第14話 スキルとは、職業とは、お前たちは、
割と重要なことを話してます。
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手慣れたもんで、迷宮探索はつつがなく進行した。
六つものダンジョンをクリアしているのだ。
さすがにそろそろレベルの低い罠にも、引っ掛からなくなった。もし引っ掛けても身体能力のゴリ押しで回避することも出来る。
《多腕型》や《動き回る盤面》に多少は苦労したが、基本はエリスの打ち漏らしを俺が仕留めることでダンジョンを進めた。
俺が雑魚狩りしてると、エリスが「はっ!」と短く息を吐き、重量級の盾で押し潰さんとする《狂気の戦車》を唐竹割りで盾ごと断ち割った。
強敵を倒してもそれが当然と言わんばかりに、エリスが息も切らさずに俺の隣へとやってきた。
周囲の気配を伺いながら彼女は俺へと、
「彼らが勇者パーティですか?」
「だな」
「私には彼が勇者だとは到底思えない」
彼女は端麗な顔を少し伏せた。
「気が合うな。同感だよ」
苦笑で答えた俺にも思うところはある。
いや、思うところしかない。
「けど《勇者》ったって、そんなのただ誰かから押し付けられた職業に過ぎないぜ」
「それは、……確かに、」
彼女ははるか後方に位置する勇者たちを一瞥すると、苦しそうに同意した。
「例えば俺は聖騎士だなんて、職業だけどよ、自分が聖なる心? なんてものを持ってるかって聞かれたら迷わずにノーだと答えられるわ」
そうだ。
本当に大事なことが何かだなんて、俺は召喚されてから今この瞬間まで、身を以て知ったではないか。
「大事なのは、この俺達の心の中の、奥深くで燃え盛る、何人たりとも変えることのできない───確固たる己の芯だよ」
エリスは、微笑んだ。
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そう言えば、とエリスは話題を変えるように、
「確か、スキルを持たない名のある剣士も歴史上には存在したと言いますね」
「そういうこともあるだろうよ。スキルがないからといって剣を振ってはいけない、なんてこともねぇしよ」
探索中のダンジョンは《刃の迷宮》といった。
名前にもある通り、刀や剣を持ったソードマン系の人型モンスターが多かった。
「ん、」とエリス。
前方から二メートル半はあるだろう巨体の《六本手の魔鬼》が迫るのが見えた。
六本腕の怪物は、その名の通り、六本の手を持ち、各々の手に業物レベルの六本の剣を持っていたが、彼女は息をするように軽く捌き、ととっとそいつと交差した。
ずしゃりと、その巨体は崩れ落ちた。
転がった肉塊は三十二等分に分割されていた。
俺は頃合いだと思った。
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「エリス!」
俺が名前を呼ぶと、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「褒美をやるよ」
「ほほほほほ、褒美ですか!」
彼女は顔を赤面させた、
「褒美というのは、アレですか!? 私が愛読してる『私の宮廷魔術師様』に度々出てくるあれですか!?」
「なにその本?!」
「『良くできたな、ほら褒美をやろう』
『あ、恥ずかしいです』
『ならやめるか?』
『いや、やめないで……』
『ならわかってるよな。おねだりしろ』」
「お前めっちゃ喋るやん!? 何の本読んじゃってんの?! ってか『おねだりしろ!』って何?!」
「え、おねだりですか? やっぱり、しなきゃダメですか……?」
「違ぇよおおおお!!」
そうじゃねぇんだよ……。
「褒美を……ください」
顔を赤くして、エリスはねだった。
違うんだよなぁ。
そうじゃねぇんだよなぁ。
俺に心を許してくれてるのは嬉しい。
確かにいづれそういう機会が……などと心のどこかで願ってしまっている自分がいたことは否定できない。
けれど、この場はそういう場ではない。
己の気持ちを隠して、彼女にそれを手渡した。
「こいつだよ」
「これは、聖剣……」
俺が、彼女へと渡したのはこれまでの俺の旅を支えてくれた相棒とも言える聖剣だった。
「そうだ。こいつはお前にこそ相応しい」
「いけません! 聖剣は師匠のモノです! 聖剣は師匠にこそ相応しいのです!」
「いいや、剣に全てを捧げるほどに思い焦がれた、お前にこそ───エリス・グラディウスにこそ、この聖剣は相応しい!」
まだ何か言い募ろうとするエリスの肩に手をやり、
「こいつがあってもなくても、俺達は師弟だ。それも超超超スーパー深い関係のな。だろ?」
俺の言葉に、聖剣を胸に涙した彼女は、
「ししょお……」と俺に抱き付いてきた。
ポンコツさと静謐さを兼ね備えたエリスはやっぱり魅力的だった。
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《刃の迷宮》の最深部。そのダンジョンボスを守るように鎮座していたのは《動き回る盤面》のラストナンバーたる《神石の女王》だった。
エリスには荷が重いか、そう思ったものの全くの取り越し苦労だった。《神石の女王》の《神石》の鞭──エリスがそれらを軽く捌くと、千切りにされたかのようにボロロロと地面を転がった。
そして、敵が狼狽え、一歩下がったその瞬間、エリスが野菜でも切るみたいに《神石の女王》を胴体から真っ二つに叩き切った。
『敵が消滅するまでが剣技なんです!』とはエリスの以前の発言だ。それを証明するかのようにすすす、と何度か剣を振るうと、《神石の女王》は原型を留めないほどの細切れへと姿を変えた。
モンスターの消滅を待って、俺とエリス(+α+β+γ)はダンジョンボスの待ち構える部屋へと、足を進めた。
目の前の風景に俺は目を剥いた。
星空と月明かりが何故か鮮明に俺達を照らした。
視界の先にはどこまでも広がる荒涼とした大地。
そこに突き刺さるは数多の剣。
周囲を警戒しつつ、俺とエリスは最奥に辿り着いた。
そこには強者との戦いを渇望する狂気のモンスターがいた。
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