第20話 小指を繋ぐ
今日2話目です
○○○
俺の答えにプルミーさんが頷いた。
当たり前だ。わかってないわけがない。
この《功績のすり替え》で得をした人物は竜宮院をおいて他はないのだから。
「けど、どうやって……?」
「わからん。考えられるのはスキルか、アイテムか、それとも何らかの規格外の協力者の存在か───」
スキル───
竜宮院のスキルは確か、次の四つだった。
《成長率5倍》《光魔法:極》《限界突破》《勇者の剣》
共に戦うことや訓練すらしなかった竜宮院の能力を、結局のとこ俺は何も知らない。
王城での鑑定時を思い出してみた。
彼のスキル《成長率5倍》と《光魔法:極》に関しては、俺の持つスキル《成長率3倍》と《光魔法:大》の完全上位互換であった。
当時、アイツのドヤ顔に悔しい思いをしたが、今の俺の光魔法スキルは《光魔法:極++》へと成長したので、多少なりとも溜飲を下げたと言える。
問題は《限界突破》と《勇者の剣》の二つのスキルだ。王城でスキルの説明を受けたときにも、この二つのスキルに関しては詳細不明だと告げられたのだった。
また同様に、俺のスキルである《ログ》と《スキルディフェンダー》に関しても詳細不明であった。
ただ、名称から想像がつくことはある。
俺の《ログ》なんぞはてんで意味不明のスキルだけど、《スキルディフェンダー》は、その名の通り敵のスキルから身を護ってくれるスキルなのかもしれない。
うん、そのままだこれ。
竜宮院の《限界突破》にしても潜在能力の開放であったり、普段は無意識にセーブしているリミッターを解除するスキルだったりするだろう。
こいつは勇者や魔王が登場人物のネット小説でよく目にするスキルだったりする。
物語の勇者が追い詰められたときにこいつを用いることによって、それまでの劣勢が嘘のように無双をかますのだ。
ならやはり怪しいのは、想像もつかない《勇者の剣》か───?
プルミーさんに、俺のスキル考察を聞いてもらい、彼女に意見を求めた。
○○○
視線を落とし腕を組んだ彼女が、やがて声を発した。
「わからない」
わからんのかい!───とツッコミを入れようとしたが、彼女が話を続けたので控えることとなった。
「スキルに関して我々にはわかっていることが少なすぎる。アイテムにしてもそうだ。《願いの宝珠》などというバカげた効力を発揮するアイテムも存在する。
そしてさっきイチローくんが見せてくれた《絶対零度の波紋》にしてもそうだ。残念ながら私達の知らないことというのは確かに存在する」
だから、と彼女は続けた。
「手段の考察は確かに必要だ。けれど、君にも、私にも、そしてオーミ様にとっても、これは初めての状況なんだ。だから最も必要なことは、わかっていることを整理し共有することと、これから私達はどう動くべきかを考えることだ」
なるほど。さすがは人生の先輩。
俺も彼女の意見には全面的に賛成だった。
○○○
彼女との話しは有意義だった。
暫定的なものではあるが、何らかの力を行使したのは竜宮院(もしくは彼の協力者)であるとし、その方法は不明のままとした。
こいつによって引き起こされた影響は《俺の立場》と《竜宮院の立場》が入れ替わり、《俺の功績》が竜宮院のものとなり《竜宮院の愚行》が俺のものとなったことだ。
その力は凄まじく、俺を元から知っていた人物の記憶の書き換えのみならず、俺と竜宮院に関する書類などの記録の全てが、すべての辻褄を合わせるかのように修正されていたのだそうだ。
どうすれば対処出来るのか?
発動条件はなんなのか?
考えだしたらキリがなかった。
残念ながら俺達に判明していることは少ない。
情報が少な過ぎるのだ。
ただ───、
「私の身内に一人、何でも知ってる人物がいる」
何でも?
