「貴女達は私が護るから大丈夫だ!!」
これよりアシュリーは、自身の盾の及ばぬ斬撃は、己の身体で流して受けた。しかし、宝剣の飛行速度の上昇に伴い、その斬撃は威力を増していた。アシュリーの鎧に徐々にではあるが、大きな傷が走り始めた。鎧が損壊し、凶刃が彼女の肉体へ到達するのも、そう遠くない未来であった。
それでも怯まずにアシュリーは身を挺して二人の前に立ち続けた。
「アンジェリカさん、急いで」
聖女ミカがアンジェリカに急ぐように告げた。
状況は拮抗とは言い切れなかった。それでも宝剣がこのままのペースで三人を葬り去るにはしばし時間を要するのは明白であった。
だから宝剣が焦れたのか前回よりも早い段階で───
「来るわッッッ!!!」
聖女ミカが叫んだ。
───ぶぉんぶぉんぶぉんぶぉん
宝剣は飛行による斬撃をやめ、その場にふよふよと浮遊し始めた。宝剣の鳴動は激しさを増し、刀身は目を焼かんばかりに輝き、明滅を繰り返した。
宝剣はまさに今、巨大なエネルギーを産み出し蓄えているのだ。
三人はその切っ先に、莫大なエネルギーが集中するのを感じた。
「アンジェリカさんッッ!!」
聖女ミカが叫んだその瞬間。
宝剣の切っ先から、極太のエネルギーの奔流が解き放たれた。
視界が光に覆われ、三人が光に飲み込まれ消滅する───その寸前、
「《反射鏡》」
魔法使いアンジェリカから力ある声が響いた。
三人の前に朝霧を思わせる粒子が現れて煌めいた。
その刹那、三人に襲い掛かった光線は向きを180°変え、《超高速の剣劇》を飲み込んだ。エネルギーの奔流はそれでも力を余らせ周囲をさらに抉り取り、大爆発を巻き起こしたのだった。
「ふぅー、さすが賢者アンジェリカ」
「アンジェリカさん、もう駄目かと思って肝を冷やしました……」
アシュリーとミカが思い思いに言葉を発したのだった。しかし声を掛けられたアンジェリカの表情に一切の喜色が見られない。
「そんな顔してどうしたんだ?」
アシュリーの問いに、
「二人共、戦闘は継続。第二ラウンドの始まりよ」
アンジェリカが答えた。
彼女の視線の先───爆炎が晴れたそこには、六枚の刃へと姿を変えた《超高速の剣劇》が浮遊していたのだった。
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それにいつも誤字報告毎回本当にありがとうございます!
これで終わるはずないですよねーというお話でした
多分ちょいちょい修正しますが本筋は同じです
あしからず
次が………




