第1話 補給しました
お久しぶりです
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俺とセナとの星空の下でのやりとりを、戯れに引き裂くが如く現れた不粋で間の読めない人物は、当然のことながらセンセイであった。
彼女はいい雰囲気の俺達二人を見て、イタズラ猫のように何かを閃いた表情を浮かべた、かと思えば、何やら鼻をくんくんと鳴らし始めた。俺達に背を向け、匂いに従いが周囲をうろつくセンセイ。すぐに彼女は、俺達が二人だけでバーベキューした事実を突き止めた。
そしてあろうことか、そのけしからん身体を目いっぱいに揺らして「肉食うたじゃろ! ずるいっ! 我も! 我も!」と地団駄を踏んだのだった。
彼女にとってはイタズラするよりも肉が大事だったようだ。とはいえ俺達も肉を食べ終えたたばかりであったので「また明日しましょう」とやんわりと伝えたのだが無駄であった。
「いやじゃいやじゃ!」
センセイが駄々をこねだしたのだ。
「俺達も食べたばっかしなんで、お願いですから明日にしましょうよ」
駄々をこねても駄目なものは駄目だ。
それではあまりにも可哀想なので、明日しましょうと提示して、お願いまでした俺。
センセイはそんな俺をちらりと一瞥し、
「ずるいのじゃ!」
その場に寝転んで足をじたばたをさせたのだった。
大の大人がとんでもないカッコで駄々をこねる様は中々に見応えがあったというか、あまり見たくないものであったが、交渉のカードとして考えればある意味で破壊力抜群の最強のカードであった。
困った俺はセナを頼るべく彼女へと顔を向けた。
するとセナは「わかったわ」とばかりに頷いた。そしていつもの表情にも関わらず、キレイに親指を立てたサムズアップを見せてくれた。
おお、頼もし過ぎる!
「イチロー、わたし、まだ全然食べられるわ」
あっ(察し)
完全なる挟撃であった。
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そんなこんなもあって、夜の遅くから迅速に動いて再びバーベキューを振る舞うことで、彼女達の要求を満たし、事なきを得たのだった。
非常にわちゃわちゃとした時間だった。
だけど心地よい時間だった。
俺はこの二人と過ごす時間が……何よりも好きだった。
彼女達と出会い、時を過ごしてから、それまでに感じていた───不意に訪れる胸を締めつけるような、自分自身ではどうにも出来ない苦しさを思い出すことはほとんどなかった。
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翌日、昼食を済ませた頃、俺とセンセイは山から再び降りるべく支度をしていた。
セナがいつもの薬袋や、何らかの札や、装飾品などといった謎のアイテム(?)を俺のマジックバッグへとせっせこせっせこと甲斐甲斐しく詰め込んでいるのが印象的であった。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」とは口にしたものの、俺が逆の立場なら絶対に心配するだろうし、案の定セナも俺のことを心配していた。それを肌で感じた。
「それよりムコ殿」
そんな俺の胸中を知ってか知らずかセンセイが俺を呼んだ。
「ここに来る前はあんなに具合悪そうな顔をしとったのに血色が戻っておるではないか」
そうだ。
俺は隠れ山───セナから短くない時を離れたことで、必須栄養素が不足していた。
事実をそのまま彼女達へと伝えると、
「何じゃ? ビタミンCかの? と言っても航海しとったわけじゃあるまいし」
センセイが視線を上へと向けた。
二人を見てると心配になる。
俺の言ってることなんて常識中の常識なのにな。まったく世話が焼けるぜ。
「何って、そんなの決まってるじゃないですか───」
ったく、本当に二人が心配だ。やっぱり二人には俺がいないとなぁ。へへっ。
「セナニウムですよ」
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セナニウムとは眼の前にいるセナという美しくも誇り高く、それでいて優しく気立ての良い麗しき少女と触れ合うことで充填出来る最強栄養素である。
会話をすることでも摂取出来るが、彼女と近くで触れ合うことでより効率的な接種が可能となる。
セナニウムが欠乏することによって山田一郎の忘れ難い心の傷がぱっくりと開き、かつて彼の脳を破壊した記憶がトラウマとなってフラッシュバックしたりする。またそういった症状の副反応として、精神的肉体的な不具合が引き起こされるのだ。
これらの症状は、セナニウムを摂取することで軽減し、改善され、やがては完治される。
またセナニウムを接種することで、精神的にも肉体的にも大幅に強化されることが今現在の調査により判明しており、これからもその効能について調査を続け、摂取量を増やしていきたい。
セナニウムの用法用量に関して、より頻繁にそしてよりたくさん摂取するほど良いとされているため、なるべく欠乏症状に至る前に、多量かつ、高純度、高頻度で摂取することが何よりも推奨される。
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やれやれ。
詳細に説明した俺。
はあ、やっぱり俺ってお節介なのかな?
なのにセンセイは口をぱくぱくさせ「やばいんじゃこれ!」と呟き額に汗を流した。
何がやばいのか?
俺は聞かれたから答えただけなのに。
「あれ? また俺、何かやっちゃいました?」
あれ? また俺、何かやっちゃいました?
「ヒエッ!?」
あれ? また俺、何かやっちゃいました?
センセイが小さく悲鳴を漏らした。
どうしたんですかセンセイ。
大丈夫ですよ。何も問題はありませんよ。
そのはずなのに、何故かセンセイが助けを求めるように、ババっとセナの方を見た。
セナがてててと俺の隣に来てセンセイへと告げた。
「そうだわ。わたしも、イチロイシンを、補給しないと」
ひあーーー! という謎の叫び声が、その日隠れ山に響いたそうな。
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「ごめんなさい。やっぱりすぐには降りられない」
小屋を出た俺とセンセイを見送るべく、外へと出たセナが俺の目を見て言った。
「けれど、イチロー、あなたが危機に陥ったとき、わたしはわたしの全てを賭してあなたを助けるから」
小柄なセナはそのまま、俺の腕を両腕で抱きしめた。
ぷかぷか浮かぶセナの着物も彼女の感情に呼応するように俺の身体を包み込んだのだった。
俺からセナに言えることは多くはなかった。
心配するな、大丈夫だ。
帰ったら、三人でのんびりやろう。
そんな陳腐なことしか言えない自分の口ベタがもどかしかった。
けれど、俺の気持ちを汲んでくれたのか、セナが俺の腕を離し、
「いってらっしゃい、イチロー」
俺を見送ってくれた。
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まずは街へ降り、《旧都》のトーマスと漢臭傭兵団団長の息子であるミロと合流した。
さっそく翼速竜の背に乗り、アシュリーやアノンのいる屋敷へと向かう。
その道中、ミロが何故かセンセイに怯えたり、トーマスがやけにキラキラした瞳を俺に向けてきたり、なんだかんだイベントは尽きなかったが、大事に至ることなく、目的地へと到着を果たしたのであった。
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屋敷へと到着するや否や、有能アノンはさすがに既に多くの段取りを組んでいた。
その中には俺やセンセイがいなくては務まらないものもあった。
特に急務を要したのは、ちょうど今朝目を覚ました《旧都》の副マスターであるクロアからの連絡要請であった。
病み上がりの子供を待たせるのも悪いと、屋敷の中の《連絡の宝珠》のある部屋へと向かったのだった。
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