第19話 せーのっ
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「この世界で、今、勇者リューグーインが為したとされている功績のその全ては、聖騎士ヤマダイチロー、つまり君が為したものじゃないのか?」
センセイからある程度は聞き及んでいたものの、いきなりのストレートな質問であった。
それに対する俺の答えは───
「そうですね。貴女の言うとおりです。
七つの《新造最難関迷宮》をクリアしたのは俺です」
隠し立てする必要は、ない。
俺の告白を聞いたプルミーさんが、目を閉じた。
その姿は何かを考え込んでるようだった。
やがて、目を開けると、
「こんなことをお願いするのは、非常に失礼なことだと思う。何か、私にもわかる、迷宮踏破の証を見せてはもらえないか?」
急に言われてもよぉ……、こんなの迷うじゃん。
んー、何がいいのやら───
やっぱりここはすっげぇお宝を見せるのがわかりやすいか?
いや、それじゃアイテム鑑定士でないとわからないかな?
武芸百般に優れた彼女なら───
「プルミーさん、見ててください」
俺はマジックバッグから適当なサイズの魔石を取り出した。そうして、彼女が頷くのを確認し、魔石を親指で宙へと弾いた。
「《瞬動》」
光速に達した俺の拳が、落下した魔石を一瞬の内に粉々に砕いた。
「私の目で、追えなかった───」
戦慄いたプルミーさんが吐露したのだった。
○○○
何でも、プルミーさんは動体視力の優れたエルフの中でも、特に優れた人物なのだそうだ。
そんな彼女をもってしても、目で追うどころか、何がどうなったのかすら全く認識出来なかったのだという。
「いや、イチローくん、凄かったよ。おもしろいものを見せてもらった」
こうして彼女は俺こそが本来の《新造最難関迷宮》の踏破者であると認識したのだった。
「あーよかったぁー! この技で認めてくれなかったら、とっておきのアイテムを見せなきゃいけないところでしたよ!」
俺の溜息混じりのボヤキにプルミーさんが興味深そうに俺に問うた。
「ちなみにそのアイテムとやらはどんなものなんだい?」
俺は、マジックバッグに手を突っ込んだ。
しばしガサゴソと漁ったあと、白い炎の灯ったランタンに似た容器のアイテムを取り出した。
テテレテッテレー!!
「これは《氷の迷宮》を攻略したときに得た《絶対零度の波紋》というアイテムです」
こいつは、鑑定した上級アイテム鑑定士が思わず失禁してしまったほどにヤベェ代物だったりする。
曰く『このアイテムを用いることで、アイテムを中心とした任意の半径の空間を絶対零度の氷獄空間と化すことが可能である』そうな。
俺がその入手時期や場所やその効果を説明していると、
「イチローくん、ちょっと、すまない。その災害級のアイテム何? 氷獄空間って何? 大地が死滅するぞ! 滅びるぞ!
それは絶対に封印しろよ! 絶対だぞ、絶対!」
わかりました、わかりましたよと相槌を打った俺。
最後の念押しは逆に使用しろというフリだろう。そうに違いない。
いつか俺は、ボス部屋の外から、そのまま部屋に入らずにこいつを放り込んで発動させたあとで、扉を閉めてやろう、などと決意を新たにしたのだった。
俺が《絶対零度の波紋》をはじめとした、その他のデッドストック状態の他のアイテムの使い道に思いを馳せていると、
プルミーさんは、気が抜けたのか、
「ああ、それにしても、よかった……よかった」と呟いたのだった。
そして、彼女はそのまま机に突っ伏し、動かなくなってしまったのだった。
俺は彼女が再起動するのを待った。
待ったのだが……。
やがて、すー、すー、という空気の抜ける音が聴こえた。
これどう考えても寝息だよね?
「もし、プルミーさん?」
「ッッ!!」
俺の呼び掛けで彼女はバッと面を上げたのだった。
「寝てました?」
「寝てない」
「いや、寝てましたよね?」
「寝てないさ」
「いや、寝てないさ、じゃないですよね?」
「寝てたという事実はない」
「寝てたよォォォォォ! もう認めろよォォォォ!」
「起き抜けに大声を出されると、頭に響く」
「やっぱり寝てたんじゃねぇか!!」
彼女は口の端から零れ落ちそうなよだれをズビビと服の袖で拭ったのだった。
「寝てなかったんですよね? なら仕方ありません。お互いにちょっとコーヒーでも持ち寄って、話を続けませんか?」
俺は、そう提案したのだった。
○○○
プルミーさんとはお互いに、《光の迷宮》攻略からこれまでに何があったのかお互いに話し合った。
その中にはもちろん、あの三人のことも含まれていた。アンジェのくだりではプルミーさんが、ほろりほろりと涙を流して俺へと謝罪し、それを俺が「貴女のせいではない」と伝えることでやめさせたりと、ちょっとした一悶着があったりした。
プルミーさんも、彼女の身に何が起こったのか説明してくれた。
彼女が自身の記憶に違和感を覚えたのは、ちょうど俺が《刃の迷宮》をクリアし、パーティから抜けた時期だそうだ。その後に自分が二通りの記憶を保持しているだけでなく、彼女以外の全ての人間の記憶が《全ての功績は竜宮院である》という偽の記憶にすり替わっていることに気付いたのだった。
彼女がフットワークの軽い宰相に俺にした質問と同様の質問をしたエピソードは涙無しには聞けないものであった。
そうしたエピソードのみならず、彼女が徐々に精神的に追い詰められていく過程は、聞いているだけで胸が痛くなるものだった。
「いったい何が起きたのか、イチローくんには心当たりはあるかい?」
プルミーさんが俺へと問い掛けた。
当然であるが、俺が《刃の迷宮》を攻略した時期に、何らかの力が働いたに違いなかった。
そして、心当たりなぞ一つしかなかった。
俺に尋ねたプルミーさんも、間違いなくそれこそが答えだと理解しているはずだった。
「これはもう、竜宮院が何かをした───ということ以外考えられませんよね」
俺は、そう答えたのだった。
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