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第18話 レーザービーム

○○○



 それからも俺は(フォグ)の討伐をこなしつつ、パーティの二人とも少しずつ親睦を深めていった。

 気掛かりは、ついに俺達も骨戦士や屍人(グール)が闊歩してるのを発見したり、(フォグ)との遭遇回数が体感できるレベルで上がったことだった。


 そうこうしていくうちに、毎日が慌ただしく過ぎていったのだった。


 そんな中でプルミーさんが夢に出たことは───あれはただの夢だったんだろう、と自分自身を納得させようとしていた。


 

 何よりこの夢というのが厄介だ。

 だって他人の夢の話が世界で一番くだらないという通説も存在するのだ。

 おいそれと他人に「俺はこんな悪夢をみたんだぜ」などと話してしまっても良いものだろうか?


 他人からすれば夢を見たからどうなんだって話だ。

 俺が嫌な予感がするんだと訴えても、それが正夢かどうか判明するのは全てのことが済んでからになる。

 それに何も起きなければ俺はただの不謹慎なオカルト野郎である。



 やっぱり、そもそも、夢は単なる夢である可能性の方が高いのだ。

 夢を見たからといって、それがこれから起こることの予兆である可能性がどのくらいのものか───。



 などと、プルミーさんの夢を単なる悪い夢であったと完全に割り切ろうと心に決めた───その日の夜であった。



○○○



 結論から言うと、再び悪夢を見たのだった。

 内容はもちろん先日と同様のものだった。


 戦線を維持するために奮闘し、退却の判断と共に殿(しんがり)を務めるプルミーさん。

 彼女は全てを守るべく奮闘した。

 けれどやはりそれは叶うことなく───相手を道連れに光の中へと消えたのだった。

 

 彼女の凄惨な終わりを二度も夢みた俺は、ついにセンセイへと相談することを決めたのだった。



○○○



「センセイ少し良いですか?」


 ここ十日間ほど(フォグ)の討伐をこなした俺は、ちょうどその日が休息日であったことに胸を撫で下ろした。

 センセイは俺のような実働部隊ではなく、長遠距離の(フォグ)の気配を探れるということで、アシュリーの屋敷からの指示役に徹していた。


「うん? どしたムコ殿」と答えたセンセイ。

 彼女を前にして、俺は肚をくくった。

 ここでは言えない話があるとセンセイを俺の部屋へと引き入れたのだった。 


「センセイ……これから俺が言うことは、もしかすると俺の戯言(たわごと)かもしれません」


 こういうのを予防線というのか───自分のみっともなさが嫌になる。

 センセイは椅子よりも楽だとベッドにどかりと腰を降ろした。彼女は黙って俺の話に耳を傾けた。


 俺はセンセイへと、二回もみた悪夢の話を───プルミーさんが何らかの強敵を相手に散ったという話を伝えた。


 センセイは「うむー」と考え込み、


「我の方にも、まずはムコ殿には言わねばならんことがある」


 彼女は神妙な面持ちで語り始めた。


「会議でプルを見たとき、どことなくあやつに元気がないと思うとった。だからその夜にあやつと話したとき、近況報告なんかを手早く済ませての、我はあやつに浮かない顔の原因を問うた」


「はい」


「最初はあやつも口を噤んでおってな。けれど表情から葛藤が見えた。あやつが口を割るまで何度も何度も問うた。そうしてやっとの思いで、訳を話してくれんじゃ」


 俺に言わねばならぬ話なら俺に関係するのだろう。

 センセイのことだから、変な話ではないと信じているが……。


「ムコ殿。何だかおかしなことになっておるぞ」


 センセイが眉を(しか)めた。


「どうもの、お主の功績───不倒であった迷宮攻略の実績そのものが、勇者のものになっておるようじゃ」




○○○



 そんなのは知っていた。

《刃の迷宮》を攻略し、俺がパーティを抜けたあと、竜宮院によって行われた施策によって、これまで勇者によって七つもの《新造最難関迷宮》が攻略されたのだと、国民に大々的に発表された。


