第24話 痾(あ)
少しずつ少しずつ
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中々にしつこい雨であった。
ただそれでも、人員増加があったお陰でそれほど負担が増えたということはなかった。
人員や物資の追加は、アノンから聞かされた翌日にはおこなわれた。もちろん全て一度にというわけではなかったけれど、それでも俺はもっと長い時間を要すると思っていたので感心仕切りであった。
元の世界と違い、こちらでは組織のトップからボトムまでの構造がスマートであることと、トップの権力が圧倒的であることが理由だと思われた。
もちろん良し悪しはあるだろうが、今回に限ってはそれが俺達に味方をしたのだった。
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この日もまた、いつやむんだよという言葉を飲み込み俺達は、靄の討伐に精を出していた。
館に戻ると、アノンから報告があった。
「イチロー、ついにアロガンスとバーチャスにも靄が現れた」
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向こう側にいる、アルカナ王国騎士団やシエスタさん、それにプルミーさんが心配であった。
いくら《新造最難関迷宮》を攻略しようが、俺に出来ることには限界があった。
それは当然であり「お前は何様だ」と自問自答してしまうくらいにはそんなことを考える行為自体が恥ずべきものであった。
けどそれをわかっていてもなお、俺は彼らの安全を願わずにはいられなかった。
○○○
雨が降り始めてもうかれこれ一週間以上か。
人員増加もあったし、何とか余裕をもって乗り切れるだろうと考えていたが、それは甘い見通しであったのだ。
俺達は出撃するたびにずぶ濡れになった。良化しない状況に加えて、増え続ける靄に体力面のみならず精神的にも徐々に削られつつあった。
特に魔法使い職のディーテなどは、見ていて不安になるほどの憔悴ぶりであった。
俺とミロは彼女に数日休むようにと言い聞かせ、気配察知スキル持ちのミロと共に、二人で靄討伐に乗り出したのだった。
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さらに数日が経ち、靄の出現に異変が生じた。
これまでと異なったモンスターが現れるといった報告が挙がったのだ。
靄、屍人、骨戦士の組み合わせがデフォルトであった討伐対象に加え、液体状のモンスターが出現したのだ。
一度報告が挙がってからはすぐであった。
およそほとんどの拠点にてこの液体状のモンスターが見られるようになり、それは俺達も例外ではなかった。
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この液体状のモンスターを《液状生命体》と呼称したい。
とにかくこいつはやっかいなモンスターであった。
液体だからか、無闇矢鱈な剣撃や打撃は全く効果をなさず、その核を破壊するか魔法で消滅させない限り、何度も何度も再生と分裂とを繰り返したのだった。
降り続く雨の中、討伐隊にとって、視界が非常に悪く、核を狙うことは中々に面倒な作業であった。
また雨によって火属性魔法を使うことは躊躇われた。
火属性魔法は、高威力の技が多いので、こいつを制限されることはかなり面倒なことであった。
これは討伐に携わる全てのメンバーにとって非常に大きな負担となった。
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まるで、俺達が苦手意識を覚えることに比例するかのように、《液状生命体》はその数を増やした。
そしてついに、討伐者からさらにやばい報告がもたらされた。
真っ二つに切った屍人がぶにょりと液体状へと変化し、まるで分裂するかのように二体の屍人へと姿を変えたのだそうな。
同様のケースは骨戦士でも見られた。
つまり《液状生命体》の性質を持つ、屍人と骨戦士が見つかったのだ。
魔法が有効であるから良かったようなものの、靄討伐で現れるモンスターが、単純な物理攻撃をほぼ無効化する性質を得たことで、俺達の負担は更に大きなものになった。
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「これは一体どういうことか……。
前回の《封印領域》とは、違い過ぎる───」
センセイが、ぽつりとこぼしたのだった。
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あと数話で三人が出る予定です(予定)
今回は状況説明回でした。




