第45話 vs 《封印迷宮第四階層守護者α》②
○○○
「エリスッッ!!」
人の生死の掛かった瞬間ゆえか、それとも脳が《瞬動》に慣れて引き起こされたものか、《業無し》が振り上げたコピーグラムがスローモーションに映った。
《瞬動》や《超光速戦闘形態》の発動はもう間に合わない。
不覚にも《業無し》がエリスの極意を用いるという状況に俺は、初動の数コマを失したのだった。
「楽しかったですよ」
《業無し》がニヒルな笑みを浮かべた。
誰かエリスをッ! 誰かッッ!!
彼がとどめを刺さんと剣を強く握ったのがわかった。
俺は声なき声で叫んだ。
振りおろさんとする筋肉の動きまでもがはっきり見えた。
誰でもいい!!エリスを助けてくれッッ!
極限状態で、何故かふと心に浮かんだのは、
───《護剣リファイア》
かつての俺の相棒の名前だった。
俺がその名を心に想起した───瞬間、エリスの腰の聖剣から激しいけれどどこか温かくもある光が発せられた。
○○○
至近距離からの強烈な光に目をやられた《業無し》。
一瞬たりとも無駄にはできなかった。
この時間こそがかつての相棒が俺に与えてくれたものであった。
俺はすかさずにエリスと《業無し》の間へと滑り込んだのだった。
「目が戻るまで待つ」
エリスは恐怖と興奮とで動けずにいた。
そんな背後の彼女を少しでも後ろに押しやるように、《業無し》と距離を取った。
「ぐぅ……」と目を押さえた《業無し》が怒りを噛み殺すように呻いた。
俺は彼へと告げた。
「気に入らないだろうが、俺から提案がある」
彼はようやく視力が戻るも、射殺さんばかりの様子で、赤く充血した目を俺達へと向け、俺からの提案を待たずに声を荒らげた。
「まさか崇高な戦いに水を差すとは思いませんでしたよ。貴方達はその辺の十把一絡げの剣士モドキとは違い、僕と同じく誇り高き剣士だと思ってましたけどねぇ」
ヒエーーッ!! 彼の金髪が怒りで逆立った。
何が義理人情の代名詞だよ!!
剣持ったら別人じゃねぇか!!
何なの? サイコパスなの? バーサーカーなの?
それによ───
「そもそも殺し合いに崇高もクソもねぇよ。バカヤロー」
「あるッ!! 刹那のやり取りこそがッ!! 剣士の本懐ッッ!! 己の生活を神経を五感を生命を全てを剣に注ぎ込むッッ! そうして出来た剣技という名の高純度な結晶ッッ! それこそがッッ!! 剣士の生き様ッッ!! 剣に生きッッ!! 剣に死ぬッッ!! そうあるべきという本願ッッ!! それを汚したお前達はもはや剣士ではないッッ!!」
やべーよ! やべーよ!
ガチギレじゃん!! キレ過ぎて目つきヤベーことになってるよ! 地上波放送禁止不可避だよ!!
「俺はお前の反対を受け付けるつもりはねぇ」
そうだ。俺にだって言い分はあるのだ。
「ならよ、俺だって言わせてもらう。
お前がさっき目を押さえて行動出来なかった時間───それほど長くはなかったけどよ、それでも俺なら少なく見積もって十回は真っ二つに出来たぜ?」
真っ赤な大嘘であった。
「クッ……クク」と彼は呻き顔を左手で覆った。全くもってサイコパス的仕草であった。
そもそもあの場面で彼を攻撃する心的余裕なぞ1ミクロンもなかった。けど大体こういうときには盛りに盛ったハッタリをこれでもかとかましてやるのが一番効果的だったりするのだ。
「わかりました。良いでしょう」
よし! 了承しやがった!
と思ったのもつかの間、
「良いでしょう良いでしょう。良いでしょう。良いでしょう良いでしょう良いでしょう」
ヒョエエエエーーー!!
その顔は良いでしょうという表情じゃねぇよ!!
けど何とか言質は取れた……だから俺も、もうこれ以上はとやかく言わせるつもりはないのだ。
「選手交代だ」
エリスが無意識からか俺の服の裾を掴んでいた。
「エリス、お前だってあそこで《諸刃の極み》を使ってれば……」
たまらずにそう声を掛けた俺に、
「駄目なのです……私には、もう、もう……」
悲痛な声を漏らしたのだった。
俺が掛ける言葉は、ない。
けど、だからこそ、俺の全てを見せつけてやるのだ。
それで何が変わるかわからない。
だけど───
「下がって見てろ。こっからは先は俺とアイツのタイマンだ」
俺は剣───リプリントグラムを抜き放ち、
「いざ、参る」
彼へと告げたのだった。
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