 それと同時に、それまで足を引っ張るだけ引っ張った聖騎士は逃亡し、卑怯者の痴れ者の代名詞として今なお民の間で噂されているのだった。


 少し大き目の酒場にでも行けば、吟遊詩人が当時の竜宮院の報告した通りのストーリーを高らかに歌い上げ、それに歓声を飛ばす民の姿が見られるだろう。


 他にも、大劇場に足を運べば、勇者プレゼンツのいくつかの舞台を観ることが出来る。


 その中には、俺がミランと見たものをはじめとした複数の演目があり、そのいずれでも竜宮院は思慮深く、思いやりがあり才能あふれる青年として描かれ、逆に聖騎士は徹底的に怠惰で浪費家で性にだらしない卑怯者として描かれている。


 自分で言ってて悔しいけど、こればかりはもうどうしようもないんだ。

 その話を、センセイにすると、彼女は首を振った。


「そうじゃない……そうじゃないんじゃ」


「そうじゃない?」


「うむ。正直に言うと我にも全くわからん。

 プルの言うところによれば、イチローのこれまで成した功績は全て勇者のものとなってて、勇者の侵した愚行は(ぬし)のしたことになっておる」


 だから、それは───


「知っておる、と言いたいんじゃろ?

 けどそうではなくての、これはもっともっと荒唐無稽な話じゃ。

 相手がプルでなければ、信じりゃせん。

 (ぬし)の知っとる王や姫やマディソン坊をはじめとした(ぬし)に関わる全ての人間の記憶や認識だけでなく、書類などにいたるまでの全てのものが、そのように書き換わっとるのだと、プルは言っておった」


「はっ?」


 言葉が理解出来ない。


「聖女。魔法使い。剣聖。

 三人の英雄を導き七つもの未踏破の迷宮を攻略した人物は勇者竜宮院である───という記憶と、」


 センセイの言葉が雪崩れのように俺を苛んだ。


「それらの功績をなしたのは聖騎士イチローであるという記憶の、プルはその二つの記憶を保持しておると言うておった」


 センセイが先程言った通りだ───彼女の話は荒唐無稽という言葉に尽きる。


「正直なところ、こんな話は初めてじゃ。

 それに情報も時間も少な過ぎて、我にも何もわかりゃせんかった。

 けれどムコ殿の見た夢といい、プルの様子といい、このままにしておいて良くないということはわかる」


 センセイは俺に頭を下げた。


「この通りじゃ。一度、プルに会ってやってはくれんか?」


 いろいろと考えるべきことはあった。

 俺は逃亡者扱いされているのだ。もちろんプルミーさんの前に姿を表すことにリスクだってある。

 けれどセンセイに頭を下げられて、断れるわけがないだろう。

 だから俺は、センセイへと頷いたのだった。



○○○




「まさか、会えるとは思わなかったよ」


 センセイとの話し合いをしたその夜のことだ。

 俺は彼女(・・)と話をすべく、映像の魔導機を借り受けたのだった。

 

「君とアンジェが《光の迷宮》を探索すべく、グリンアイズを発ったあの日以来だね」


「お久しぶりです。お元気でしたか?」


 そして俺の目の前に映し出されたのは麗しきエルフ───プルミーさんだった。

 言ってから気付いたが、どう見ても元気そうではなかった。元から白かった肌は病的なまでに白く、明らかに疲弊しているように感じられた。

 

「イチローくん、久しぶりだね。こっちはまあ、ぼちぼちかな」


 彼女は弱々しい笑顔を浮かべた。

 その表情を見て、何かを言い募ろうとした俺に、


「イチローくんが、まさか(しょ)───オーミ様のところにいたとは。さすがオーミ様と言うべきか……。

 積もる話に花を咲かせる前に一つ、君に聞いておかなければならないことがある」


 と、彼女は続け、映像ごしではあるが彼女が喉を鳴らしたのがわかった。

 一度大きく息を吸うと、彼女は真っ直ぐな瞳で───

  


「この世界で、今、勇者リューグーインが為したとされている功績のその全ては、聖騎士ヤマダイチロー、つまり君が為したものじゃないのか?」



 ───俺を射抜いたのだった。



 

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

『おもしろい!』

『早く3人のヒロインだせよ』

『プルミーがんばえー』

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