「そう、なんでも。
ただ彼女は引き籠もりで放浪癖の持ち主だから、今も里にいるかはわからないが……」
引き籠もりで、放浪癖?
相反するパーソナリティに俺が首を傾げていると、それを察したプルミーさんが説明してくれた。
「引き籠もるときは何年でも何十年でも構わずに引き籠もる生粋のインドアのくせに、何かを切っ掛けに外に飛び出したら何年も何十年も実家に寄り付きもしない、そんなサイクルをこれまでずっと繰り返してきた変人さ」
ほぇー、そんな変わった人がいるんだなぁ。
エルフの人生のスケールマジヤベぇわ!
などと、感嘆の声を上げていると、
「もし、今回の封印領域の件が片付いて、彼女が里に戻ってることが確認出来たら、良ければイチローくん、私の里に一緒に行ってみないかい?」
唐突な『エルフの里』とかいうファンタジーワードにはやる心を抑えきれず、俺は二つ返事で頷いたのだった。
○○○
彼女とのお話は楽しかった。
けれどプルミーさんと俺とを繋ぐ思い出話のそこここにアンジェの影があった。
彼女の名が出るたび俺の胸が軋んだ。
そしてそれと同様に、プルミーさんもその端正な顔をくしゃりと歪めた。
その顔を見て俺は後悔した。
バカヤロー、とアンジェを叱るべきだったのだ。
どうして帰らないんだと問い詰めて、無理やりにでもプルミーさんの元へ帰らせるべきだったのだ。
どうしても過ぎ去った過去は変えられない。
○○○
さて、夜は更け、話も終わりに差し掛かろうとしていた。
ちょうどそのとき俺は悪夢をみたことを思い出した。
それをどうやって知らせるか頭を悩ませた結果、「貴女の身に何か起こるような、そんな嫌な予感がする」と伝えたのだった。
「ははっ! 大丈夫だイチローくん! 私は絶対に負けやしない! だって無事にこの難局を乗り越えて君に会わないといけないんだからな!」
紙の様に白かった彼女の頬に、紅が差した。
「イチローくん───君こそ、この戦の中心地にいる。私も君の無事を願ってる」
なら、と俺は彼女に小指を見せた。
「プルミーさんも、小指を見せてください」
彼女も少し逡巡しこちらへと小指を見せた。
「俺の国に、約束するときは、小指を繋ぐという習慣があります。離れているから本当に繋ぐわけではありませんが───」
「ああ、いいな、これ」
「約束ですよ」
「ああ、約束だ」
距離も何もかもを飛び越えて、俺達はこのとき、確かに小指を繋いだのだった。
○○○
そうして俺達は、お互いの無事を願い合い、話を終えた。
○○○
まだ集合までに余裕があったので、プルミーさんとの話を反芻しつつ、俺はベッドに横になった。
そしてその日、三度目の夢が訪れたのだった。
○○○
プルミーさんの様子はこれまでの夢とは明らかに異なっていた。
まずはその装備がガラリと変わった。
今回彼女が装着していたのは、いづれもそれぞれが干渉しない肩、首、肘、膝、手首に分割された鎧であった。
またこれらは拳打を用いる彼女の、己の動きが阻害されないようにというコンセプトのもとに選ばれたのだろう。
そしてそのどれもが《伝説話級武具》以上の業物と思えた。
武器についても大きな変化が見られた。
専用のベルトに装着されたのは、同一の四つの魔剣と魔杖であった。
四つの魔剣からも、魔杖からも、計り知れない威圧感を覚えた。こちらもただのレア武器───というわけではなく、《伝説話級武具》レベルの武器に違いなかった。
武器に防具にと、まさに完全武装の彼女はさながらフルアーマープルミーさんであった。
そしてそれ以上に、彼女から放たれる闘気が、表情が、風格が───彼女の存在感その全てが、前回の夢とは桁違いであった。
「イチローくんと約束をしたんだ……」
彼女は何かを呟き、駆け出した。
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